ガラスの釜でごはんがくっつかない
日本の家庭ではもう一家に一台、炊飯器ありますよね(独身一人暮らしの家にはないかもしれませんが)。炊飯器の普及率については、根拠はありませんが、おそらく日本が一番でしょう。それぐらい、あたりまえの家電として我々の生活に浸透していることは疑問の余地がないところです。
今回紹介する発明は、炊飯器の内釜(内鍋)に関する特許です。特許権者は三菱電機株式会社、特許番号4052390号、登録日は2007年12月14日です。
最近は内釜の材質として純銅が用いられたり、土鍋が用いられたりと、ハイエンドな炊飯器では多様な材質が使い分けられていますが、一般的な炊飯器では、内釜の基材にアルミニウムが使われ、内面にフッ素樹脂コーティングがしてあるものが多いと思われます。
このような内釜は、使用するにつれ、そのフッ素樹脂コーティングが剥がれてしまい、下地のアルミが露出してきます。フッ素樹脂に比べてアルミは水を弾きにくいため、ごはんがくっついて取れなくなってしまうという問題点がありました。
そこで、本発明では、基材を磁性体を混入したセラミック、またはセラミックとガラスの混合材とし、さらにその表面をガラス質の釉薬で覆うこととしました。
ガラス質の釉薬で覆うことによりごはんが付着しにくくなり、また、磁性体を混入しセラミックを基材とすることで、炊飯の際に誘導加熱コイルが発する交番磁界によって基材自体が誘導加熱されるため、熱効率が良くなり、電気エネルギーが節約できるという効果を奏するのです。
このような工夫により、ごはんが付着しにくく、また、加熱能力が高まり、短時間でおいしいごはんを炊くことができる炊飯器とすることができました。
発明の背景
本発明は、一般家庭などで日常的に使用される炊飯器に関します。特に、内鍋に特徴があります。
従来の炊飯器は、ご存じのように、上に向けて開口した本体と、本体の開口を覆う蓋体とを備えます。本体は、例えば、鍋を収納するプラスチック製内枠と、本体の外郭を形成する外枠とを有します。また、本体は、本体の上部で内枠と外枠とを係合して支持する枠部を有します。
そして、炊飯器の内枠には、被炊飯物(例えば米および水)を収容する鍋が、出し入れ自在に収容されます。鍋の材質を説明しますと、例えば3層構造になっていて、熱伝導性の良好なアルミニウム層が基材(真ん中の層)となっています。また、基材の外側に磁性金属材料層、具体的にはフェライト系ステンレス層があります。
一方、基材の内側に非粘着層、具体的にはフッ素樹脂コーティング層があります。さらに、炊飯器は、1本の線でできた渦巻状の加熱コイルを備え、この加熱コイルによって鍋を加熱します。
上記のように構成され従来の炊飯器は、被炊飯物を収容した鍋を内枠に収納し、蓋体を閉じた後に、炊飯動作を開始できます。そうすると、所定の手順に従って加熱コイルに高周波電流が供給され、加熱コイルに発生する交番磁界によって、磁性金属材料層(鍋の外側層)に渦電流が流れます。この渦電流によるジュール熱によって誘導加熱され、その熱がアルミニウム層(真ん中の基材)へと伝達されます。
そして、熱がフッ素樹脂コーティング層(内側の層)まで伝わって被炊飯物を加熱します。このとき、熱の一部はアルミニウム層(基材)を通して鍋の底面から全体へと伝わり、鍋全体が熱くなって被炊飯物が加熱されます。
従来の炊飯器は、上記のように、鍋の内面がフッ素樹脂でコーティングされていますが、使用しているうちに剥がれてしまい、基材のアルミニウム等が露出してしまうことがありました。そうなると、ご飯が鍋の内面に付いて取れにくくなってしまうという問題がありました。
また、基材にアルミニウム、外面にステンレス等を使用しているため、蓄熱性が悪く、保温時の消費エネルギーが多くなってしまうという問題がありました。
どんな発明(特許)?
