「いい商品」開発より、売り方との相性を考えた「売りやすい」商品開発


日本中、梅雨入り(北海道を除いて)しましたね。この時期になると庭の草木、雑草は伸び放題であっという間に見苦しくなりますが、草木の生命力を実感します。ちょうどそれに合わせるようにテレビCMでは「伸縮植木バリカン」のショッピング広告が毎年のことですが、やたら目に付くようになってきます、皆さんは印象にありますか。

もうこれはテレビ通販では定番商品ですね。類似品はいくつかありますが、テレビショッピング研究所(本社:東京都大田区 代表:高橋正樹)の「マジックトリマー」(登録商標)が主役です。それほどテレビ広告の出稿量は多くないのですが、この時期に毎年なのでもう頭に刷り込まれています。10年近くなるんじゃないですか、この広告が始まると今年も梅雨入りだって感じがします。

登録番号 : 第5765501号
登録日 : 平成27(2015)年 5月 22日
出願日 : 平成27(2015)年 1月 20日
商標(検索用) : マジックトリマー
権利者  氏名又は名称  株式会社テレビショッピング研究所
【類似群コード】 7   草刈機

こうした草刈機はホームセンターに行くといくつか類似品も並んでいるので、決して目新しいものでもなく、特別な機能もないのですが、夏に向かうこの時期には高いテレビの媒体費を払ってでも成り立っているわけです。そこにインフォマーシャル型通販独特のノウハウがあります。

マーケティングの分野では、「プロダクト(製品:product)」をはじめ「価格(price)」「流通(place)」「販売促進(promotion)」の4つのキーワードが、マーケティング戦略で重視すべきポイント「4P」としてしばしば挙げられ、「プロダクト」は単に「製品そのもの」ではなく「どのような製品(商品)を販売するのか」という方針を指します。それと同時に相応の結果を求めてマーケティング活動するわけです。

つまり結果を求めて、売り方の設定にあった製品の方向性を決めることや、その企画・機能、価格と製造原価率、デザイン、商品名を進めることがポイントです。平たく言えば、発明・発見型の商品でない限り、「売れる」「売りやすい」商品をプロダクトしマーケティングしていくほうが理にかなっています。

数ある草刈り機のなかで、「マジックトリマー」のロングセラーな訳は、ズバリ!まずは草刈り機をテレビメディアで売るという企画ありきということ。そしてその機能のインフォマーシャル表現企画、同時に商品価格とその原価率、中でも抑え込まれた製造原価の実現がプロダクトのキモとなっている。

店頭やネット通販はプル型ですがテレビメディアは最強のプッシュメディア。アオリを強くした映像で商品機能をリアルに表現しプッシュします。いわばショッピングセンターなどで見られる「実演販売」と同じですね。商品の機能=価値を視覚的に示します。みるみるうち雑草を刈り取る「マジックトリマー」。この映像には機能のシズルとしてそそられてしまいます。ホームセンターの棚に陳列してるだけではこうはいきません。

それと同じように、包丁、フライパン、布団圧縮袋、マットレス、マッサージ機などなど。どれも発明・発見型の商材ではないですが、生活のちょっとした困りごと解消商材で、その価値=機能をテレビで映像訴求していくのです。
テレビの特性と映像の特性に相性のいい商品を見極め、その映像演出と価格とタイミング、それで一商品で何十億も何百億にも売り上げる。リピート購入の少ない売りっきりの商材でも成り立ちます。

また、テスト販売の目安は、テレビの媒体費と売価設定(粗利額)と注文数(額)から設定される「損益分岐メディアレーション」、つまり放送料金の何倍の受注金額で損益分岐なのかという数字です。これをクリアーすれば放送を継続・拡大すれば売上は大きくなります。メディアレーションを割れば中断すればいいわけです。

季節や祭事に合わせたプロモーションはマーケティングの王道です。通販、中でもテレビ通販ではこの季節・祭事MDからの展開がシンプルで消費を刺激しやすく、また、アオリの効いた映像と価格訴求でヒットが生まれる。一方でこの世界、ヒットするのは「せんだみつお」と言われ、1000にひとつほどのリスキーな世界。いわばハイリスクハイリターンな事業だが、かつての腹筋マシンのように一商品で上場も可能なのです。


ライター

渡部茂夫

SHIGEO WATANABE

マーケティングデザイナー、team-Aプロジェクト代表

通販大手千趣会、東京テレビランドを経て2006年独立、“販売と商品の相性” を目線に幅広くダイレクトマーケティングソリューション業務・コンサルティングに従事。 通販業界はもとより広く流通業界及びその周辺分野に広いネットワークを持つ。6次産業化プランナー、機能性表示食品届出指導員。通販検定テキスト、ネットメディアなどの執筆を行う。トレッキングと食べ歩き・ワインが趣味。岡山県生まれ。




Latest Posts 新着記事

知財の主戦場は「充電」から「交換」へ——CATLが先回りする日本市場の布石

世界最大級の車載電池メーカーCATLは、セルやパックの“モノづくり”を超えて、交換式バッテリーによる「BaaS(Battery as a Service)」へと事業射程を拡張している。交換ステーション、共通モジュール、運用ソフト、資産管理—この新モデルが成立するとき、勝負を決めるのは工場規模だけではない。規格化を押さえる特許と、サプライチェーン横断で効くサービス設計の知財である。中国本土では、Si...

