サウスフロリダ大学のエネルギーハーベスティング道路特許


U.S. Patent No. 11773542は、サウスフロリダ大学によって開発されたエネルギーハーベスティング道路技術に関する特許です。この技術は、車両の走行によって発生する機械的エネルギーを電気エネルギーに変換するシステムを提供します。特に、ピエゾ電気素子を用いて、道路の振動や圧力を電力に変換し、これを街灯や交通信号機などの道路インフラの電源として利用することを目的としています。
まず、この特許の紹介説明をする前に、そもそも「エネルギーハーベスティング道路」とは何なのかを簡単に説明しておきましょう。
エネルギーハーベスティング道路とは、車両が道路を走行する際に生じる機械的エネルギー(振動や圧力)を電気エネルギーに変換するシステムを持つ道路のことを指します。この技術は、通常は無駄になるエネルギーを回収し、再利用することを目的としています。

仕組み

ピエゾ電気素子の利用

ピエゾ電気効果:ピエゾ電気素子は、機械的な力が加わると電気を生成する特性を持っています。この素子を道路に埋め込むことで、車両が通過する際の圧力や振動を利用して電力を生成します

エネルギー収集と変換

エネルギー収集:道路に埋め込まれたピエゾ電気素子が、車両の通過によって生じる機械的エネルギーを電気エネルギーに変換します。生成された電力は、バッテリーに蓄えられるか、直接街灯や交通信号機などのインフラに供給されます。

エネルギーハーベスティング道路によって生成された電力は、街灯の電源や、信号機の電源、環境監視システムの電源として使用することで、電力網への依存を減らし、持続可能なエネルギー供給を実現します。

従来技術の問題点

さて、このようなエネルギーハーベスティング技術ですが、従来技術にはいくつかの課題が存在します。

エネルギー効率の低さ

従来のピエゾ電気エネルギーハーベスティングシステムは、実験室環境では高い効率を示す一方で、実際の交通条件下ではエネルギー収集効率が低下するケースがみられました。これは、交通の流れや道路の構造が実験室条件と異なるためです。

耐久性の問題

道路に埋め込まれたピエゾ電気素子は、長期間の使用によって劣化する可能性があります。特に、高交通量の道路では、素子が頻繁に圧力を受けるため、劣化が早まる傾向があります。

コストの問題

ピエゾ電気素子を道路に埋め込むコストが高く、特に大規模なインフラプロジェクトではコストが問題となることがあります。また、メンテナンスや交換にも追加のコストがかかります。

サウスフロリダ大学の特許技術

上述のような技術背景から、サウスフロリダ大学のエネルギーハーベスティング道路特許は、従来技術の問題点を克服することを課題としています。

発明者:Qing Lu 等
出願日:2020年4月6日
登録日:2023年10月3日
発明の名称: Piezeoelectric-based asphalt layer for energy harvesting roadway

高効率なエネルギー収集

道路の構造や交通条件に最適化されたピエゾ電気素子をアスファルト内に配置することにより、エネルギー収集効率が向上します。これにより、実際の交通条件下でも高い効率を維持できます。ピエゾ素子の最適配置により、エネルギー収集の最大化が図られており、特に交通量の多い都市部での利用に適しています。

耐久性の向上

新しい素材や設計を採用することで、ピエゾ電気素子の耐久性が向上し、長期間にわたって安定したパフォーマンスを提供します。特に、耐久性の高い材料を使用することで、素子の劣化を防ぎ、メンテナンスの頻度を減らすことができます。さらに、道路自体の構造を工夫することで、ピエゾ素子への負荷を分散させ、寿命を延ばす設計が施されています。

コスト効果

高効率かつ耐久性のある設計により、メンテナンスコストや交換コストを削減します。これにより、全体的なプロジェクトコストを低減し、導入の経済的メリットを高めます。また、道路の既存インフラに組み込むことで、追加の施工コストを最小限に抑える工夫もされています。

環境保護

環境に優しい材料の使用や、廃棄物の削減にも配慮されています。特に鉛フリーのピエゾ電気素子を使用することで、有害物質の排出を防ぎ、環境への負荷を軽減します。また、再生可能エネルギーを活用することで、二酸化炭素排出量の削減にも寄与します。