本発明は、上記の問題を念頭に置いて着想されたものです。本発明は、ご飯が付着しにくい内鍋を備えるとともに、保温時の省エネルギー化が図れる炊飯器に関します。
このような炊飯器の発明の具体例について、以下に説明します。
図1は、本発明の炊飯器の一例の断面図です。
【図1】
本体を1で示します。本体1は、正面にメニュー等の選択や炊飯ボタン等の操作を行う操作パネル部2を備えます。また、本体1は、蓋を開閉するためのヒンジ部3を後部に備えます。さらに、中央に内鍋を入れる円形の開口部を有する上枠4を備えます。
また、本体1の側面部を形成する外枠5を備えます。また、底板6、および開口部を閉塞する蓋体7を備えます。
なお、本体前面部に位置し、蓋体7を閉めた状態で止める係止ボタンを8で示します。また、有底筒状(筒の一方が塞がって底を形成している形状)の内鍋収納部を9で示します。内鍋収納部9は、上枠開口部、円形筒状の内遮熱板10、およびコイル台11で構成されます。コイル台11は、後述する温度センサーの突出穴を有します。
図2は、炊飯器の一例の内鍋の断面図です。
【図2】
米および水を収容する有底筒状の内鍋を12で示します。内鍋12は、内鍋収納部9のなかに出し入れ可能に取り付けられます。内鍋12は、上部開口部の外縁から外方へ突出したフランジ部12Aを有し、さらに、該フランジ部12Aとは反対方向(内方)へ突出した凸部12Bを有します。
例えば渦巻き状に形成された誘導加熱コイルを13(図1)で示します。内鍋12が内鍋収納部9に収容されたときに、誘導加熱コイル13は、例えばコイル台11の下部の外面に当接しています。誘導加熱コイル13からの熱は、コイル台11および内鍋12を通って、内鍋12の外側から内部へ向けて伝えられます。
図3は、炊飯器の一例の図2のA部を拡大した内鍋の構成を示す拡大図です。
【図3】
図3に示すように、内鍋12の基材21は、例えば蓄熱性の高いセラミック材、または、セラミックとガラスとの混合材で構成されています。基材21の内面側には、例えばリチウム系結晶化ガラスなどからなるガラス質の釉薬22(ゆうやく、うわぐすり)が施されています。ガラス質の釉薬22によって、基材21の内面が、光沢を持って滑らかになります。
また、内鍋12が誘導加熱コイル13によって加熱される部分の外面側には、加熱部材23が接合しています。加熱部材23は、例えば、鉄、ステンレス等の磁性材で形成されています。加熱部材23は、例えば溶射によって形成されます。
図3では、内鍋の内面側にガラス質の釉薬22を施した様子を示しましたが、これに限定されず、ガラス質の釉薬22に代えて、例えばフッ素樹脂コーティング加工が施される場合もあります。また、上記ガラス質の釉薬22またはフッ素樹脂コーティング加工を内鍋の全面に施す場合もあります。
図1に戻り、蓋体7に備えられ、内鍋12の上部開口部を覆う内蓋を14で示します。内蓋14の外縁部に設けられ、内鍋12のフランジ部12Aに当接して内鍋の開口部をシール(密閉)するための蓋パッキン(例えばシリコンゴム)を15で示します。
コイル台11の中央にある突出穴を貫通し、内鍋12の底部に当接して、内鍋の底部の温度を検出する温度センサーを16で示します。温度センサー16で検出された温度情報に基いて温度を制御して、誘導加熱コイル13の通電を制御できます。
上記のように構成された炊飯器は、操作パネル部3での操作によって、炊飯動作が開始すると、所定の手順に従って誘導加熱コイル13に高周波電流が供給されるように設計されています。そして、誘導加熱コイル13に発生する交番磁界によって、該誘導加熱コイル13のすぐ近くにある内鍋12の加熱部材23(磁性材からなる外側の層)が磁気結合して渦電流が流れるように設計されています。
この渦電流によるジュール熱で誘導加熱され、その熱が加熱部材23の内側の基材21(真ん中の層)へと伝達されます。そして、内側の層(ガラス質の釉薬22、または、フッ素樹脂コーティング加工)を介して米および水を加熱できます。このとき、熱の一部は、内鍋12の壁に沿って伝わります。すなわち、熱は、基材21を通して内鍋12の底部から側壁部へと伝わります。よって、内鍋12全体が温められ、米および水が加熱されます。
以上のような本発明の炊飯器は、内鍋12の基材(真ん中の層)がセラミック材またはセラミックとガラスとの混合材で構成されているため、内鍋の内面にご飯が付着しにくいようになっています。また、内鍋の内面に光沢を出し滑らかにするために施されたガラス質の釉薬またはフッ素樹脂コーティング加工等が剥がれた場合であっても、内鍋にご飯が付着しにくいのです。
また、内鍋12の基材がセラミック材またはセラミックとガラスとの混合材で構成されているため、蓄熱性がよくなり保温時の加熱通電時間を短くできます。よって、電気エネルギーを節約できるため、省エネルギー化が図れます。
また、内鍋12の内面にガラス質の釉薬またはフッ素樹脂コーティング加工が施されているため、ご飯が付着しにくく、汚れが付着しても簡単に落とすことができます。
また、内鍋12の上部開口部の外縁から内方へ突出した凸部によって、保温中に蓋パッキンに付いた露の落下が防止されます。よって、内鍋の内部への露の落下を防ぐことができ、ご飯のふやけを防止することができます。
次に、本発明の炊飯器の別の例を説明します。
図4は、図3で示した内鍋の構成の別の例を示す要部拡大図です。別の例では、内鍋の構成のみが異なり、他の構成は上記の例と同様です。
【図4】
図4に示すように、内鍋12の基材24(真ん中の層)は、例えば鉄、ステンレス等の磁性材の粉体を混入したセラミック材、または、鉄、ステンレス等の磁性材の粉体を混入したセラミックとガラスとの混合材で構成されています。基材24の内面側には、光沢を出して滑らかにするために、例えばフッ素樹脂コーティング加工25が施されています。一方、基材24の外面側には、例えばガラス質の釉薬22が施されています。
このように、別の例では、内鍋12の基材24が、予め磁性材を混入したセラミック材、または、磁性材を混入したセラミックとガラスの混合材で構成されています。これにより、誘導加熱コイルへの通電により発生する交番磁界によって、内鍋12の基材24が磁気結合して渦電流が流れます。この渦電流によるジュール熱で直接的に内鍋12の基材24が誘導加熱されます。そのため、熱効率がよくなり電気エネルギーが節約でき、省エネルギー化が図れます。
また、予め磁性材を混入しているため、図3に示したような磁性材からなる加熱部材と基材24とを接合する必要がないことから、内鍋12の製作が容易となります。
また、図3で示した一例と同様に、内鍋12の少なくとも内面にガラス質の釉薬またはフッ素樹脂コーティング加工を施したことにより、ご飯が付着しにくく、また汚れが付着しても簡単に落とすことができます。
さらに、図3で示した一例と同様に、内鍋12の上部開口部に形成した凸部(内側への突出部)によって、保温中に蓋パッキンに付いた露の落下が防止されます。よって、内鍋12の内部への露の落下を防ぐことができ、ご飯のふやけを防止することができます。
なお、上記で説明した各例では、内鍋12の底面の近くに誘導加熱コイルが配置されていましたが、このような形態に限定されません。例えば、内鍋の底部だけでなく側壁部の近くに誘導加熱コイルが配置される場合もあります。この場合、加熱能力が高まり、短時間でおいしいご飯を炊くことができます。
ここがポイント!