環境×技術×知財 BlueArchがつくる“持続可能な海洋モニタリング”の新モデル

海岸林、マングローブ、塩沼、藻場などの ブルーカーボン生態系 は、地球温暖化対応の大きな鍵となる。これらの環境は、陸上森林よりも濃密に炭素を隔離する能力を持つという報告もある。Nature+2USGS+2 だが、こうした海・沿岸域の調査・保全には「アクセス困難」「高コスト」「リアルタイム性の欠如」といった課題が横たわる。ここに、ドローン技術、GPS(あるいは水中位置推定技術)、そして特許設計による...

ファーウェイ、特許で動く EV×5G基地局に見る中国知財の拡張戦略

■ 序章:静かに増える“赤い知財網” 特許庁の公開データを丹念に追うと、近年ひとつの変化が浮かび上がる。日本国内での中国企業による特許出願が、2015年以降、年率二桁で増加しているのだ。 とりわけ通信・電池・モビリティといった「脱炭素×デジタル」分野に集中しており、日本企業が得意とする領域を正面から狙っている。こうした動きの中心にいるのが、通信大手・華為技術(ファーウェイ)である。 米中摩擦のさな...

終わりなき創造の旅 厚木の発明家が挑む“次の技術革命”」

特許数でギネス更新 21世紀のエジソン、厚木に―発明の街が問いかける、日本の未来図 神奈川県厚木市―東京からわずか1時間足らずの距離にあるこの街が、世界の技術史に名を刻んだ。特許数の世界記録を更新した発明家、山﨑舜平(やまざき・しゅんぺい)氏が拠点を構えるのが、まさにこの地である。彼の名がギネス世界記録に再び載ったというニュースは、科学技術の世界だけでなく、日本人のものづくり精神を象徴する話題とし...

知財は企業の良心を映す鏡――4億ドル評決が語るイノベーションの倫理

2025年10月、米テキサス州東部地区連邦地裁で、韓国の大手電子機器メーカー・サムスン電子に対し、無線通信技術の特許侵害を理由に4億4,550万ドル(約690億円)の賠償を命じる陪審評決が下された。この判決は、単なる企業間の紛争を超え、ハイテク産業における知的財産権(IP)の重みを再認識させる事件として、世界中の知財関係者の注目を集めている。 ■ 「技術を使いたいが、支払いたくない」——内部文書が...

知財が揺るがす電機業界――TMEIC×富士電機、UPS特許訴訟の裏側

2025年夏、産業用電源装置分野を揺るがすニュースが伝わった。東芝三菱電機産業システム(TMEIC)が、富士電機の無停電電源装置(UPS)製品が自社の特許を侵害しているとして、韓国において訴訟および輸入禁止の措置を求めた件である。韓国貿易委員会(KTC)は8月下旬、TMEICの主張を一部認め、富士電機製の特定UPSモデルについて韓国への輸入を禁止する決定を下した。日本企業同士の知財紛争が、国外で具...

「JIG-SAW、AI画像技術で米国特許を獲得へ 知財を武器にグローバル競争へ挑む」

はじめに:発表概要と意義 JIG-SAW(日本発の IoT / ソフトウェア/AI ベンチャーと理解される企業)は、米国特許商標庁から「コンピュータビジョン技術」に関する Notice of Allowance(特許査定通知) を取得した旨を、自社ウェブサイトおよびニュースリリースで公表しています。 具体的には、JIG-SAW は「コンピュータビジョン技術、画像処理・画像生成支援技術」分野において...

「特許で世界を包囲する中国 イノベーション強国への加速」

はじめに:なぜ国際特許出願数が注目されるか イノベーション(技術革新)の国際競争力を測る指標として、研究開発投資、論文発表数、特許出願数などが長らく注目されてきました。特に国際特許(例えば、特許協力条約 PCT 出願、あるいは各国出願による外国での保護を意図した出願)は、一国の発明・技術が国際市場を見据えて保護を志向していることを示すため、技術力だけでなく国際志向性の強さも反映します。 近年、中国...

View more


Summary サマリー

View more

Ranking
Report
ランキングレポート

海外発 知財活用収益ランキング

冒頭の抜粋文章がここに2〜3行程度でここにはいります鶏卵産業用機械を製造する共和機械株式会社は、1959年に日本初の自動洗卵機を開発した会社です。国内外の顧客に向き合い、技術革新を重ね、現在では21か国でその技術が活用されていますり立ちと成功の秘訣を伺いました...

View more



タグ

Popular
Posts
人気記事


Glossary 用語集

一覧を見る