古くからのApple製品の愛用者にはご理解いただけると思いますが、Appleの提供していた被覆部がナイロンのケーブルって、すごく脆弱でしたよね。すぐ断線したりして、サードパーティ製の頑丈なケーブルを最初から使うよ、という方も多かったのではないでしょうか。
ただ、そのようなユーザーの声がAppleに届いていないわけはありませんし、おそらく自分でもわかっていたのでしょう、最近のApple製品には素材をナイロンから編み込みタイプに変更した、補強された充電ケーブルが付属するようになってきました(例えば、AppleはMagic Mouseに同梱するケーブルを2021年8月から編み込み式のUSB-C−Lightningケーブルに変更している)。
今回のコラムでは、12月に出願公開されたAppleの特許出願のうち、編組ケーブル製造するための編組方法に関する技術を紹介します。
発明の名称:Braided Electronic Device Cable, Braiding Machine and Method For Braiding An Electronic Device Cable
出願公開日:2022年12月22日
特許出願日:2021年6月22日
公開番号:US2022/0403569A1
複数のワイヤーを編み込むための新しい編機が必要だった
本発明は、複数のワイヤーを編み込んだシース(ケーブルの外装)に関するものです。シースは通電されたワイヤーからユーザを保護するために必要なものです(筆者注:よって、このシースは比較的高電圧で使用される充電ケーブルに用いられるものと考えられます。公開公報中には「110-120ボルト電源に接続されるために使用されるケーブル」と記載されています)。
このような編み込みケーブルを製造するための編機として必要なことは、機械化・自動化されて大量生産できることが必須なわけですが、これまでの機械編組ツールによって製造される編組シースは、ワイヤ角度、被覆率のブレが生じることが多く、これはケーブルの外観として用いられるシースにとって、容易に検出可能な不具合となっていました。このため、従来の編組機を用いたワイヤーにおいては、このような不具合を許容するために、補強のための編組シースをケーブルに施したとしても、さらにその外側を外装で覆っていました。
編機の設計からやりなおした
Appleは、編組シースを直接ケーブルの意匠、つまり外観とすることを目的として、新しい編機を作ることからはじめました。
この図は、ケーブルの編組シースを製造する編機の平面図です。複数のボビン232aまたは234から、ストランド(ワイヤー)が供給されます。この工作機械には3つのトラック238aおよび238b、238cがあります。238aと238bのトラックは互いに逆向きに動いて(矢印240a、240b)、ケーブルにストランドを編み付けていきます。さらに、238cのトラック(特徴的な形状です)によって、アーム242およびストランド236bが隣接するボビンの間を通過することを可能とします(トラック238aは238bと違って、つながった円形ではないことに留意してください)。
このような「二重ボビン構成」に基づいて、【1×1-2編組パターン】と呼ばれる外層を形成することができるようになったといいます(1×1-2の「2」は、ボビン2つを組みにすることで、ボビンの数によって増減して表示されます)。
このように、ボビン2つを組みにして動かしている様子は、以下の図で説明されますが、2つのボビンが一緒に動くようにレールに乗っていることが記載されています。
編機の力をケーブルコアに伝えないことが重要
ここまで説明してきたことは、特徴的な編組パターンを作るための方法にすぎません。上述したように、本発明の目的は機械的自動化において編組のワイヤ角度、被覆率のブレを防ぐことにあります。このような不具合は、従来の編機においては、ケーブルコアに直接ワイヤを巻きつけていたことによって生じていました。
そこで、本発明では、固定具460を用いることとしました。固定具の外観は以下のようなものです。これこそが本発明で最も重要な部分です。
図示したように、固定具460は、テーパ領域464を有する円筒状の部材です。固定具を工作機械に固定するために、ベース470があります。この固定具は、外層がケーブルコアに及ぼす張力を減少させるように設計されています。編み込み動作中、外層を形成するために使用されるストランドは、固定具460の外面上を通過し、一方、ケーブルコアは、貫通孔474、466を通過します。
この図のように、固定具はケーブルコア574と外層506との間に物理的分離をもたらします。その結果、ケーブルコアは外層から最小限の力しか受けません。このようにすることで、外層の編組一貫性および美観の向上が得られるのです。そして、先細りに加工されたテーパ領域は、固定具からケーブルコアに外層が滑り落ちるように移行されるために用いられます。このようにして、固定具はケーブルコアが外層の外観が変化してしまうような伸長をさせることなく、ケーブルコア上に外層が移行することが可能となるのです。
以上、今回紹介した公開公報では、Appleの新しい編み込みケーブルとその製造方法の技術が開示されました。すでに具体的な製品として販売されていますので、出願しただけでなく、特許化を行っていくものと思われます。これまで脆弱なケーブルばかりだとユーザーから不満の声も多かったAppleのケーブルですが、今後は高品質なケーブルが供給されるのが楽しみです。
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