エレベータで気軽に宇宙へ

スペースエレベータ(宇宙エレベータ、軌道エレベータ)と言われれば、年代によって情報元は違うかもしれませんが、アニメでよく描かれていた、静止衛星と地上とを結ぶエレベータのことを思い浮かべる人は多いでしょう。古くは「宇宙空母ブルーノア」や「超時空世紀オーガス」、最近では「ガンダム00」「翠星のガルガンティア」、実写の特撮としては「劇場版仮面ライダーカブトGOD SPEED LOVE」でも登場しましたので、SF好きならすぐに想像できるはずです。

そんなスペースエレベータですが、実は空想世界の話だけでなく、現実にその技術が研究開発されていることをご存知でしょうか。日本でも宇宙エレベータ協会という一般社団法人があるくらいで、実は宇宙開発技術で最もホットな分野の一つなのです。

今回紹介する発明は、スペースエレベータの中でも、自立式と呼ばれる、地面から上へ伸ばしていくタイプのスペースエレベータタワーです。1978年にアーサー・C・クラークが提案したのは、静止衛星から地面に向かってケーブルを下ろすとともに、地球と反対側に質量バランスをとるためのカウンター(おもり)を伸ばしていくというものでした。しかしこれには少なくとも35,000kmのケーブルが必要で、適切な強度特性を有するケーブルは技術的に実現困難でした。

そこで、米国カルフォルニアのTHOTHテクノロジー社は、宇宙からケーブルを下ろすのではなく、地上から自立型のエレベータを組み上げていくという特許を2008年に国際出願し、米国特許商標庁に特許が認められました(特許登録日:2015年7月21日、特許番号:US9085897B2)。

この発明では、エレベータタワー自体をシート材料で形成し、複数のセグメントに区切って空気圧で加圧し膨らませるという構造を提唱しています。この中を動力式昇降装置、つまりエレベータを通すことで、地表から遙か上空まで登ることができるとのことです。さらにはペイロード発射システム、つまり輸送機(ロケットなど)を上空から発射することも想定しているとのことで、宇宙好きには大変興味深いものとなっています。

地上から離れて宇宙空間へ向けて飛び立つためには、大きな運動エネルギーが必要です。従来、高度50km以上の領域へ到達するためには、ロケットを使用するしかありませんでした。

しかし、ロケットを使った打ち上げは、大量の燃料を消費しなければならないため、極めて非効率です。一方、宇宙空間へ必要な設備等を運搬する手段としてエレベータを使用する場合は、燃料を搭載する必要がなく、上昇するときの速度も遅いため、上昇時の大気抵抗をかなり小さくできます。また、エレベータを動かすためのエネルギーは、燃料からでなく電気のかたちで供給されるされるため、エレベータに燃料を搭載する必要がありません。

宇宙エレベータという構想は以前から提案されています。特にアーサー・C・クラークが1978年に発表した小説が有名です。宇宙エレベータは、ケーブルを宇宙へ打ち上げるか、ケーブルを作りながら伸ばしていくことで構築できます。しかし、宇宙エレベータの構想がクラークによって広まって以降、適切な強度特性を持つケーブルの開発や、宇宙空間での各種装置の建設など、克服しなければならない技術的な課題はいまだに解決されていません。単に既知の材料を使用しただけでは、必ずしも十分に自重を支えることができないのです。

このように、燃料を大量に使用するロケットに代わり、地球の周囲の宇宙空間で活動できる場を提供する宇宙エレベータタワーの構想があるものの、宇宙エレベータタワーを実現するための具体的手段は、あまり検討されていませんでした

本発明は、上記の問題を念頭に置いて着想されたものです。本発明は、宇宙エレベータタワーに関し、より詳細には、上空の基幹場所へと積載物を運搬するための自立型宇宙エレベータタワーに関します。

本発明の宇宙エレベータタワーによって、科学研究、通信、観光の目的で、地球の上空の基幹場所へと、機器や人などの積載物を送ることができます。また、基幹場所から人工衛星などを打ち上げることができます。

宇宙エレベータタワーで支えられた上空の基幹場所は、地上から打ち上げて作る基幹場所に比べ大きな利点があります。例えばロケットによって人工衛星などを打ち上げようとすると、大気の空気抵抗に打ち勝つような設計が必要ですが、上空の基幹場所から人工衛星などを打ち上げるときはそのような必要がありません。そのため、人工衛星等を直接地球軌道に投入することが可能です。

