運動をサポートしてくれる特許インソール


秋はスポーツ、旅行の季節です。少し涼しくなってきたこともあり、筆者もジョギング用に靴を購入したのですが、一緒にインソール(中敷き)も一緒に購入しました。値段の高い機能的なランニングシューズなら中敷きなんて不要なのかもしれませんが、安いシューズでも中敷きにこだわると、手軽に快適さが向上するのでおすすめです。

筆者が今回購入したのはアシマルのインソール、カーボンハーフ(プレミアム)です。実は2回目のリピート購入です。

この製品は日本、米国、欧州で特許を取得している特許製品(特許番号5858450号、米国特許9877544号、欧州特許3078291号)で、日本で特許が取得されたのは2016年2月です。

このインソールはハーフタイプで靴のかかと側に入れて、かかとから土踏まずのあたりをサポートするものですが、実際使ってみると、インソールの「しなり」が効いて、ジョギング中の足腰への負担が軽減されるのが実感できます。

また、ハーフタイプのインソールということで脱着が非常に簡単で、他のシューズに手軽に入れ替えて使用することができます。もちろんインソール自体は簡単に水洗いもできますので、毎日清潔に使用することができます。今回のコラムは筆者愛用のアシマルインソールについて紹介しようと思います。

繊維強化樹脂とエラストマーの2成分構造

まず、このインソールは大きく分けて2つの構成材料からなっています。

土踏まずのアーチをサポートする繊維強化ポリプロピレンと、カカト部分の衝撃を吸収する熱可塑性エラストマーです。繊維強化ポリプロピレンに含まれる強化繊維は、船舶などの強化繊維としても用いられているグラスファイバーが用いられています。

筆者が今回購入したのはさらにカーボンが配合されて強度が高められているものですが、これは負荷の高いスポーツ用ということで、通常はそこまでの強度は必要ないようです。筆者も普段の通勤などに使う靴にはカーボンの配合されていない、もう少し柔らかいモデルを使用しています。

量産性と品質を高めるダブルインジェクション製法

異なる2成分を1つの製品とする場合、それぞれ別々に成形して後から合体させるという手法も考えられます。

プラスチックの成形方法として一般的な射出成形法を用いる場合、成形用の型に溶融プラスチックを高圧で射出し、型内で硬化させて取り出す、という工程が行われますが、本製品ではダブルインジェクション製法を採用することで、工程の短縮を図ります。

ダブルインジェクションというのは二色成形ともいわれますが、同一の型内で、型の一部で第一の樹脂を射出成形し、硬化後に取り出すことなく、型の別の部分に第二の樹脂を射出することで2つの成分を組み合わせた製品を一気に得るという製法です。この製法を採用することで、量産性と品質向上を実現しています。

【参考】2色射出成形(羽立化工株式会社)
https://www.hatachi.co.jp/feature/im/dim/

「硬質」「軟質」「しなり」を組み合わせる

インソールだけでなく靴全般に言えることですが、足の形は十人十色、同じ形はありません。当然オーダーメイドで作れば足にぴったりとフィットさせることができるので、インソールを硬質材料だけで作っても特段の問題は生じません。

しかし、既製品の場合は、万人の足にフィットさせなければならないため、本製品では「硬質部分」「軟質部分」「しなり」を組み合わせることで、これを実現しています。特にカカト部分のサポートを重視して設計しているとのことで、これによってインソールが靴の中でズレないようになっています。また、インソールがズレないことで、足裏のアーチを回復させる機能を有する形状の効果を保つことができるといいます。

「しなり」を加えることでフィット感を高める

本製品をシューズに入れた場合、以下のような断面図になります。よく市販されているインソールだと、土踏まずの部分も靴に沿った形状となりますが、本製品の場合は少し浮いていることがわかりますね。これが「しなり」を生み、フィット感を高めることにつながるのです。

最後に、簡単ではありますが、特許請求の範囲の請求項1だけ、見てみます。ちょっと長いですが、以下の特許権が取得されています。

【請求項1】

  • 靴の内底部に装入して使用される靴中敷きにおいて、
  • 前記靴中敷きの本体部の足裏のアーチを支える部分の形状が足の土踏まずの高さを標準的な足形に設定することにより理想的なアーチを維持して足のバランスを標準値に回復させる機能を有し、前記本体部の足裏の踵を支える部分の形状が踵裏側を水平面にすることによりニュートラルな状態を保ち足の安定性及びフィット感を高める機能を有し、
  • 前記本体部の少なくとも足裏の踵を支える部分の裏面に衝撃吸収部材が圧着されており、
  • 前記本体部の材質が硬質素材から構成され、前記衝撃吸収部材の素材が軟質素材から構成され、
  • 前記本体部の足裏の踵を支える部分及びアーチを支える部分の外周縁部の内側領域の厚みを肉厚にして強力なサポートができるように形成し、前記本体部の足裏の踵を支える部分及びアーチを支える部分の外周縁部の厚みを肉薄にして負荷がかかった時にしなるように形成し、
  • 前記本体部の足裏の踵を支える部分及びアーチを支える部分の外周縁部の厚みを肉薄にした部分及びその上部に前記衝撃吸収部材が装着されていることを特徴とする靴中敷き。

やはり特許の文章は冗長で難解ですが、要点としては、以下の部分ですね。

「踵裏側を水平面にすることによりニュートラルな状態を保ち足の安定性及びフィット感を高める」とあるのは、上記断面図をみたときに、インソールの土踏まず部分がちょっと浮いていることで、カカト部分が前傾状態にならないことを意味しています。これによってカカト部分のフィット感を高め、インソールが靴の中でズレないという効果が得られるのです。

