作業効率をアップさせるアイディア義手

ピーターパンの宿敵、フック船長は左手にフック型の義手をつけていることは多くの人が知るところです。フック船長はかつてピーターパンに左手を切り落とされたことにより義手を装着するようになったのですが、この義手は実はフックだけでなく、ナイフや栓抜きを着脱可能になっているそうです(アニメ版)。

このように腕(上肢)を欠損した人が義手をつけることは、昔から行われていることであり、広く理解されるところです。義手は、機能的に分けると、装飾用義手、能動式義手、作業用義手の3種類に大別できますが、フック船長の義手はこのうち「作業用義手」に分類されるものとなります。

今回紹介する発明は、このような作業用義手において、鉄棒のような断面の丸い棒状部材を持ちやすくしたものです。公益財団法人ヒューマンサイエンス振興財団が出願し、特許権を取得したものとなります(出願日:2016年5月25日、特許番号:特許第6703227号、登録日:2020年5月12日)。

従来の義手の形状において、まさにフック船長が装着しているような曲鉤形状は、物をひっかけて使用する場合などによく用いられてきましたが、フック型(アルファベットのC字型)の形状では、棒状部材を装着したときに棒と手先具とが外れやすいという問題がありました。

そこで、従来のフック部分に加えて人間の手でいう「親指」部分を形状・位置を工夫してうまく設けることで、棒を外れにくくし、かつ、脱着時にも簡単な動作で手先具と棒とを組み合わせることが可能となりました。これにより、義手を用いた作業の作業性を格段に向上させることが可能となりました。

上肢切断者や上肢形成不全者が装着する義手の歴史は古く、様々な種類が知られています。機能的に分けると、義手の種類は、装飾用義手、能動式義手、作業用義手の3種類に大別できます。

装飾用義手とは、ウレタン等の柔らかい素材で表面が作られ、外観を重視して作製されるものですが、手先を動かすことはできません。能動的義手とは、上肢の残存機能や体幹の運動を利用して、例えばハーネスにつながるケーブルを操作し、連動する手先の開閉などのコントロールができる義手をいいます。そして、作業用義手とは、外観よりも種々の作業性向上を目的に作られたもので、種々の重作業にも耐えられるように、頑丈に作られていますが、手先の開閉などはできないため、細かい作業には向きません。

本発明は、主として作業用義手に関するものとなります。作業用義手の手先具には、「鍬持ち金具」「鎌持ち金具」「物押さえ」「双嘴鈎」「曲鉤」等がありますが、このうち特に、丸棒部材にひっかけて義手の装着者がその丸棒部材にぶら下がるなどの作業を行う際には、曲鉤(フック)が使われます。

一般に、曲鉤の形状は、円周上の1箇所に切欠部を有するC型の形状をしていますが、このような形状では、手先具を丸棒に引っ掛けて作業をおこなった際に、手先具が丸棒部材から外れやすいという問題がありました。

本発明は、手先具を丸棒部材に取り付ける作業・動作をしている最中に、手先具が丸棒部材から外れにくくなるという効果を奏します。また、手先具と丸棒部材との脱着についても簡単に行うことができるという効果も併せて奏します。

  • 上肢切断者又は上肢形成不全者が装着し、丸棒部材に取付けて該丸棒部材に対して回動自在な動きを可能とする丸棒部材取付用義手手先具であって、
  • 手の甲部及びひら部を有し、長軸方向の基端側にある基端部にて手首に取り付けられる基部と、
  • 先端部分がフック状に長軸方向の下方に折れ曲がっており、手のひら部側に曲率中心を持つようにR部を有している、前記基部の上部に設けられたフック状指部と、
  • 先端部分が長軸方向の上方に突出して前記フック状指部の先端部分よりも上側に位置しており、手のひら部側に曲率中心を持つR部を有している、前記基部の下部に設けられたR状指部と、を有し、
  • 前記フック状指部と前記R状指部とは、前記長軸方向と直交する短軸方向に離間スペースを介して離間しており、
  • 丸棒部材を丸棒部材取付用義手手先具に取り付ける際には、丸棒部材が長軸方向に平行になるように前記離間スペースに嵌め込まれ、ついで丸棒部材取付用義手手先具を前記丸棒部材に対して回転させて前記丸棒部材を前記フック状指部のR部に当接させる、ことを特徴とする丸棒部材取付用義手手先具。

本発明のポイントは、特許請求の範囲の中の3、4段落目に記載された「R状指部」を設けること、そして6段落目に記載された「丸棒部材への手先具の取付け方」にあります。

本発明の義手の形状は以下の写真に示されるとおり、丸棒部材に取り付けて使用するものとなっています。

従来は上記写真のうち、丸棒部材に覆いかぶさるように引っかかる、太い形状のフック部分のみ(参照番号200)でしたので、これでは作業中に丸棒部材が義手から外れやすいということだったわけです。

そこで本発明では、人間の手でいう親指の部分に、「R状指部300」を設けることとしました。

上図で参照番号300で示される部分が「R状指部」となります。ここで、「R状」とはどういう意味かというと、この指部が「ひら部110」の方向へ曲率を持っている(つまり、手のひら方向へ曲がっている)ということを表しています。これにより、フック部分とR状指部とで丸棒部材を包み込むように(まるで掴むように)保持することができるというわけです。

ところで、丸棒部材と曲鉤とを組み合わせる場合、例えば丸棒部材の周囲の大部分を囲んでしまえば、本発明の課題である「外れやすさ」はそもそも発生しません。しかし、そのような義手では、丸棒部材への取付けが非常に煩雑であることが考えられます。

そこで本発明では丸棒部材への曲鉤の取付けやすさも考慮し、上記「R状指部」をフック部分と離すこととしました(請求項1の第5段落部分)。

このような構造とすることで、丸棒部材に角度をつけて回転させることで簡単に装着できることとなりました。この動きは下図を見ていただければ一目瞭然ですね。

このようにR状指部を離しておくことで、回転動作によって丸棒部材への取付けが容易になり、また、外れやすさの解消という2つの課題を一挙に解決できることとなりました。

発明の名称

丸棒部材取付用義手手先具

出願番号

特願2016-103903

特許番号

特許6703227号

出願日

2016.5.25

登録日

2018.3.20

出願人

公益財団法人ヒューマンサイエンス振興財団

発明者

山崎 伸也

国際特許分類

A61F 2/54 (2006.01)

<免責事由>
本解説は、主に発明の紹介を主たる目的とするもので、特許権の権利範囲(技術的範囲の解釈)に関する見解及び発明の要旨認定に関する見解を示すものではありません。自社製品がこれらの技術的範囲に属するか否かについては、当社は一切の責任を負いません。技術的範囲の解釈に関する見解及び発明の要旨認定に関する見解については、特許(知的財産)の専門家であるお近くの弁理士にご相談ください。