クラファンやるなら知財を知ろう!【第2回】


前回は、クラファンを開始することで起こりうるリスクについて見てきましたが、以下では、クラファンを開始する前にやっておきたいことについて解説します。

知財の出願を済ませる

クラファンを開始する前に、特許出願、実用新案出願、意匠出願などの出願手続きを済ましておくことをお勧めしておきます。これは、前回解説しましたとおり、クラファンによる公開行為によって新規性がなくなり、特許等が取得できなくなるからです。

新規性がなくなっても新規性喪失の例外規定がありますが、中国等の一定の国では所定の公開行為でしか例外手続手続きを利用できないため、そのような国では特許を取得できないことになります。

海外の出願について

クラファン開始前に、すべての国について特許出願しなければならないかというと、そうではありません。

クラファン開始前にまず日本に特許出願しておけば、その後クラファンにより新規性がなくなっても、日本の特許出願から12ヶ月以内であれば、外国に特許出願することができます(意匠・商標は6ヶ月と特許より短い)。これは「パリ条約上の優先権」と呼ばれる制度を利用したもので、その外国での特許出願において優先権を主張すると、日本の特許出願日を基準として新規性などの条件が判断され、地理的な不利益が生じないようになっております。

このようにクラファン開始前に、少なくとも日本に特許出願しておくことは、とても重要なことだと言えます。

クラファン成功で得た資金を活用して知財出願する場合のデメリット

クラファンで得た資金の一部で特許出願したいという要望はよくあります。資金面ではメリットがありますが、クラファン終了まで特許出願を待たなければいけないため、結果として 特許出願が遅れてしまい、先ほど説明したデメリットが発生してしまいます。

また、特許取得できるかどうかは早いもの勝ちなので、もし同じ時期に同じような発明をした人がいたら、先に特許出願した方に特許権が与えられます。このため、特許取得の機会を逃すことにもつながるかもしれません。

これを解消する方法としては、例えば、かかりつけの弁理士に相談して、費用の支払いをクラファン成功後にしてもらうとか、分割払いにしてもらうと良いかもしれません。これは弁理士との信頼関係がないといけませんが、あらかじめ弁理士に特許出願を依頼する際、有効な手段だと思います。

特許取得、特許出願済で支援者にアピール

また、クラファン開始前に知財の出願を済ませておくメリットとして、支援者にアピールすることができます。

出願が完了していたら「特許出願済」、すでに登録されていたら「特許取得済」などの表示をすることができます。このような表示をすることで支援者に対して、品質が優れている、独自性があるなどをアピールすることができ、クラウドファンディング成功に導くカギとなるかもしれません。

知財調査する

今までは、特許権などの権利を取得する話をしてきました。これからは、他人の特許権などを侵害していないかどうかの話をしてみたいと思います。これはとても重要な話になります。

クラウドファンディングが成功後、その商品を支援者に発送すると、見知らぬ特許権者から特許権を侵害していると言われてしまうかもしれません。その商品が他人の知的財産を侵害していたということです。

このような事態を回避するために、事前にクラファンに出品する商品について、知的財産調査(侵害予防調査)行うことをお勧めします。具体的には技術面・アイデア面では特許・実用新案の調査を行ないます。デザイン面では意匠調査を行います。またすでに商品の名前、ロゴなどが決定している場合、それらが商標に該当するため、商標調査も併せて行うことをお勧めします。

プロジェクトページ、資料、動画など

次に著作権について説明します。プロジェクトに上げる商品だけではなく、プロジェクトの資料・動画などに使われる写真・その他の素材についても、他人の著作権に侵害していないかどうかについてあらかじめ確認しておく必要があります。

特にフリー素材だと思って使用していたところ、実はフリー素材というのは個人的使用に限定されていて商業利用の場合は別途費用が発生するとの注意書きがあることを見落としてしまい、後ほど著作権侵害に当たることもよくあることです。

このため、フリー素材その他の素材を利用する際は、予め素材の規約等を熟読されることお勧めします。

なお、有料素材であっても、使用用途が限定されており、商用利用の際は別途費用が発生する、という利用規定も見受けられますので、有料・無料に限らず、規約の一読をお勧めします。


知財の専門家でなくても、簡単な調査についてはできることがあります。特許、実用新案、意匠などについてはライバル企業の名義で調査、商標については最低限、同一の商標を調査する。著作権については素材の規約を読むなど、可能な限り、リスクを低減できるように心がけたいものです。


ライター

杉浦 健文

パテ兄

特許事務所経営とスタートアップ企業経営の二刀流。

2018年に自らが権利取得に携わった特許技術を、日本の大手IT企業に数千万円で売却するプロジェクトに関わり、その経験をもとに起業。 株式会社白紙とロックの取締役としては、独自のプロダクト開発とそのコア技術の特許取得までを担当し、その特許は国際申請にて米国でも権利を取得、米国にて先行してローンチを果たす。 その後、複数の日本メディアでも取り上げられる。

弁理士としてはスタートアップから大手企業はもちろん、民間企業だけではなく、主婦や個人発明家、大学、公的機関など『発明者の気持ち、事業家の立場』になり、自らの起業経験を生かした「単なる申請業務だけでない、オリジナル性の高い知財コンサル」まで行っている。

■日本弁理士会所属(2018年特許庁審判実務者研究会メンバー)
■株式会社白紙とロック取締役
■知的財産事務所エボリクス代表
■パテント系Youtuber