広告なし!『ことしのヒット商品ランキング』、『来年のヒット予測ランキング特集』。気が付くとこの時期の各情報誌の表紙に「広告なし!」のランキング特集や特集記事が、それも各誌。「広告なし!」、このちょっとしたことしの異変に反応した。
「広告なし!」はそのままの意味でヤラセではなくメディアの主体的な記事だということですが、わざわざ「広告なし!」を表紙に出してるところが意味深い。もちろんテレビ番組でもそう言った裏事情があるのは承知していたが。
テレビ、新聞、雑誌、ラジオ、いわゆる4大マスメディア。いまではニューメディアに対してオールドメディアとも言われどこか懐かしい気さえします。従来、企業や商品はこうしたマスメディアを手段として消費者と繋がりを持っていたし今もそのチカラは大きい。ここでは料金を払って「広告」を打つ、もしくは番組や記者からの取材を受けて露出する「パブリシティ」、このふたつに限られている。
ところがそれが一転、デジタル社会の到来だ。プラットフォームで無料のあらゆるニュースが得られる時代になった。と同時にマスメディアの優位性は低下し、広告媒体としての価値もそれにつれて低下し当然広告収入は減る。メディア側では別の収入も考えなくてはならないのが各メディア企業の切実な現状だ。
一方、それにつれて広告主側の企業は、SNSや動画サイトにアカウントを開設するようになった。発信したいコンテンツを載せるとさまざまな他の情報と並んで配信される。その情報がTwitterなどSNSで拡散され時にはテレビ番組などが紹介、再度生活者が認知・拡散といった流れに変わったのだ。
こうなると企業や個人、だれもがメディアになり得る。そこにコンテンツ次第で情報の拡散が起こる。しかもこの拡散の構造にはコストがほとんどかからない。これがデジタル社会の情報流通の様相だ。企業も個人もこの情報流通の構図に相性のいい対応を取れるかどうか、そのことで企業業績も商品売上結果も大きく変わってくる。それは発信する内容次第と言うことになることは言うまでもないが、いわばコンテンツ力ということになる。
同時にSGDsや男女平等問題など社会から企業や商品、個人にさえも、その要請が増えてきたことも含めてそれらに応えていかなければなくなってきているいま。そうした点を織り込んだ企業メッセージや商品内容の開発がコンテンツ力をアップさせることにつながる。単に便利、安い、おいしいだけでは当たり前で、企業にしろ商品にしろ「共感」が得られるかどうかで、その「共感」が拡散される。
2017年の新語・流行語大賞は「インスタ映え」でした。チーズドッグやパピオカなど数々の商品がInstagramから発信され、それをテレビなどマスメディアが取り上げヒットとなった。これらはまさしく新しい情報流通のなかで、商品=コンテンツそのものがメディアとの相性が良く拡散していった。たとえば、「カワイイ」とか「キレイ」とか「「おもしろい」とかは代表的な「共感」ワードとなった。
この頃インスタ映えする「商品」ということで、企業も個人もInstagramと相性のいい商品をこぞって開発したのは記憶まだ新しい。いわば情報流通との相性を考えたコンテンツの開発だ。「いい商品より売りやすい商品」、たとえば美味しさそのものは伝えられないが美味しさの背景・物語は伝えられる。その背景や物語への「共感」が拡散の「核」となる。
たとえば、東京都内の真ん中、静かで緑あふれる皇居外苑の東側のスタバックスコーヒーの「皇居外苑和田倉噴水公園店」。高い天井と大きな窓がとても開放的でゆったりした店内が印象的で居心地がいい。この店は、環境負荷を減らすためにさまざまな試みのいわば実験店舗として昨年の12月にオープンし、多くのメディアでも報じられている。
より環境負荷の低い店舗のための国際認証「Greener Stores Framework(グリーナー ストア フレームワーク)」を取得した同店の店内に散りばめられた、環境への取り組みではインテリアはもちろん、マグカップやグラス、テイクアウト時には使い捨て紙カップは貸出カップの利用を勧められる。
スタバとしても楽しめるのはもちろんだが、「環境配慮」について感じさせてくれる店舗として、同時に心地よい空間を楽しむ来店者の多くはこぞってスマホカメラに収めた「共感」の体験をSNSで拡散している光景を目にする。
有名な話しだが、スタバはコーヒーを売る企業ではなく、居心地のよい場所(サードプレイス)を提供する企業であり、顧客は『サードプレイス』で過ごす時間に対して対価を払っている。(この「サードプレイス」もスタバが商標登録している。)
『スタバにしかないもの・スタバでしかできないこと(=特別感)』を創出。その『特別感』については戦略的に知的財産として守られていることも多く、他のコーヒーショップとの差別化を発信・確立の姿が「共感」のコンテンツとしてあらたな情報流通の構造にてスピード感をもって「拡散」する。いや戦略的に仕掛けられている。
ライター
渡部茂夫
SHIGEO WATANABE
マーケティングデザイナー、team-Aプロジェクト代表
通販大手千趣会、東京テレビランドを経て2006年独立、“販売と商品の相性” を目線に幅広くダイレクトマーケティングソリューション業務・コンサルティングに従事。 通販業界はもとより広く流通業界及びその周辺分野に広いネットワークを持つ。
6次産業化プランナー、機能性表示食品届出指導員。通販検定テキスト、ネットメディアなどの執筆を行う。トレッキングと食べ歩き・ワインが趣味。岡山県生まれ。
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