今さらだけどすごい!130年変わらないコモディティ商品の大変革


先日都内の駅構内で見かけた広告ポスターなのですが、それはそれは久しぶりに感動の商品で立ち止まってしまいました。なんと360度ブラシの歯ブラシじゃないですか。と言っても後で調べるとその商品、もう15年も前から発売しているとかで、累計で2400万本!(2006年1月~2021年1月)を販売、世界14カ国で販売している「360度毛歯ブラシ」です。

マーケティングの世界にいながら知らなかったのが恥ずかしいのですが、皆さんはいかがですか。ご存知でしたか。使ったことありますか。

ちなみに毎日なにげなく使っている歯ブラシが日本で広まったのは1890年。大阪盛業会社が「歯刷子」という名前で発表したものだそうで、歯ブラシという名前で登場したのは1914年にライオンが製造した「万歳歯刷子」(ばんざいはぶらし)が最初で、それ以降「歯ブラシ」とういう名前が使われるようになったようです。

ということは約130年ずっとあの形状だったわけです。現在の主に使われている手動歯ブラシは、毛束の植わってる植毛部(ヘッド)、首部(ネック)、柄部(ハンドル)の3つの部分からなっています。小児用ブラシとか義歯用ブラシとはバリエーションはありますが、130年変わっていません。

日常、ドラッグストアーなどで詳細違いの多くの製品から選び日常なにげなく使っている手動歯ブラシ、典型的なコモディティ商品の一つです。

その市場規模をみてみると、家庭用歯ブラシのみのはっきりしたデータは出てきませんがオーラルケア関連の製品市場は2018年が4,014憶円、2022年には4,344憶円(富士経済調査)に達するとしていて成長が続いている市場です。別のデータで、歯ブラシ市場は約400憶円~500憶円規模でここのところ微減で推移しているようですが、これはコロナ禍でホテルなどの休業やプラスチック製品の有料化などによるものと推測しています。

この360度毛歯ブラシシリーズ。商品名は「ぽぽたん・POPOTAN」として女性用とか子供用などの展開もしている。製造しているのは株式会社STI-IR(スティアー 本社:大阪府東大阪市 代表:樋口真樹)。そのホームページによると、大阪府東大阪で創業以来60年培った技術を結集して生まれてた世界でも珍しい歯ブラシ。質の高い口腔ケアの実現を目標に、世代を問わずだれでも「簡単に」「使いやすく」「ハイレベルな効果」を求め「溶着ブラシ」という新たなジャンルを確立し独自の特許製法である「折り返し製法」により360度大量毛の生成を可能にし、高性能でしかも手軽な価格での商品化を実現している。

もともとこの会社、1952(昭和27)年に創業し、省力化自動機の設計、製造、精密機械部品の加工、組み立てが本業だ。新規事業のアイデアを社内で募ったところ、「歯茎が痛いので気持ちよく歯みがきがしたい。楽にみがけるものはできないか」との提案があり、同社で製造する機械部品に円筒型のブラシがあるため、「これを小さくすれば面白いのでは」と、360度毛がある歯ブラシの開発が始まったとか。

一般的な歯ブラシは毛の束を植毛するが、同社の360度毛歯ブラシは溶着の技術を使ったディス
ク状のシートを積層。製法で特許を取得し、2004年に第1号商品「デントレディアス」(メーカー希望小売価格500円)を発売している。

発明の名称:放射状羽根及びその製造方法(特開2017-12947(P2017-12947A))の代表図面

当初は手作業が多く単価が高かったためあまり売れなかったそうだが、これまで培ってきた金属部品加工や自動機の設計・開発のノウハウを生かし、自社の自動製造ラインで量産化に成功。商品名を「たんぽぽの種」に変え、400円程度で販売できるようになり、2008年にコンビニチェーンで取り扱いを始めたころから360度の歯ブラシが広まってきたという。その後、海外販売も始まり、商品名を「360 do BRUSH」に変えた。

ものづくりはアイデアがあっても製品化となると、市場規模を前提にリーズナブル(reasonable=合理的、適正、納得)な価格を実現しないと事業にはならない。同時に販売方法。この360度毛歯ブラシも発売当初から順風満帆といったわけではなく、何度か商品名を変え、手ごろな価格も実現し15年で今日がある。直近の実勢価格は284円(税別)となっているようだ。価格だけではないが、価格はその製品の価値を考える上もでとても重要なファクターだ。購入者がいちばん敏感なのが価格でもある。

特にものづくりを「モノ=アイデア」から発想し、製品へ、そして商品として市場の評価を得る。いわゆるプロダクトアウトの場合では往々にしてこの360度毛歯ブラシの道をたどることが多い。その場合、やはりロットの関係からの適正価格(価値>価格)実現の壁にあたる。

モノまずありきとは言えアイデアに惚れすぎて、もしくは食品ならその味に惚れ込んで市場での適性価格を見失いがちになる。さらに、いまでは身の回りの多くのモノがコモディティ化し、発明発見型商品はほとんど見られずその多くは改良型商品にとどまって、それゆえ価格訴求に委ねることになっている。モノづくりの成熟化とも言える。

その点、360度毛歯ブラシは、改良を超越して130年続いた歯ブラシの常識を変えてしまった商品である。単に形状を変えたということではなく、歯を磨く、歯石を除く、歯茎をマッサージするという機能の質をしっかり高めている。コモディティ商品での新規参入で一定のシェア獲得にはこれくらいアイデア=発明が欲しいものだ。

だたし、歯ブラシの市場規模を拡大する市場創造するまでの商品ではない。この商品が売れればそれと同じ数だけの他社商品の売上本数が減ることは変わりない。


ライター

渡部茂夫

SHIGEO WATANABE

マーケティングデザイナー、team-Aプロジェクト代表

通販大手千趣会、東京テレビランドを経て2006年独立、“販売と商品の相性” を目線に幅広くダイレクトマーケティングソリューション業務・コンサルティングに従事。 通販業界はもとより広く流通業界及びその周辺分野に広いネットワークを持つ。6次産業化プランナー、機能性表示食品届出指導員。通販検定テキスト、ネットメディアなどの執筆を行う。トレッキングと食べ歩き・ワインが趣味。岡山県生まれ。




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