地球外惑星で資源を採掘しよう!

月や惑星の探査には、現在も種々の探査機が使用されています。探査機の種類としては上空から撮影するタイプや、地表のある惑星等(ガス惑星ではないもの)であれば直接地表を走行するタイプの探査機が実用化されています。最近では火星探査のために用いられたローバーが、火星の鮮明な画像を地球に送ってくれましたね。

しかし、これまでの探査機は、主として惑星や衛星の表面を撮影するにとどまり、天然資源の探査活動については具現化が遅れていました。

今回紹介する発明は、探査工程と、探査により検出された天然資源を取得する工程、取得された天然資源を貯蔵する工程を有する探査方法についての発明です。出願人は日本のISPACE社、2016年8月10日に日本特許庁を受理官庁として国際出願したものとなります(国際公開番号:WO2018/029833A1, 出願番号:PCT/JP2016/073659)。

本発明では天然資源の代表として水を取り上げ、また、探査対象としては月面を対象としていますが、応用範囲はこれに限定されません。

主たる電源は太陽電池とし、太陽エネルギーを蓄電することで月の「永久影」と呼ばれる窪みにおいても探査活動ができるように考えられています。そして、土壌あるいは岩石を採取し、それらを加熱することでそこに含まれる水分を水蒸気として回収します。これにより、月面で水を採取し保管しておくことが可能となるわけです。貯蔵された水は、後日種々の用途に有効利用することができます。

このような天然資源の採集と保管を続けていくことは、つまり月面で井戸を掘るようなものですから、将来の「テラフォーミング(地球化開発)」に役立つことでしょうね。

惑星や衛星(月など)の探査活動に用いられる探査機が知られています。月の探査といえば、アメリカ合衆国のアポロ計画が有名です。旧ソビエト連邦も月の探査に積極的でした。近年は、中国も月の探査を行っています。

惑星や衛星の探査機としては、地表を走行できる宇宙探査用走行車が挙げられます。太陽の惑星の一つである火星を走行したアメリカ合衆国のマーズ・ローバーという走行車も知られています。

しかしながら、これまで惑星や衛星における探査活動は、表面の様子を撮影したり、地表の成分を分析したりすることに留まっています。よって、その惑星や衛星にある有用な天然資源の探査活動や取得活動については具体化されていません。

このように、惑星や衛星に存在する天然資源を探査して取得したうえで、有効利用しようとする技術は、発明として着目されていませんでした

本発明は、上記の問題を念頭に置いて着想されたものです。本発明は、惑星(火星など)や衛星(月など)などを探査するための探査方法、探査システム及び探査機に関わる発明です。本発明の探査方法では、衛星や惑星において天然資源を探査し、探査によって検出された天然資源を取得し、取得された天然資源を貯蔵します。

本発明の探査方法によって、衛星や惑星にある天然資源を貯蔵できるので、後になってから、貯蔵された天然資源を有効利用することができます。

本発明の探査方法では、例えば月の地表付近にある氷を水に変えて天然資源として取得するために、土壌あるいは岩石中に含まれる氷を気化させて水蒸気を回収して、水蒸気を冷却して水を取得することができます。

この方法によって、水を取得して貯蔵することができるので、月で水を利用することができます。

また、本発明の探査方法では、太陽光が差し込まずに永久影になっている窪みを探査し、窪みにおいて、土壌あるいは岩石を加熱することによって氷を気化させて水蒸気を回収して、水を取得することができます。

この方法によって、月の永久影において水を取得して貯蔵することができます。そして、貯蔵した水を月で利用できます。

また、本発明の探査方法では、永久影以外の太陽光が当たる地表部分に太陽電池を配置して、太陽電池に発電をさせます。そして、発電された電力を用いて、土壌あるいは岩石を加熱することによって氷を気化させて水蒸気を回収し、水を取得します。

この方法によって、永久影以外の月面に配置された太陽電池で発電できるので、永久影になっている窪みであっても、太陽電池で発電された電気を用いて、窪み内の土壌あるいは岩石を加熱することができます。

また、本発明の探査方法では、水を貯蔵するときに、取得された水は、配管を通ってタンクまで運ばれ、このタンクに水を蓄えることができます。

この方法によって、水をタンクに蓄えておくことができるので、後になって宇宙空間で水を利用することができます。

なお、本発明の探査システム及び探査機は、上記の探査方法を実施するために設計されています。詳細については、後で説明します。

このような発明を実施するための具体例について、以下に説明します。

図1は、本発明の探査方法の流れを示すフローチャートです。

まず(ステップS101)で、衛星、小惑星、または惑星において天然資源を探査します。
次に(ステップS102)で、探査によって検出された天然資源を取得します。
続いて(ステップS103)、取得された天然資源を貯蔵します。

このようなステップを実行することで、衛星、小惑星、または惑星にある天然資源をいったん貯蔵することができるので、後になって、貯蔵された天然資源を有効利用することができます。

