除夜の鐘も自動化? 自動鐘撞き装置

年明けにかけて、日本各地で除夜の鐘の鐘撞きのために、深夜のお寺を訪れた方も多いのではないでしょうか。日本の風物詩ではありますが、現実的な社会問題として、今後は人口減少により、除夜の鐘の要件である108回の鐘撞きができるだけの人数がお寺に集まらないという事態が頻出すると考えられます。寺院においては鐘撞きというのは仏法を広く伝えるための必須の作業とのことで、さらには特に地方において時刻や行事などを広範に連絡するために鳴らされています。

この鐘撞き作業は、鐘の音を聞く庶民側では単に郷愁と悠久の歴史を感じるだけであっても、実際に鐘を撞く寺院側にとっては、鐘を連日所定の回数だけ撞くことは、煩雑で苛酷な作業となっています。真夏の暑気、梅雨や台風期の豪雨、冬の寒気においても毎日定時に鐘をつくことは、特に地方の寺院において、人口の過疎化に加えて住職とその家族も高齢化が急速に進行し、毎日の鐘撞き作業を放棄する寺院も発生しているのが現実です。

毎日の鐘撞き作業を自動化

上記のような社会問題を背景として生まれた特許が今回紹介する特許5270628号です。特許権者は上野保氏、出願日は2010年9月6日、登録日は2013年5月17日、発明の名称は「自動鐘撞き装置」です。

この発明は、撞木に人手による鐘撞き作業と酷似する動作を行わせて、自然な音響を発生させることを目的としています。各宗派および除夜の鐘などに応じて鐘撞きの態様を調整できる装置となっています。

自動鐘撞き装置自体は今までにもあった

実は鐘撞き作業を自動化させようという発明はこれまでにも多く開示されています。昔から社会問題として広く意識されていたものと考えられますが、従来の自動鐘撞き装置は、どれも撞木を機械的に作動させるので、鐘の連続的な音響が不自然になったり、既存の鐘楼に種々の改築を必要としたり、装置を取り付けるために鐘楼の壁面にかなりの強度を必要とするものであったりと、現実的な採用のハードルがかなり高いものでした。

既存の鐘楼に取り付け可能であることが必要

本発明は、あたかも人が鐘をつくような感じの音響を発する自動鐘撞き装置を提供することを目的としています。そして、既存の鐘楼に取り付けることが可能であり、取り付けた際の違和感が少ないものとするよう考えられています。

撞木にステッピングモータを取り付けて問題を解決した

本発明の装置は下図の参照番号1で示される位置に取り付けられます。

具体的には、撞木5の50cmほど上に位置するように、下図のように固定されます。本発明で非常に重要な点は大型ステッピングモータ7と撞木5とを直交配置することです。

そして、モータ軸10を通じてロータリーエンコーダ8を同軸状に直結することでモータ7の動き、つまり回転を正確に検出し、モータ軸の他方に配置される回動ロッド12にモータの動きを伝えます。このステッピングモータ7にパルス信号を送って間欠的なモータ回転をさせることで、撞木に振り子運動をさせ、鐘を撞くことができるのです。もちろん、モータを連続回転させれば振り子運動は生じないので、連続回転に切り替えることで手動で鐘をつくことも可能です。

本発明の装置の操作フローチャートは上図のとおりです。季節や宗派等における様々な鐘の音を自動で出せるように、細かい変更が可能になっています。

このフローチャートから明らかなように、例えば除夜の鐘においては全自動、全手動だけでなく、始めの方は手で鳴らし、残りの鐘撞きを自動で鳴らすということが可能です。そしてこのルーチンは12月31日午後10時以降でのみ有効、という「セキュリティ」をかけることが可能となっています。

すべての産業で機械化・自動化は急務

今後、日本の社会は急速な人口減少、特に高齢化による労働者人口の減少が喫緊の課題です。日本におけるあらゆる産業、社会の隅々まで、これまで人の手によって行われてきた作業をロボット化、自動化することが求められています。本発明も、そのような社会課題に対するひとつの答えといえるでしょう。