グンゼの切りっぱなし技術とは?


天気予報をみていると、今年の暑さはラニーニャ現象の影響で、かなり厳しいものといえそうです。ラニーニャ現象とはエルニーニョ現象の逆で、東太平洋赤道付近の海水温が平年より低い状態が長く続くことですが、これが日本においては「早い梅雨入り」「大雨」「暑い夏」といった影響で現れるようなのです。

すでに日本のビジネスマンにおいてはクールビズが一般化されていますので、5月の連休明けくらいからは、上着を脱いでネクタイを外し、半袖ワイシャツを着ている人を通勤時にみかけます。しかしこのくらいではちっとも涼しくならないのが日本の夏。高温多湿の環境ではシャツの汗染みなど、気になります。

そこで夏本番を前に、肌着を新調しようということで、日本の繊維メーカー大手、グンゼのインナーを購入しました。

筆者が購入したのはグンゼのYGというブランドで、キャッチコピーの『着心地を科学する』というなんともサイエンスな感じに惹かれて買ったのでした。

説明書きを見ると、「カットオフ®」という登録商標がついた製品で、首元や袖口が「切りっぱなし」であることが売りのようです。そして、どうやら特許技術が採用されているとのこと。具体的な特許番号などの記載がないのが気にくわないところですが、ちょっと調べてみることにしました。

グンゼが出願人である特許出願のうち、明細書中に「切りっぱなし」という語句があり、かつ「下着」「インナー」「肌着」という語句のいずれかが記載されているという条件でサーチすると、2件の特許公報があり、このうちシャツに関しての発明は1つだけに限定できましたので、ちょっと内容を見てみました(もうひとつはいわゆるボクサーパンツに関する特許でした)。

【特許6750138号】

発明の名称は「ほつれ止め開口部を有する衣類」となっています。要約には「セルロース系繊維を含む衣類であって、1以上の開口部において前記衣類を構成するセルロース系繊維間が自己接合されたほつれ止め開口部を有する衣類である」とあります。この「セルロース系繊維間が自己接合」というのが、本発明の特徴のようで、請求項にも記載があります。

明細書の記載を読むと、どうやら繊維の切断部を縫うかわりに、切断部を微妙に溶かして、溶着させることを「自己接合」と表現しているようです。

この自己接合を行うためにどのような処理をするかというと、明細書の実施例を参考にすると、強アルカリ溶液(水酸化リチウム水溶液や水酸化ナトリウム水溶液)と尿素化合物溶液を混合させ、-15℃の低温状態において調製した低温アルカリ尿素溶液を用意し、この溶液に衣類の切断開口部(襟部や袖部など)を浸すことで部分的に繊維を溶解させ、一部溶解状態の衣類をプレス加工することで自己接合を行うのだそうです。その後、薄い硫酸水溶液で中和することで、「切りっぱなし」だけどほつれないという特徴的な製品ができあがるとのこと。

このような製法によって、下着のラインが出にくい、端部が切りっぱなしの衣類ができているわけですね。思いのほか、しっかりした発明で、ちょっとびっくりしました。こんな特許技術を私はいま身につけているのか……と不思議な気持ちです。

優れた特許を取得しているのだから、販売サイトや広告には堂々と「特許番号」を記載してほしいものです。グンゼさん、よろしくお願いします。



Latest Posts 新着記事

「しなやかでタフ」なカルコパイライト太陽電池の進化戦略

はじめに 太陽光パネルといえば、重くて硬いシリコン製を思い浮かべる方が多いでしょう。しかし今、次世代技術として「カルコパイライト太陽電池」が静かにその存在感を高めています。 「曲がる太陽電池」カルコパイライトとは? カルコパイライト太陽電池は、銅(C)、インジウム(I)、ガリウム(G)、セレン(S)などを原料とする化合物系の薄膜太陽電池です。これらの構成元素の頭文字をとって「CIGS(シグス)」と...

連邦政府が大学の特許収入を狙う トランプ政権の新方針が波紋

はじめに 米国の大学は、研究開発活動を通じて得られる特許収入を重要な財源としてきました。大学の特許収入は、新しい技術の商業化やスタートアップ企業の設立に活用され、イノベーションの促進に直結しています。しかし、トランプ政権下で、連邦政府が大学の特許収入の一部を請求する方針が検討されており、大学の研究活動やベンチャー企業の育成に対する影響が懸念されています。 特に米国は、大学発ベンチャーの育成や産学連...