以下、探査システムを月の探査活動に用いる例について説明します。この例では、天然資源として水を採取します。

【図1】

最初の例を図2に示します。月の地表部分の断面を模式的に表した図2に示しますように、月Mの北極付近においては、太陽光が月面LSとほぼ平行に入射します(矢印A1)。よって、月Mの北極付近にある窪みRの内部は、太陽光が永久に差し込まない永久影となっています。従って、窪みの内部は、非常に温度が低くなっています。

図2に示すように、探査システムS1は、探査機1と、貯蔵庫(タンク)3と、探査機1とタンク3との間にある配管2とを備えます。配管2の中を水が通ります。タンク3は月面LSに設置されています。

無人探査機である探査機1は、地球からの指令によって操作されます車輪11、12を備える探査機1は、月面LSの上を走行し、さらに、図2に示すように窪みRの内部に侵入できます。

検出部13と、取得部14とをさらに備える探査機1は、検出部13によって、月(または衛星など)において天然資源を検出します。例えば、検出部13は、永久影になっている窪みRで水を検出します。例えば検出部13は特殊な分析装置を用いて、水素や重水素の有無を検出し、水があるかないかを判断します。電導率を測定することで水の有無を検出することもできます。その他、マススペクトルメータ、クロマトグラフィーまたはイメージングなどの分析方法によって水を検出することもできます。

探査機1の取得部14は、検出部13によって検出された天然資源(具体的には水)を取得します。取得部14は、加熱部141を備えているため、永久影になっている窪みRにおいて、矢印A2に示すように加熱部141によって土壌あるいは岩石を加熱できます。加熱によって、土壌あるいは岩石中に含まれる氷が気化(蒸発)します。

その後、矢印A3に示すように立ち上った水蒸気を取得部14が回収して、水を取得します。月面LSには、レゴリス(細かい粒子の堆積物)などの土壌があるので、土壌(例えば、レゴリス)あるいは岩石に含まれる氷を気化させて水蒸気を発生させ、発生させた水蒸気を回収することによって、水を取得することができます。

配管が取得部14とタンク3とを繋いでいるため、取得部14で取得された水が配管2を通ってタンク3まで運ばれます。

【図2】

続いて、別の例について説明します。タンク3が月面LSに設置されていた最初の例と異なり、一方の探査機がタンクを備え、太陽電池で発電された電力が他方の探査機へ供給されます。

図4に示すように、別の例に係る探査システムS2は、探査機1(子機)と、探査機4(親機)とを備えます。探査機1は、最初の例の探査機1と同様です。

探査機4は、無人探査機であり、地球からの指令によって操作されます。

探査機1(子機)と探査機4(親機)は、テザーと呼ばれる紐20によって結ばれています。紐20には、水が通る配管21と、電力を供給する配線22とが収容されています。すなわち、配管21の一端部が探査機1(子機)に接続され、配管21の他端部(もう一方)が探査機4(親機)のタンク43に接続されています。

車輪41、42を備える探査機4(親機)は、月面LSを走行でき、月面LS上で太陽光を受けることができる位置に移動できます。探査機4は、さらに、タンク43と、太陽電池44と、制御部45とを備えます。

探査機1(子機)から配管21を通った水は、探査機4(親機)のタンク43に蓄積されます。

制御部45は、太陽電池44で発電された電力を探査機1(子機)に供給することを制御するコントローラです。配線22を経由して電力が探査機1(子機)に供給されますが、無線の給電方法を採用することもできます。

このように、別の例に係る探査システムS2は、検出部13および取得部14を備えます。また、配管21の一端部が接続された探査機1(子機)と、配管21の他端部が接続されたタンク43を有する探査機4(親機)と、を備えます。検出部13は、月Mにおいて水を検出し、取得部14は、検出部13により検出された水を取得します。

これにより、月で探査機4に水が貯蔵され、後になって、貯蔵された水を有効利用することができます。

探査機1(子機)は、永久影になっている窪みに配置され、探査機4(親機)は、永久影以外の月面に配置されます。探査機4(親機)は、太陽電池44を備えます。また、探査機4(親機)は、太陽電池44で発電された電力を探査機1に供給することを制御する制御部45を備えます。

このように、永久影以外の月面に配置された探査機4(親機)の太陽電池44が発電し、発電された電力が探査機1(子機)に供給されます。よって、発電された電力を利用して、探査機1(子機)の取得部14が、土壌あるいは岩石を加熱し、氷を気化させて水蒸気を回収し、水を取得することができます。

また、車輪で走行可能な探査機4(親機)は、タンクに蓄積された水を月面の所望の場所にまで運ぶことができます。

なお、探査機4(親機)は、地球の地上局と通信できる通信部を備えることができます。

【図4】

最後の例について説明します。最後の例では、永久影以外の月面に配置された宇宙機は、探査機ではなく、ランダーです。ランダーとは、惑星(例えば、月など)の表面に着陸して、静止することができる宇宙機です。