また、宇宙エレベータタワーで支えられた基幹場所は、地球の周りをまわる静止軌道上の基幹場所と比較して大きな利点があります。宇宙空間の静止軌道よりも地表に近いエレベータ基幹場所は、広域通信や観光活動のために理想的な場所です。具体的には、エレベータによって設けられる基幹場所は、地表から所定の距離だけ離れた観測局となったり、観光の目的地として利用されたりします。

また、宇宙エレベータタワーは、地球上の所定範囲を見渡せる観測基幹場所を提供することもできます。このような基幹場所は、観測や通信のために使用できます。

このような宇宙エレベータタワーの発明を実施するための具体例について、以下に説明します。

図1は、分割型宇宙エレベータタワー10の一例です。宇宙エレベータタワー10は、上端部11と主塔部13(または下端部)とを備えます。主塔部13は、縦方向に積み重ねられた複数のコアセグメント14で構成されたエレベータコア構造体12を備えます。一方、上端部11は、メインポッド16と基幹場所18(基幹場所)とで構成され、エレベータコア構造体12によって支持されています。

エレベータコア構造体12の内部では、エレベータカー(図示せず)が上昇及び下降します。エレベータカーは、例えば、機器、人員、観光客といった積載物を輸送するために使用されます。エレベータカーは、エレベータコア構造体12の外側または内側で宇宙エレベータタワー10を上昇および下降します。エレベータカーは、例えば自分自身の動力で動いたり、空気圧、電気、磁気などの動力源を受けて動いたりします。

コアセグメント14の内側には、乗客や貨物を降ろすための場所(駅など)が設けられています。重量を制限するために、これらの構造物は軽量設計となります。

【図1】

図2A~図2Bは、宇宙エレベータタワーの各例を示します。図2Aに示された宇宙エレベータタワー110も、上端部111と、主塔部113(下端部)とを備えます。図1と符合は異なりますが、エレベータコア構造体112、複数のコアセグメント114、エレベータコア構造体112、メインポッド116、基幹場所118などは、図1に示す構造とほぼ同様です。

コアセグメント114は、開放筋交い格子構造120を有する4つの四角形構造物で形成されています。コアセグメントの各四角形構造物は、乗客及び貨物の降車に便利な位置でデッキ122を支持しています。

図2Bの宇宙エレベータタワー210は、図2Aと同様に、上端部211、主塔部213(下端部)、エレベータコア構造212、複数のコアセグメント214、エレベータコア構造212、メインポッド216、基幹場所218を備えます。コアセグメント214は、開放筋交い格子構造220によってテーパ状(末広がりな)四角形構造となっています。

コアセグメントの各テーパー状の四角形構造物は、乗客及び貨物の降車に便利な位置でポッド224を支持することができます。ポッド224は、駅などとして機能できます。

【図2A】、【図2B】

図3Aは、コアセグメント614の構造(構成要素)を示しています。

コアセグメント614は、長手方向に延びる軸630を中心にした中空円筒形の壁632を有します。コアセグメント614は、長さB、外径C、及び厚さAの壁632を有します。圧力セル638は中空であり、加圧ガスで満たされています。圧力セル638の壁は、圧力を保持できるような厚さで形成され、非常に高い強度の材料で形成されています。壁以外の材料は、柔軟であり、それ自体の強度はさほど高くありません。

図3Bは、別の例のコアセグメント614を示しています。コアセグメント614は、長手方向軸630を取り囲むように厚さAの壁(内壁面634及び外壁面636)を備えます。壁の内側に中空内部空洞639があり円筒形状となっています。

コアセグメント614は、長さ方向に沿って連続的に配された上端部650、中間部652、及び下端部654を備えます。コアセグメント614の上端部650において、中空内部空洞639には、内径Dおよび深さHの真空チャンバ656があります。真空チャンバ656は、中間部652とは隔離されています。真空チャンバ656の内部には、回転可能なジャイロホイール660(円盤状のコマのような物)が吊り下げられています。

