『鬼滅の刃』でおなじみの伝統的羽織柄 集英社の商標出願ははたして登録されるのか

『鬼滅の刃』でおなじみの伝統的羽織柄 集英社の商標出願ははたして登録されるのか


集英社は6月24日付けで、人気沸騰中の「鬼滅の刃」に登場するデザインの商標を出願したことが明らかになった。

商標出願されたのは「鬼滅の刃」に登場するキャラクターのデザインで、竈門炭治郎(かまどたんじろう)、竈門禰豆子(かまどねずこ)、我妻善逸(あがつまぜんいつ)、冨岡義勇(とみおかぎゆう)、胡蝶しのぶ(こちょうしのぶ)、煉獄杏寿郎(れんごくきょうじゅろう)ら、6人それぞれの着ている羽織の柄で合計6種類。版元の集英社によるこの商標出願情報は、特許情報プラットフォーム「J-Plat Pat」で確認できる。

鬼滅の刃商標

出願の指定商品は、9類(電子機器関連)、14類(アクセサリ関連)、16類(文房具関連)、18類(かばん関連)、25類(被服関連)、28類(おもちゃ関連)で6デザインとも同様となっている。

ここで疑問になってくるのは、これらの古典的な「柄」がはたして商標として登録可能なのか、という点。

その点、今回のような「地模様」と認識される商標登録出願の扱いについては、特許庁の商標審査基準に明記されており「需要者が何人かの業務に係る商品又は役務であることを認識することができない商標」(商標法3条1項6号)(つまり、自他商品識別機能がない)とされることが原則となっている。 また、地模様からなる商標について商標が、模様的に連続反復する図形等により構成されているため、単なる地模様として認識される場合には、本号(注:3条1項6号)に該当すると判断する。ただし、地模様と認識される場合であっても、その構成において特徴的な形態が見いだされる等の事情があれば、本号の判断において考慮する。とある。

こうした基準に照らし合わせると今回の出願について受理される可能性はどうも低いと考えざるをえない。しかしながら、たとえばデパート「伊勢丹」の紙袋の「柄」は商標登録されている(登録番号5241411号)。また紳士服のポールスチュアートチュアートの洋服の「自模様」も登録になっている(登録番号5515006号)ことも見逃せない。

伊勢丹 
伊勢丹の紙袋の「柄」


ポールスチュアートチュアートの洋服の自模様

義勇やしのぶなど、独自性の強い柄もあるが、炭治郎の市松模様や禰豆子の麻の葉文様は昔から見慣れた印象があるだけに、この模様は既に世の中に溢れているし、和柄を作る時によく使われて幾何学模様系の定番だと言えるので申請には否定的な声が多い。

だが一方で、巷では『鬼滅の刃』の便乗“もどき”グッズがあふれており、集英社が悩ましく思っているのも事実。さらに、第三者がこれらの模様を先に出願した場合、集英社が使えなくなる可能性があるとの指摘もある。仮にダメもとでの防衛的な出願であるとすれば、それはそれで本来の「商標登録」のあり方に一石を投じることにもなりかねない。

デザインに携わる人々からも、また多方面から注目されている今回の集英社による商標登録出願。果たして、ありふれた市松模様は登録されるのだろうか?興味深い。

【参照】

https://news.yahoo.co.jp/byline/kuriharakiyoshi/20200715-00188206/
https://www.yomiuri.co.jp/culture/20201105-OYT1T50182/


Latest Posts 新着記事

ロボットの動きをAIが特許化する時代に──MyTokkyo.Aiの最新発明抽出事例

家庭内ロボット市場が急速に進化している。掃除ロボットや見守りロボットだけでなく、洗濯物の片付けや調理補助など、従来は人が行ってきた細やかな日常作業を担う“家庭アシスタントロボット”が次のトレンドとして期待されている。しかし、家庭内という複雑な環境で、人に近いレベルの判断と動作を瞬時に行うためには、膨大なセンサー情報を統合し、高度なモーションプランニング(動作計画)を行う技術が不可欠だ。 このモーシ...

