LED発光でインクタンクの状態確認
使用頻度は様々に違うかもしれませんが、いわゆるインクジェットプリンターを所有している人はかなり多いと思います。使うことなんて年に1度、年賀状を印刷するときくらいだよ、という人もいれば、スマホやデジカメで撮影した写真をたくさん印刷し、アルバムに整理しているよ、という人も少なくありません。
最近では、スマホなど携帯ガジェットの普及によって、PCを介さずに直接プリンタにメモリカードやWi-Fiなどからデータを送り、直接印刷することが増えてきました。一般的に、プリンタのインクタンク内のインク残量は、PCを介してモニタ上で確認する手法がよく知られていますが、PCを介することなく直接印刷を行うことが増えるに伴い、PCを使わずにインクタンク内のインク残量を把握したいというニーズが高まっています。
今回紹介する発明は、プリンタメーカーとしても世界的に有名な、キヤノン株式会社によるインクタンクの発明で、インクタンクの状態に関する報知をLEDなどの発光手段によって行う構成を備えるものです(キャノンじゃありませんよ、キヤノンです)。
インクタンクの状態を知るにあたり、ユーザーが気にする点は2つあります。まずインクの残量ですね。そしてもう1つがインクカートリッジを正しい位置に装着できているかのチェックです。特に最近は高画質化の要求から従来の4色(ブラック、イエロー、マゼンタ、シアン)に加えて、淡色マゼンタ、淡色シアンといったインクが使われるようになり、さらにはレッド、ブルーインクといったいわゆる特色インクの使用まで提案されていますから、インクカートリッジを交換する際、間違った場所に搭載することを防止する必要があります。
本発明は、このような問題を解決するために、十分なインク量があるかどうか、そして複数のインクタンクの搭載位置の正誤に対してLEDの発光制御を行い、PCを介さずにインクタンクの状態を知ることを可能としたものです。
発明の背景
もうすっかり身近になったインクジェットプリンタ、一番活躍するのは年賀状の印刷のときでしょうか。
私たちがよく目するプリンタは、複写式の伝票に印刷するドットプリンタ、事業所で使われるレーザープリンタ、家庭用でつかわれるインクジェットプリンタなどがあります。
カラーインクジェットプリンタは写真画質で印刷できるようになって、急速に広く家庭に普及しました。さらにデジタルカメラの登場によって、ネガフィルムカメラで撮った写真をカメラ店で現像、焼き付けするのと同じように、デジタルカメラで撮った写真をPCに取り込み、自宅でプリントアウトできるようになったのです。
オリジナルの年賀状を作るためにデジタルカメラ、カラーインクジェットプリンタを購入された方もいらっしゃるのではないでしょうか。
そんなカラーインクジェットプリンタも、当初は2個のインクタンク、一つは黒インクが入ったインクタンクともう一つはシアン(C)、マゼンタ(M)、イエロー(Y)の3色のインクが入ったインクタンクが装着されていました。カラーインクが1色でも無くなると、他の色のインクが残っていても3色の入ったインクタンクを丸ごと交換しなければなりませんでした。とても不経済でした。
そこでメーカーはインクタンク3色を独立させ、無くなったインクのインクタンクのみを取り換えることができるようにしました。
さらにメーカーは、より写真に近い画質をめざして、カラー出力用に黒インクを追加したり、グレーのインクを追加したり改良を続けています。よく見ると、白黒出力用の容量の大きい黒インクと4個から5個のカラー出力用インクタンクが行儀よく並んで装着されています。
プリンタは一般的にPC(パーソナルコンピュータ)からデータを送って印刷しますが、最近はデジカメで撮影を楽しむ方も増えたことで、プリンタメーカーはPCを介さず直接プリントアウトをする機能を付けるようになりました。撮影した写真をプリントアウトするのにPCを用意しなければならないのを改善しようとしたのです。
しかし、PCを用意しなくてもプリントアウトできるので便利になりましたが、不便なこともあります。そう、PCに接続しなければインクがなくなったことがわからないのです。
そこで、PCを介さなくてもインクがなくなったことや、どのインクがなくなったのかを表示することや、同じ形のインクタンクですからどこにも装着できてしまうので、仮に間違ったところに装着しても印刷しない、あるいは間違ったところにインクタンクを装着することがないようなものを作ろうと考えたのです。
どんな発明(特許)?