上記の通り、本発明は、炊きあがったご飯が内鍋に付きにくく、保温時の消費電力を抑え、露の落下を抑えてご飯のふやけを防止できる炊飯器を提供します。
本出願で特許となった本発明のポイントを解説しますと、本発明は、主に内鍋の材質や構造に特徴がある炊飯器です。
本発明の炊飯器は、内鍋と、内鍋が収納される本体とを備えます。また、内鍋の外側から内鍋を誘導加熱する誘導加熱コイルを備えます。内鍋は、3層構造であり、真ん中の層である基材がセラミック材またはセラミックとガラスとの混合材で構成されています。基材のうち少なくとも誘導加熱コイルの近くの部分では、基材の外面に、磁性材からなる加熱部材が接合されています。
一方、誘導加熱コイルの近くの部分では、基材の内面に、ガラス質の釉薬またはフッ素加工が施されています。内鍋の上部開口部の外縁には、外方へ向けて突出したフランジ部が形成されています。一方、フランジ部の突出方向の反対側(内方)へ向けて凸部が形成されています。凸部は、フランジ部とつながっていて、内鍋の上部開口部をシールすべく設けられた蓋パッキンに付いた露が、内鍋の内部へ落下することを防止します。
内鍋の基材が、セラミック材またはセラミックとガラスとの混合材で構成されているため、ご飯が付着しにくく、また、蓄熱性がよくなって保温時の加熱通電時間を短くすることができます。よって、電気エネルギーが節約でき、省エネルギー化が図れます。
さらに、内鍋の上部開口部に形成した凸部(内方へ向けて突出)により、保温中に蓋パッキンに付いた露の落下が防止できます。よって、露が内鍋の内部に落下することを防ぐことができ、ご飯のふやけを防止することができます。
何に活用されているの?
本特許は、「三菱電機株式会社」および「三菱電機ホーム機器株式会社」から出願されたものです。ご存じのように家電製品の他、様々な電気機器を販売してきた会社です。
三菱電機ブランドの炊飯器は、以前から様々なタイプが販売されています。本発明のアイデアは、現在販売されている、または、以前販売されていた炊飯器に応用されていると考えられます。
本特許の発明は、以前からある炊飯器をさらに進化させるために考え出されたアイデアであると思われます。身近なところにも、今までにないユニークなアイデアが活用されているようです。
特許の概要
発明の名称 |
炊飯器 |
出願番号 |
特願2003-167602 |
公開番号 |
特開2005-000413 |
特許番号 |
特許第4052390号 |
出願日 |
平成15年6月12日(2003.6.12) |
公開日 |
平成17年1月6日(2005.1.6) |
登録日 |
平成19年12月14日(2007.12.14) |
審査請求日 |
平成17年7月22日(2005.7.22) |
出願人 |
三菱電機株式会社/三菱電機ホーム機器株式会社 共願 |
発明者 |
小暮 栄治、菱山 弘司 |
国際特許分類 |
A47J 27/00 |
経過情報 |
本願は、審査で拒絶査定となり、拒絶査定不服審判を請求して特許となりました。しかし、特許となった後、無効審判を請求されて、特許が無効となりかけました。結果としては、特許権が維持されることになりました。 |
<免責事由>
本解説は、主に発明の紹介を主たる目的とするもので、特許権の権利範囲(技術的範囲の解釈)に関する見解及び発明の要旨認定に関する見解を示すものではありません。自社製品がこれらの技術的範囲に属するか否かについては、当社は一切の責任を負いません。技術的範囲の解釈に関する見解及び発明の要旨認定に関する見解については、特許(知的財産)の専門家であるお近くの弁理士にご相談ください。