「施工会社」から「技術企業」へ──特許資産ランキング2025、鹿島建設が首位に立つ理由

建設業界は今、大きな転換点に立っている。少子高齢化による深刻な人手不足、カーボンニュートラルへの対応、インフラの老朽化、建設コストの上昇など、従来型のゼネコン経営では持続可能でなくなる課題が次々と顕在化している。こうした中、各社が未来の競争力として注力しているのが「特許」だ。特殊技術の囲い込み、施工ノウハウの形式知化、AI・ロボティクス・材料開発などの分野で、知財の強化が急速に進んでいる。 202...

自動車軽量化の裏側で進む加工技術革新──JFEスチールの割れ防止発明が鍵に

自動車の軽量化ニーズが高まり、高強度鋼板(AHSS:Advanced High Strength Steel)が普及するにつれて、プレス成形時の“割れ”は避けて通れない技術課題となっている。特にAピラー下部、サイドメンバー、バッテリーフレームなど、複雑な形状でありながら衝突時に高いエネルギー吸収が求められる部位では、L字形状のプレス部品が多用される。しかし、こうしたL字プレス品は、曲げコーナー部に...

アップルはなぜ負けた? 医療特許の壁に直面したApple Watch

米国の特許訴訟市場が久々に世界の注目を集めている。発端は、Apple Watchシリーズに搭載されてきた「血中酸素濃度測定(SpO₂)機能」をめぐる特許訴訟で、米国ITC(International Trade Commission)がアップルに対し“侵害あり”の判断を下したことだ。米国では特許侵害が認められると、対象製品の輸入禁止措置という強力な制裁が発動される可能性がある。今回の判断は、App...

デフリンピック開催に寄せて:「聞こえ」を支えるテクノロジー、人工内耳の「中核特許」

2025年11月、日本では初めてのデフリンピックが開催されています。これは、手話をはじめとする、ろう者の文化(デフ・カルチャー)が持つ独自の力強さに光が当たる、歴史的なイベントです。 https://deaflympics2025-games.jp/   デフリンピックの開催は、スポーツイベントであると同時に「聞こえ」の多様性について考える絶好の機会でもあります。聴覚障害を持つ人々にとっ...

10月に出願公開されたAppleの新技術〜Vision Proの「ペルソナ」を支える虹彩検出技術〜

はじめに 今回は、Apple Inc.によって出願され、2025年10月2日に公開された特許公開公報 US 2025/0308145 A1に記載されている、「リアルタイム虹彩検出と拡張」(REAL TIME IRIS DETECTION AND AUGMENTATION)の技術内容、そしてこの技術が搭載されている「Apple Vision Pro」のペルソナ(Persona)機能について詳説してい...

工場を持たずにOEMができる──化粧品DXの答え『OEMDX』誕生

2025年10月31日、化粧品OEM/ODM事業を展開する株式会社プルソワン(大阪府大阪市)は、新サービス「OEMDX(オーイーエムディーエックス)」を正式にリリースした。今回発表されたこのサービスは、化粧品OEM事業を“受託型”から“構築型”へと転換させるためのプラットフォームであり、現在「特許出願中(出願番号:特願2025-095796)」であることも明記されている。 これまでの化粧品OEM業...

特許で動くAI──Anthropicが仕掛けた“知財戦争の号砲”

AI開発ベンチャーのAnthropic(アンソロピック)が、200ページ以上(報道では234〜245ページ)にわたる特許出願(または登録)が明らかになった。その出願・登録文書には、少なくとも「8つ以上の発明(distinct inventions)」が含まれていると言われており、単一の用途やアルゴリズムにとどまらない広範な知財戦略が透けて見える。 本コラムでは、この特許出願の概要と意図、そしてAI...

View more


Summary サマリー

View more

Ranking
Report
ランキングレポート

海外発 知財活用収益ランキング

冒頭の抜粋文章がここに2〜3行程度でここにはいります鶏卵産業用機械を製造する共和機械株式会社は、1959年に日本初の自動洗卵機を開発した会社です。国内外の顧客に向き合い、技術革新を重ね、現在では21か国でその技術が活用されていますり立ちと成功の秘訣を伺いました...

View more



タグ

Popular
Posts
人気記事


Glossary 用語集

一覧を見る