脱石炭から技術輸出へ:中国が描くクリーンエネルギーの未来

21世紀に入り、世界各国が環境問題やエネルギー安全保障への対応を迫られるなか、中国はクリーンエネルギー分野で急速に存在感を高めてきた。とりわけ再生可能エネルギー技術、電気自動車(EV)、蓄電池、送配電網、そしてグリーン水素などの分野において、中国は「追随者」から「先行するイノベーター」へと変貌を遂げつつある。なぜ中国が短期間でこのような飛躍を実現できたのか。その背景には、国家戦略、産業政策、市場規...

世界のAI特許6割を握る中国 5G・クラウドを基盤に国際競争を主導

近年、中国はデジタル経済の拡大と技術革新を国家戦略の中核に据え、AIや5G、クラウド、データセンターといった基盤技術において世界を牽引する存在となっている。その象徴的な事実として注目されるのが、人工知能(AI)に関する特許出願件数である。国際特許機関の最新統計によれば、中国からのAI関連特許は世界全体の約6割を占め、米国や欧州、日本を大きく上回る圧倒的なシェアを記録している。 本稿では、中国がいか...

AgeTech知財基盤を強化――パテントアンブレラ(TM)が累計41件出願、AI特許も追加

高齢社会の進展に伴い、健康維持、生活支援、介護軽減を目的としたテクノロジー領域「AgeTech(エイジテック)」への注目がかつてないほど高まっている。その中で、知的財産を軸に事業競争力を高める取り組みが活発化しており、今回、独自の「パテントアンブレラ(TM)」戦略を進める企業が、AI関連特許を含む29件の新規出願を追加し、累計41件の特許出願を完了したと発表した。これにより、類型141件の機能をカ...

フォシーガGE、特許の壁を突破 沢井・T’sファーマの挑戦

2025年9月、日本の医薬品市場において大きな話題を呼んでいるのが、SGLT2阻害薬「フォシーガ(一般名:ダパグリフロジン)」の後発医薬品(GE、ジェネリック)の登場である。糖尿病治療薬の中でも売上規模が大きく、近年では慢性腎臓病や心不全の領域にも適応拡大が進んだフォシーガは、アストラゼネカの主力製品のひとつである。その特許の“牙城”を突破し、ジェネリック医薬品の承認を獲得したのが沢井製薬とT&#...

電池特許はCATLだけじゃない――AI冷却から宇宙利用まで、注目5大トピック

近年、知的財産の世界では、特定の企業やテーマに関心が集中しやすい傾向がある。中国・CATLの電池特許戦略や、AIをいかに効率的に冷却するかといったテーマは、テクノロジー産業の今を象徴するキーワードだ。しかし同時に、その裏側には見落とされがちな知財動向や、将来を左右しかねない新しい潮流が潜んでいる。本稿では、「電池特許CATL以外にも」「特集AIを冷やせ」を含め、いま注目すべき5本のトピックを整理し...

バックオフィス改革へ ミライAI、電話取次自動化で特許取得

AI技術の進化が加速するなか、企業のバックオフィスや顧客対応の現場では「省人化」「自動化」をキーワードとした取り組みが急速に広がっている。その中で、AIソリューションを展開するミライAI株式会社は、従来の電話取次業務を人手に頼ることなく「完全無人化」するための技術を開発し、特許を取得したと発表した。この技術は、音声認識・自然言語処理・対話制御を組み合わせ、従来課題とされてきた「誤認識」「取次精度の...

View more


Summary サマリー

View more

Ranking
Report
ランキングレポート

海外発 知財活用収益ランキング

冒頭の抜粋文章がここに2〜3行程度でここにはいります鶏卵産業用機械を製造する共和機械株式会社は、1959年に日本初の自動洗卵機を開発した会社です。国内外の顧客に向き合い、技術革新を重ね、現在では21か国でその技術が活用されていますり立ちと成功の秘訣を伺いました...

View more



タグ

Popular
Posts
人気記事


Glossary 用語集

一覧を見る