図5に示すように。この例の探査システムS3は、探査機1と、ランダー5とを備えます。

ランダー5は、月面LS上で太陽光を受けることが可能な位置に着陸します。

探査機1とランダー5とは、上記別の例と同様に、テザーと呼ばれる紐20によって結ばれています。紐20には、水が通る配管21と、電力を供給する配線22とが収容されています。

すなわち、配管21の一端部が探査機1に接続され、配管21の他端部(もう一方)がランダー5のタンク51に接続されています。

ランダー5は、探査機1から供給された水を貯めるタンク51を備え、さらに、太陽電池52と、制御部53と、通信部54と、アンテナ55とを備えます。

制御部53は、太陽電池52で発明された電力を探査機1に供給することを制御するコントローラです。配線22を介して電力が探査機1に供給されます。

通信部54は、アンテナ55を介して地球の地上局と通信できます。

このように、最後の例に係る探査システムS3は、検出部13および取得部14を備えます。また、配管21の一端部が接続された探査機1と、配管21の他端部が接続されたタンク51を有するランダー5と、を備えます。検出部13は、月Mにおいて水を検出し、取得部14は、検出部13により検出された水を取得します。

月において水がランダー5に貯蔵され、後になってから、貯蔵された水を有効利用することができます。

なお、探査機1が検出部13および取得部14の両方を備える必要はなく、一方の探査機が検出部13を備え、他方の探査機が取得部14を備えることもできます。例えば二つの探査機が窪みR内に侵入する場合、一方の探査機の検出部13が水を検出し、他方の探査機の取得部14が水を取得することもできます。また、例えば、探査機1は核融合反応を利用して発電することもできます。地球ではなかなかできない発電方法です。

なお、加熱部141によって土壌あるいは岩石を直接加熱しなくても、土を採取あるいは岩石を採掘して、採取した資料を加熱することもできます。また、取得部14によって土壌を所定の深さまで掘った後に、加熱部141によって加熱することもできます。

【図5】

上記の通り、本発明は、惑星や衛星(月など)に存在する水などの天然資源を有効的に利用できる、探査方法、探査システム及び探査機を提供することができます。

本発明のポイントを解説しますと、本発明の「探査方法」では、衛星や惑星において天然資源を探査し、探査によって検出された天然資源を取得し、取得された天然資源を貯蔵します。

また、本発明の「探査システム」は、衛星、小惑星、または惑星において天然資源を検出する検出部を備えます。また、検出部により検出された天然資源を取得する取得部を備えます。さらに、取得された天然資源を貯蔵する貯蔵庫を備えます。

さらに、本発明の「探査機」は、衛星、小惑星、または惑星において天然資源を検出する検出部を備えます。また、検出部によって検出された天然資源を取得する取得部を備えます。そして、取得された天然資源を貯蔵庫に貯蔵するように構成されています。

本発明の「探査方法」、「探査システム」、「探査機」によって、衛星、小惑星、または惑星における天然資源が貯蔵されるので、後になって、貯蔵された天然資源を有効利用することができます。

本発明を出願した株式会社ispace(アイスペース)は、日本の宇宙ベンチャー企業です。民間のチカラで月面探査を実現することを目指している企業です。

月面探査チームの公式名はHAKUTO(ハクト)と命名されています。月面探査の技術に関わる特許出願として本出願が行われたと思われます。

上述しましたように、本特許出願の発明は、例えば氷の状態で埋蔵されている月の水を有効利用するために使用されると思われます。

本特許出願の発明は、まさに月で天然資源を採取して貯蔵するためのアイデアであると予想されます。近い将来、民間のチカラによって月で水を採取することが実現できるかもしれません。

発明の名称

探査方法、探査システム及び探査機

出願番号

PCT/JP2016/073659

公開番号

WO/2018/029833

特許番号

US 9,085,897

出願日

2016.08.10

公開日

2018.02.15

出願人

株式会社ispace

発明者

袴田武史
中村貴裕
ウォーカージョン
清水敏郎
田中利樹
古友大輔
工藤裕
宮本清菜

国際特許分類

E21C 51/00
B64G 1/16
G01V 9/00

経過情報

本出願(PCT/JP2016/073659)をPCT出願した後、優先権を主張してPCT出願(PCT/JP2017/028680)され、その後アメリカ合衆国へ移行しました。アメリカ合衆国では、現段階で特許になっていません。日本国へは移行していません。

<免責事由>
本解説は、主に発明の紹介を主たる目的とするもので、特許権の権利範囲(技術的範囲の解釈)に関する見解及び発明の要旨認定に関する見解を示すものではありません。自社製品がこれらの技術的範囲に属するか否かについては、当社は一切の責任を負いません。技術的範囲の解釈に関する見解及び発明の要旨認定に関する見解については、特許(知的財産)の専門家であるお近くの弁理士にご相談ください。