“走らずして勝つ”華為の自動運転戦略 小米の知財布陣が追う


自動運転技術を巡る開発競争が、いま中国を中心に急加速している。特に注目されるのが、通信大手・華為技術(Huawei)とスマートフォンメーカー・小米(Xiaomi)による知的財産(IP)分野での攻防である。中国最大のNEV(新エネルギー車)市場において、彼らは「EV=車」の枠を超えた、テクノロジー中心の覇権争いを繰り広げている。

とりわけ、華為はもはや「通信企業」の枠を超えた存在であり、自動運転における特許保有件数では世界トップクラス。小米はEVの販売すら始まっていない段階から特許を出願し、技術力と知財での布石を着々と打ってきた。その姿はまさに「知財先行型」テック企業の典型であり、これまでの自動車産業とはまったく異なる潮流を示している。

■ 華為:製造せずして支配する戦略

華為は、スマートフォン分野で米国制裁を受けたことを契機に、新規事業の柱として「スマートカー」領域に参入した。だが、彼らが自動車を「製造」するつもりはない。むしろ、車載OS、通信インフラ、センサー、AI制御といった基幹部品やソフトウェアを他社に提供するティア1(一次サプライヤー)としての立場を取る。

この方針は、自社開発の自動運転プラットフォーム「HI(Huawei Inside)」や、電動車向けのソフトウェアスイート「HarmonyOS for Automotive」などに結実している。これらの技術は既に、長安汽車と共同開発したAITO問界シリーズや、SERES(賽力斯)など複数の中国EVメーカーに採用されており、実車の販売台数以上に技術影響力を持っている。

その背後にあるのが、圧倒的な特許出願数だ。中国国家知識産権局(CNIPA)やWIPO(世界知的所有権機関)によれば、華為の自動運転関連特許は累計で1万件を超えており、ADAS、LiDAR、V2X通信、AIナビゲーションなど多岐にわたる。

これは単なる防衛策にとどまらない。特許網(パテント・サラウンド)を築くことで、競合他社が市場に参入する際の障壁となり、ライセンスフィー収入も狙える。「通信の特許覇者」から「モビリティの知財覇者」へと華為は確実に変貌しつつある。

■ 小米:EV未発売でも技術と知財で布陣整う

一方、小米もまた異彩を放つ存在だ。2021年、自動車事業への参入を正式発表。2024年に自社製EV「小米SU7」を公開し、大きな話題を呼んだ。だが、それ以前から自動運転分野における特許出願は活発だった。発売前の段階で既に2000件超の関連特許を出願しており、これは他の新興EVメーカーを凌駕するペースである。

注目すべきは、その内容と出願先だ。特許は中国国内だけでなく、欧州、日本、米国など複数国にまたがっており、小米のグローバル展開を見据えた戦略的出願である。また、技術領域も多様で、自動駐車、車線変更支援、ドライバーモニタリング、OTAによる遠隔制御機能、クラウドマッピングまで網羅している。

小米のアプローチは、スマホビジネスで培った「統合UX」にある。同社は自社のスマートフォン、家電、IoT製品とEVを連携させ、シームレスなユーザー体験を構築しようとしている。その中核にあるのが、ソフトウェアの自社開発力とそれを守る知財である。スマートカーを「走るスマホ」として捉えることで、既存自動車メーカーとは異なる視点で差別化を図っている。

■ 伝統OEM vs テック企業:知財の視点で見る攻防

華為と小米の動向から見えてくるのは、「知財の次元」で戦う新たな競争構造である。これまでの完成車メーカー(OEM)は、部品製造・組み立てに強みを持ち、技術は外注することも多かった。しかし今、自動運転というソフトウェア主導の領域では、ソースコードやアルゴリズム、クラウド連携などが中心技術となっており、知財を押さえる者が主導権を握る構造が生まれている。

例えば、自動運転レベル3以降では、車両の判断能力が運転者より上位となるため、その「判断ロジック」や「センサー統合アルゴリズム」が極めて重要になる。これらは明確なハードウェアではなく、抽象的なソフトロジックであるため、知財としての取り扱いが重要になる。

華為の戦略はまさにここにある。V2XやAI制御で標準特許を保有し、業界全体に不可欠な技術を押さえることで、自動運転業界の「特許徴収者(パテントトロールではない)」としての地位を築こうとしている。

■ 中国が「標準」を作る日

従来、自動車関連の国際標準や特許は、欧米日が主導してきた。しかし中国企業が特許出願を爆発的に増やし、かつそれらを国際標準に反映させようとする動きが強まっている。たとえば中国政府は「中国標準2035」計画の中で、自国の技術を国際規格に組み込むことを明言しており、NEV・自動運転はその重点分野の一つだ。

華為や小米の出願は、単なる商業的出願にとどまらず、「技術の外交」でもある。国際標準化団体(ISO、SAE、UNECE)に技術提案を行い、自社技術を標準化することで、他社が自ずとその技術を使わざるを得なくなる環境を作る。これにより、標準特許(SEPs)としての地位を確保し、長期的な収益モデルを確立できる。

■ 結語:ペンを持つ者が、ハンドルを握る

自動運転の未来は、技術の競争であると同時に、知財戦略の競争でもある。今や「車を作る」前に「知財を取る」ことが、事業成功の前提条件となりつつある。華為はその最前線を走り、小米はその背後から猛追する。完成車メーカーが彼らに後れを取れば、製造現場はあっても市場での支配権は失う可能性すらある。

EV時代の競争は、エンジンでもシャーシでもなく、「特許」で決まる。かつてタイヤを握った者が王となったなら、これからは“ペンを握る者”が王となる時代なのかもしれない。


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