コアセグメント614の下端部にも、同様に構成された真空チャンバ656およびジャイロホイール660が配置されています。

コアセグメント614は、中間部652の圧力デッキ658上に位置する機械ハウジング662をさらに備えます。機械ハウジング662内には、圧縮機機械またはジャイロ機械などがあります。圧縮機機械は、ジャイロホイール656に対する空気抵抗を下げるために、真空チャンバ656内の低圧状態を維持します。ジャイロ機械は、ジャイロホイール660の回転運動量を調節します。ガス及び電力導管664は、ガスおよび電力を供給するために、中空内部空洞639を貫通しています。

ジャイロホイール660は、タワー形状を(できるだけ真っすぐな)好ましい状態で安定させるため、例えば、コマのようにクルクルと回転するジャイロスコープです。ジャイロスコープは、通常、エレベータコア構造体12全体に配置され、エレベータコア構造体12が動作している間、連続的に動作しています。ジャイロスコープは、回転軸を中心にして回転し、この回転軸は、エレベータコア構造体12の長手方向と一致しています。

宇宙エレベータタワーは、タワーの揺れ、つまり振動を減らすために(図4をご参照)、上記ジャイロスコープのような能動的な調和制御機構(下記をご参照)を備えます

【図3A】、【図3B】

図4A~図4Cは、様々な力を受けて宇宙エレベータタワー10が変形する様子を模式的に表しています。

図4Aは、調和制御機構が作用する様子を示す典型例を表しています。物理学の力学を詳細に理解することは難しいので、概要だけを説明します。

図4B及び図4Cに示される例のように重心780(×印のところ)がタワーの地上部分の真上にあればタワーの変形は比較的小さいのですが、図4Aのように重心780が大きくずれると、元のタワー形状に戻すために制御しなければなりません

この制御のために、上述したジャイロホイール660を利用できます。ジャイロホイールを使用した安定化システムによって、振動Lが起こりますが、この振動を能動的に利用して、元のタワー形状へと戻すことができるのです。宇宙エレベータタワー10は、このような調和制御機構を備えます。

【図4A】~【図4C】

図5A~図5Cは、コアセグメント614の例を示しています。図5Aのコアセグメント614は、直径Cの円筒形外壁630と、直径Dの同軸円筒形内壁とから形成されています。

外壁670と内壁631との間の円筒形シェルは、複数の圧力区画672に分割されています。圧力区画672は、空気または別の適切なガスで加圧されます。

図5Bのコアセグメント614bは、図3A及び図3Bに示されるコアセグメント614に類似しています。図5Bのコアセグメント614は、中空ではなく、複数の圧力セル638bで形成された円筒の内側にさらに圧力セル637bを有します。

図5Bは、コアセグメント614bを構成する1つの圧力セル671の内部にエレベータシャフトがあることを示しています。

図5Cのコアセグメント614cは、図2Aに示されるエレベータコア構造に対応します。開放筋交い格子構造620によって4つの正方形構成で支持された4つの圧力セル638cで構成されています。

図5Cは、圧力セル638cの外面を上昇するエレベータカー673の例を示しています。

【図5A】~【図5C】

図6A及び図6Bは、2つの打ち上げシステムの構成を示します。図6Aに示す打ち上げシステムは、通信用及び観光用のメインポッド816を備えます。

また、メインポッド816の側面に、積載物886を発射するための傾斜した一体型発射管884を備えています。積載物886が発射される前に、化学推進エンジン(図示せず)が作動して発射管884の後端890が加圧されます。

図6Bに示される打ち上げシステムでは、回転運動による遠心力を利用します。積載物886の重心が回転軸Qから距離Pとなるように、発射管884はトラス構造892に取り付けられます。

この構成では、回転運動による遠心力が放出前の積載物886に与えられます。積載物886は、遠心力が加わった状況で回転運動を減衰させる(回転を遅くする)ことによって発射されます。

【図6A】、【図6B】

図7A及び図7Bは、宇宙エレベータタワー10を作り上げる方法を示します。図7Aに示す方法では、コアセグメント14を押し出す機構を用いてエレベータコア構造体12を垂直に立てていくことができます。

上述した制御機構を備えたポッド24は、エレベータコア構造体12に埋め込まれるように、ローラシステム995によって押し出されます。ガスおよび電力導管964は、各ポッド24とともに押し出されます。