「本体部の少なくとも足裏の踵を支える部分の裏面に衝撃吸収部材が圧着されており、前記本体部の材質が硬質素材から構成され、前記衝撃吸収部材の素材が軟質素材から構成され、」とあるのは、前述した「ダブルインジェクション成形」が採用されている部分でした。これによって量産性と品質向上を図っているのですね。

靴の中敷きはあまりに一般的で、ここに特許技術なんてあるのか?と思われるかもしれませんが、実は多くの創意工夫があって特許にもなっているのです。また、この技術は米国やヨーロッパでも特許権が取得されていることからもわかる通り、世界で通用する日本の特許技術といえます。日本の技術が世界で活躍している様子が感じられると幸いです。



Latest Posts 新着記事

知財の主戦場は「充電」から「交換」へ——CATLが先回りする日本市場の布石

世界最大級の車載電池メーカーCATLは、セルやパックの“モノづくり”を超えて、交換式バッテリーによる「BaaS(Battery as a Service)」へと事業射程を拡張している。交換ステーション、共通モジュール、運用ソフト、資産管理—この新モデルが成立するとき、勝負を決めるのは工場規模だけではない。規格化を押さえる特許と、サプライチェーン横断で効くサービス設計の知財である。中国本土では、Si...

環境×技術×知財 BlueArchがつくる“持続可能な海洋モニタリング”の新モデル

海岸林、マングローブ、塩沼、藻場などの ブルーカーボン生態系 は、地球温暖化対応の大きな鍵となる。これらの環境は、陸上森林よりも濃密に炭素を隔離する能力を持つという報告もある。Nature+2USGS+2 だが、こうした海・沿岸域の調査・保全には「アクセス困難」「高コスト」「リアルタイム性の欠如」といった課題が横たわる。ここに、ドローン技術、GPS(あるいは水中位置推定技術)、そして特許設計による...

ファーウェイ、特許で動く EV×5G基地局に見る中国知財の拡張戦略

■ 序章:静かに増える“赤い知財網” 特許庁の公開データを丹念に追うと、近年ひとつの変化が浮かび上がる。日本国内での中国企業による特許出願が、2015年以降、年率二桁で増加しているのだ。 とりわけ通信・電池・モビリティといった「脱炭素×デジタル」分野に集中しており、日本企業が得意とする領域を正面から狙っている。こうした動きの中心にいるのが、通信大手・華為技術(ファーウェイ)である。 米中摩擦のさな...

終わりなき創造の旅 厚木の発明家が挑む“次の技術革命”」

特許数でギネス更新 21世紀のエジソン、厚木に―発明の街が問いかける、日本の未来図 神奈川県厚木市―東京からわずか1時間足らずの距離にあるこの街が、世界の技術史に名を刻んだ。特許数の世界記録を更新した発明家、山﨑舜平(やまざき・しゅんぺい)氏が拠点を構えるのが、まさにこの地である。彼の名がギネス世界記録に再び載ったというニュースは、科学技術の世界だけでなく、日本人のものづくり精神を象徴する話題とし...

知財は企業の良心を映す鏡――4億ドル評決が語るイノベーションの倫理

2025年10月、米テキサス州東部地区連邦地裁で、韓国の大手電子機器メーカー・サムスン電子に対し、無線通信技術の特許侵害を理由に4億4,550万ドル(約690億円)の賠償を命じる陪審評決が下された。この判決は、単なる企業間の紛争を超え、ハイテク産業における知的財産権(IP)の重みを再認識させる事件として、世界中の知財関係者の注目を集めている。 ■ 「技術を使いたいが、支払いたくない」——内部文書が...

知財が揺るがす電機業界――TMEIC×富士電機、UPS特許訴訟の裏側

2025年夏、産業用電源装置分野を揺るがすニュースが伝わった。東芝三菱電機産業システム(TMEIC)が、富士電機の無停電電源装置(UPS)製品が自社の特許を侵害しているとして、韓国において訴訟および輸入禁止の措置を求めた件である。韓国貿易委員会(KTC)は8月下旬、TMEICの主張を一部認め、富士電機製の特定UPSモデルについて韓国への輸入を禁止する決定を下した。日本企業同士の知財紛争が、国外で具...

「JIG-SAW、AI画像技術で米国特許を獲得へ 知財を武器にグローバル競争へ挑む」

はじめに:発表概要と意義 JIG-SAW(日本発の IoT / ソフトウェア/AI ベンチャーと理解される企業)は、米国特許商標庁から「コンピュータビジョン技術」に関する Notice of Allowance(特許査定通知) を取得した旨を、自社ウェブサイトおよびニュースリリースで公表しています。 具体的には、JIG-SAW は「コンピュータビジョン技術、画像処理・画像生成支援技術」分野において...

「特許で世界を包囲する中国 イノベーション強国への加速」

はじめに:なぜ国際特許出願数が注目されるか イノベーション(技術革新)の国際競争力を測る指標として、研究開発投資、論文発表数、特許出願数などが長らく注目されてきました。特に国際特許(例えば、特許協力条約 PCT 出願、あるいは各国出願による外国での保護を意図した出願)は、一国の発明・技術が国際市場を見据えて保護を志向していることを示すため、技術力だけでなく国際志向性の強さも反映します。 近年、中国...

View more


Summary サマリー

View more

Ranking
Report
ランキングレポート

海外発 知財活用収益ランキング

冒頭の抜粋文章がここに2〜3行程度でここにはいります鶏卵産業用機械を製造する共和機械株式会社は、1959年に日本初の自動洗卵機を開発した会社です。国内外の顧客に向き合い、技術革新を重ね、現在では21か国でその技術が活用されていますり立ちと成功の秘訣を伺いました...

View more



タグ

Popular
Posts
人気記事


Glossary 用語集

一覧を見る