2025年大阪・関西万博がいよいよ近づいてきた。国際的な注目が集まるこの一大イベントには、最先端のテクノロジー、環境配慮、そして多様性の共生といったテーマが並ぶ。だが、そうした華やかな舞台裏で、忘れてはならないもう一つの重要なテーマがある。それは「安全」だ。
万博会場では、多数の来場者が訪れるだけでなく、多国籍・多文化の集団が集うことで、非常時の対応も複雑になることが予想される。そうした背景のもと、今回注目されているのが、株式会社ストリーモ(本社:大阪市)が開発した特別仕様「ストリーモS01JT 防災巡回車」だ。これは、災害対応と巡回警備の機能を融合させた一人乗り小型電動モビリティであり、2025年万博の消防活動を支援するために投入される。
ストリーモとは何者か?モビリティの再定義
ストリーモは、元ホンダの技術者らが中心となって創業されたスタートアップで、「1人乗り電動モビリティ」というニッチながら高機能なモビリティ分野に挑んでいる。2022年に発表されたS01シリーズは、歩道を走行できる電動モビリティとして注目を集め、高齢者の移動支援、自治体の巡回用車両などで導入が進んでいる。
今回、消防庁との連携のもと開発されたS01JTは、ベースモデルに防災・消防機能を追加したカスタム仕様。従来のS01シリーズの「歩くような乗り心地」「小回り性能」「バリアフリー環境での走行性能」などをそのままに、災害対策のための装備が随所に施されている。
特別仕様「S01JT」その機能と工夫
「S01JT 防災巡回車」は、一見すると通常の電動モビリティと大差ないように見える。しかし、その実態は、災害初動対応を目的に設計された“動く消防支援ステーション”と言っても過言ではない。主な特徴は以下のとおりだ。
- 可搬型消火器の搭載:小規模火災や煙の発生に即時対応できる。
- サイレン・警告灯:人混みの中でも存在感を示し、安全に巡回できるよう設計。
- 緊急通信装置:本部との連絡を即時に取れるインターフェース。
- 全天候型設計:屋外での巡回警備を想定し、雨風にも耐えられる構造。
さらに、同車両は低重心設計のため安定性が高く、狭い通路でも自在に走行できる。これにより、一般車両が入れないような人混みやイベントブース間を巡回し、火災の予兆や異変の兆候を早期に察知できる。
万博という“実験場”での運用
大阪・関西万博は、技術実証と社会実装の実験場とも言える。従来の防災機器では対応が難しかったシーンに、このS01JTは新たな解決策を示してくれるかもしれない。
たとえば、会場内には屋内外を問わず多数のパビリオンが設置されており、人の流れは常に変化する。そうした環境では、固定式の監視カメラや消防設備だけでは不十分だ。移動可能な“人間に近い目線”を持つモビリティが、リアルタイムでリスクを判断することで、防災の網の目をより緻密にすることができる。
さらに、こうしたモビリティにはAIや画像認識技術との連携が期待されている。将来的には、煙や炎、群集の異常行動を自動認識し、オペレーターに通知することで初動を加速させる可能性もある。
地元企業が地元の安全を支える意義
ストリーモが本社を構えるのは、大阪市福島区。つまり、大阪・関西万博の“地元企業”でもある。地元から世界に向けて、地域課題と向き合いながらグローバルな社会実装モデルを示す、という構図がそこにはある。
万博は、単なる観光イベントではなく、地域経済とテクノロジーの接点としても重要な機会だ。ストリーモのようなスタートアップが、公共性の高い領域で成果を上げれば、自治体や消防、さらには防災インフラの調達システム全体にもポジティブな波及効果をもたらすだろう。
展望:防災のパーソナライズ化へ
近年、災害対応において「個別最適化」への動きが強まっている。過去にはマス(大規模一括対応)による救援が主流だったが、今では地域ごと、施設ごとの災害対応計画が求められ、それに合わせたツールやモビリティの存在も重要になっている。
S01JTのような“パーソナライズド防災モビリティ”は、今後高齢化社会や都市集中化が進む日本において、新たな公共交通/防災ツールとなり得るだろう。また、カーボンニュートラルの視点から見ても、電動化された防災車両はSDGsとの親和性が高く、持続可能な社会の担い手としても注目される。
結びにかえて
大阪・関西万博は、未来の社会の縮図である。そこでは技術だけでなく、「人の命を守る」という根源的な課題にも先進的なアプローチが求められる。その中でストリーモS01JT防災巡回車は、足元から安全を支える“縁の下の力持ち”として、確かな役割を果たそうとしている。
この防災モビリティが示すのは、単なる機械ではなく、「地域と未来をつなぐ思想」そのものだ。万博が終わった後も、この小さなモビリティが、全国各地の街角や施設で人々の安全を守る姿が見られる日も、そう遠くはない。