インクタンクの容器に色などの個体情報を記憶したメモリーとLED、プリンタ本体と電気的に接続できる接点を設けることと、その搭載する複数のインクタンクに共通の信号線で電気的に接続できる接点とインクタンクのLEDの発光を検出する受光センサーを持ったプリンタと組み合わせることで、インクのなくなったインクタンクのLEDを発光させて使用者に伝えることができるようにします。
また、インクタンクを間違った位置に装着してもプリントせず、間違っているインクタンクのLEDを発光させて使用者に伝えることができるようにした特許です。
この特許は、インクジェットプリンタのインクタンクとこのインクタンクを備えるプリンタのシステム、インクタンクの製造方法、インクタンク用の回路基板およびインクタンクのカートリッジに関する発明です。
インクジェットプリンタに脱着可能なインクタンクにおいて
- プリンタに備えられた接点と電気的に接続可能な接点があり、
- インクタンクの個体情報(インクの色など)を記憶しているメモリーがあり、
- 発光部(LED)があり、
- 装着したインクタンクの位置とインクタンクに記憶されている情報に応じて発光を制御する制御部がある
インクタンクを発明しました。
当然このインクタンクを装着できるプリンタ側も
- 複数のインクタンクを装着でき、
- インクタンクに備えられる接点と電気的に接続できる接点があり、
- インクタンクからの光を受光できるセンサーがあり、
- 装着するインクタンクそれぞれに備えられた接点と電気的に接続できるプリンタ側接点に対して共通に接続できる配線を有する電気回路を装備している
プリンタです。
この特許では、インクタンクは液体収納容器、インクジェットプリンタは記録装置、メモリは情報保持部と記述されています。また、16個の請求項が書かれており全体を通して、インクジェットプリンタのインクタンクと、このインクタンクを備えるプリンタのシステム、インクタンクの製造方法、インクタンク用の回路基板およびインクタンクのカートリッジについて発明を主張しています。
まずはどんなインクジェットプリンタか図を見てみましょう。出願が2004年なのでかなり前のモデルです。
図1の外観図には、本体カバー201と電源スイッチとLED表示器のみの操作部213があります。図2は本体カバー201を開けた状態です。通常状態ではインク部はプリンタの左右どちらかに待機していますが、本体カバー201を開けると、インクタンク1K、1C、1M、1Yが交換しやすいプリンタの真ん中に移動します。また、インクタンクに備えられたLED101も見やすくなります。図を見るとインクタンク1Kはちょっと大きいですが他の3個は同じ大きさのようです。
【図1】
【図2】
このプリンタに装着するインクタンクはどのようなものなのか図で説明します。
図3はインクタンクをプリンタのホルダに装着した図です。
【図3】
インクタンク1にはインク供給口7、右下に基板100があり、基板上にLED101とLEDを制御する制御素子103が備えられています。
ホルダ150はプリンタ側の装備となります。インクタンクの第1接合部5がホルダの第1係止部155にはまり装着の位置が決まります。ここを支点にしてインクタンクをホルダに押し込めば、インクタンクの第2係合部6とホルダの第2係止部156がカチッとはまり固定されます。(a)の図はLEDの発光を受光する受光センサー210を示し、(b)はLEDの発光を使用者が目視している図です。
図4は右下の基板や接点の部分を拡大したものです。基板100上にLED101、電極パッド102があり、電極パッドと接点152は電気的に接続します。LEDの光は第1受光部210で受光します。
【図4】
以上の構成によって、インクが無くなって交換するためにプリンタのふたを開けると、インクタンクは中央に移動することでプリンタの側の接点と電気的に接続します。そしてインクの無くなったインクタンクのLEDを発光させます。
あるいは交換したとき誤って装着位置を間違ってしまった時でも、インクタンクに記憶された色情報と接続した接点の位置情報によりインクタンクの装着ミスが判断でき、間違った位置のインクタンクのLEDを発光させることができます。
ここがポイント!
複数のインクタンクをお互いに異なる位置に搭載可能に装着でき、搭載する複数のインクタンクに共通の信号線で電気的に接続できる接点を持ち、さらにインクタンクからの発光を受光できるセンサーを持ったプリンタに対してプリンタに備えられた接点と電気的に接続可能な接点を持ち、インクタンクの個体情報(インクの色など)を記憶しているメモリーと、発光部(LED)が乗った基板があり、装着したインクタンクの位置とインクタンクに記憶されている情報に応じて発光を制御する制御部があるインクタンクを発明しました。
さらに、上記のプリンタとインクタンクで構成されるシステム、上記の構成のインクタンクの容器を準備しその容器にインクを注入する製造方法、インタンクの接点とプリンタの接点が電気的に接続したとき、その条件によってインクタンクのLEDを発光する制御部を持っている回路基板、上記のインクタンクをカートリッジにしたもの、の特許となっています。
また、実施形態の説明に中で、プリンタの複数のインクタンクの入ったキャリッジのほかに、容量の大きいインクタンクを別置きで用意し、キャリッジ上の各色のインクタンクにチューブで供給するプリンタを示しています。このような実施形態の説明でより広い特許とすることができます。
何に活用されているの?
カラーインクジェットプリンタにかかわる特許です。出願は2004年(平成16年)ですが、現在の機種にも適用されている非常に汎用性の高い有能な特許と言えます。
特許権者は、株式会社キャノンです。家庭用インジェットプリンタでは、セイコーエプソン株式会社と1位2位を争う企業です。
この特許公報の経過情報を見ますと、特許査定後、結構な数の特許無効審判が請求されております。この特許の重大さが分かるいい例ですね。この経過情報は読み応え十分です。まあ同じような記述がダーッと出てきますので長くて読むのは大変ですが、特許の管理を目指す方にはよい事例ではないでしょうか。
ご興味がおありなら読んでみたらいかがでしょうか。企業の知財に関する戦いはすごいです。
特許の概要
発明の名称 |
液体収納容器、該容器を備える液体供給システム、前記容器の製造方法、前記容器用回路基板および液体収納カートリッジ |
出願番号 |
特願2004-330952(P2004-330952) |
公開番号 |
特開2006-142484 (P2006-142484A) |
特許番号 |
特許第3793216号(P3793216) |
出願日 |
平成16年11月15日(2004.11.15) |
公開日 |
平成18年6月8日(2006.6.8) |
登録日 |
平成18年4月14日(2006.4.14) |
審査請求日 |
平成16年11月15日(2004.11.15) |
出願人 |
キヤノン株式会社 |
発明者 |
松本 治行 |
国際特許分類 |
B41J 2/175 (2006.01) |
経過情報 |
・出願審査請求後、請求項の全文を補正する手続補正書を提出し、拒絶理由が通知されることなく、特許査定となりました。 |
<免責事由>
本解説は、主に発明の紹介を主たる目的とするもので、特許権の権利範囲(技術的範囲の解釈)に関する見解及び発明の要旨認定に関する見解を示すものではありません。自社製品がこれらの技術的範囲に属するか否かについては、当社は一切の責任を負いません。技術的範囲の解釈に関する見解及び発明の要旨認定に関する見解については、特許(知的財産)の専門家であるお近くの弁理士にご相談ください。