コアセグメントの壁は、例えば、液体状の材料996を押し出し成形することで作られていきます。コア部の昇降には、例えば空気圧とローラー機構を用います。

図7Bは、セクションを1つずつ上昇させてコアセグメント14を設置するときの様子です。建設エレベータ899によってセクションを上昇させる建設方式を示しています。

安定化システム(上述の通りジャイロホイールなどを有する)を備えたコアセグメント14は、建設エレベータ899の上に持ち上げられ、すでに積み上げられたエレベータコア構造体12の上に設置されます。

【図7A】、【図7B】

図8は、エレベータコア構造体12の用途例を示します。この例では、細長いエレベータコア構造体12の両端部1002が地面に固定されています。

このようなエレベータコア構造体12は、乗客及び貨物を別の場所に移動させるための大量輸送システム1000として利用することができます。

この構造体は、例えば、人口密度の高い地域を互いに接続するため、または、航空路に代わる移動手段を提供するために配備されます。頂点1008に近い領域では、ジャイロ1004のスピン軸が長軸1006と直交し、端部1002の近くでは、ジャイロ1004のスピン軸が長軸1006と平行になります。ジャイロ1004と、ジャイロ安定化コアセグメント14とは、このように配置されます。

【図8】

図9に示されるように、2つのエレベータは、互いにすれ違うことができ、双方向に走行できます

例えば駆動輪996を使用して走行が実現されます。エレベータは、通常の運転ではタワーを上昇または下降します(A)が、2つのエレベータが出会った場合は、すれ違うことができます(B)。

【図9】

本発明の宇宙エレベータタワーは、柔軟なシート材料から形成された空気圧構造体(例えば図1のエレベータコア構造体12)を備えます。

空気圧構造体は、宇宙エレベータタワーの長さに沿って配置された複数のセグメント(例えば図3Aのコアセグメント614)を有します。

複数のセグメントは、それぞれ、コアを規定する複数のセル(例えば図3Aの圧力セル638)を備えます。複数のセルは、空気圧で加圧された構造体を支持するためのガスで加圧されています。

本発明の宇宙エレベータタワーの最も特徴的な部分は、長さ方向に間隔を空けて配置された複数の安定化システム(上述の通り)です。

安定化システムは、調和制御機構(上述の通り)を用いて宇宙エレベータタワーを能動的に安定化させるように構成されています。

簡単な言い方をしますと、円筒内でクルクルと回るコマによって生じる力を利用して、傾いたタワーを直立状態へと戻すような制御機構が安定化システムとして備わっています。

本発明の「宇宙エレベータタワー」によって、科学研究、通信、観光の目的で、地球表面上の少なくとも1つの基幹場所へと、機器や人などの積載物を運搬できます

本発明を出願した「THOTH TECHNOLOGY INC.」(トートテクノロジー)は、カナダの会社です。2001年に設立され、宇宙用途向けのサービスおよび製品か開発を専門としています。

この会社の社員は、高度なスキルを持ち、宇宙船などの設計、開発、運用において150年以上の経験があるようです。宇宙ミッションをサポートするための管理および技術を提供できる会社です。

上述しましたように、本特許出願の発明は、地球から宇宙へ向けて伸びる構造物(エレベータタワー)を提供するために使用されると思われます。

本特許出願の発明は、まさに未来の宇宙エレベータを実現するためのアイデアであると予想されます。近い将来、ロケットに搭乗しなくても宇宙空間への小旅行が実現できるかもしれません。

発明の名称

宇宙エレベータ(タワー)

出願番号

PCT/CA2008/000340

公開番号

WO2008/101346

特許番号

US 9,085,897

出願日

2008.02.21 PCT出願

公開日

2008.08.28 国際公開

登録日

2015.07.21 (アメリカ合衆国)

出願人

THOTH TECHNOLOGY INC.

発明者

Brendan Mark Quine

国際特許分類

B64G5/00
E04B1/98
B66B9/00
B64G1/00

経過情報

PCT出願の後、アメリカ合衆国へ移行し特許となりました。カナダ、イギリスでも特許となっています。日本国へは移行していません。

<免責事由>
本解説は、主に発明の紹介を主たる目的とするもので、特許権の権利範囲(技術的範囲の解釈)に関する見解及び発明の要旨認定に関する見解を示すものではありません。自社製品がこれらの技術的範囲に属するか否かについては、当社は一切の責任を負いません。技術的範囲の解釈に関する見解及び発明の要旨認定に関する見解については、特許(知的財産)の専門家であるお近くの弁理士にご相談ください。