多様な応用範囲

この特許技術は、都市部の混雑した道路から郊外の道路まで、幅広い環境で利用可能です。また、道路以外にも、橋梁や駐車場など、さまざまなインフラに応用することができます。これにより、エネルギーハーベスティング技術の利用範囲が広がり、より多くの場所で持続可能なエネルギー供給が可能となります。

実用化の展望

この特許技術は、持続可能なエネルギーソリューションの実現に向けた重要なテクノロジーです。特に、エネルギー消費が高まる都市部において、エネルギーハーベスティング道路は電力供給の一部として重要な役割を果たすことが期待されています。今後の実用化に向けて、さらなる研究開発とフィールドテストが必要でしょう。

【エネルギーハーベスティングシステムの基本構造】

図1はエネルギーハーベスティング道路の基本的な構造を示しています。
各道路セグメント103には、少なくとも2つの導電性アスファルト層106があり、その間にピエゾ電気ベースのアスファルト層109が配置されています。導電性アスファルト層106には、送電線113が埋め込まれています。送電線113は導電性アスファルト層106から外に延びて、アウトレットジョイント116において整流器と接続され、電気エネルギーが取り出されます。

結論

今回紹介した特許技術によるエネルギーハーベスティング道路は、持続可能なエネルギーの未来に向けた画期的な技術です。環境保護と経済的効果を兼ね備えたこの技術は、将来的に広く普及することが期待されます。

特に、エネルギー収集の効率性と耐久性の向上により、持続可能な都市インフラの実現に大きく貢献することでしょう。

なお、この特許は米国において、2023年のトップ10特許の一つとして評価されています。

(参考リンク)

The Top 10 Patents of 2023: Energy Harvesting Roadways, Deep AI Infrastructure and Controllable CRISPR Editing


ライター

+VISION編集部

普段からメディアを運営する上で、特許活用やマーケティング、商品開発に関する情報に触れる機会が多い編集スタッフが順に気になったテーマで執筆しています。

好きなテーマは、#特許 #IT #AIなど新しいもが多めです。




Latest Posts 新着記事

連邦政府が大学の特許収入を狙う トランプ政権の新方針が波紋

はじめに 米国の大学は、研究開発活動を通じて得られる特許収入を重要な財源としてきました。大学の特許収入は、新しい技術の商業化やスタートアップ企業の設立に活用され、イノベーションの促進に直結しています。しかし、トランプ政権下で、連邦政府が大学の特許収入の一部を請求する方針が検討されており、大学の研究活動やベンチャー企業の育成に対する影響が懸念されています。 特に米国は、大学発ベンチャーの育成や産学連...

脱石炭から技術輸出へ:中国が描くクリーンエネルギーの未来

21世紀に入り、世界各国が環境問題やエネルギー安全保障への対応を迫られるなか、中国はクリーンエネルギー分野で急速に存在感を高めてきた。とりわけ再生可能エネルギー技術、電気自動車(EV)、蓄電池、送配電網、そしてグリーン水素などの分野において、中国は「追随者」から「先行するイノベーター」へと変貌を遂げつつある。なぜ中国が短期間でこのような飛躍を実現できたのか。その背景には、国家戦略、産業政策、市場規...

世界のAI特許6割を握る中国 5G・クラウドを基盤に国際競争を主導

近年、中国はデジタル経済の拡大と技術革新を国家戦略の中核に据え、AIや5G、クラウド、データセンターといった基盤技術において世界を牽引する存在となっている。その象徴的な事実として注目されるのが、人工知能(AI)に関する特許出願件数である。国際特許機関の最新統計によれば、中国からのAI関連特許は世界全体の約6割を占め、米国や欧州、日本を大きく上回る圧倒的なシェアを記録している。 本稿では、中国がいか...

AgeTech知財基盤を強化――パテントアンブレラ(TM)が累計41件出願、AI特許も追加

高齢社会の進展に伴い、健康維持、生活支援、介護軽減を目的としたテクノロジー領域「AgeTech(エイジテック)」への注目がかつてないほど高まっている。その中で、知的財産を軸に事業競争力を高める取り組みが活発化しており、今回、独自の「パテントアンブレラ(TM)」戦略を進める企業が、AI関連特許を含む29件の新規出願を追加し、累計41件の特許出願を完了したと発表した。これにより、類型141件の機能をカ...

フォシーガGE、特許の壁を突破 沢井・T’sファーマの挑戦

2025年9月、日本の医薬品市場において大きな話題を呼んでいるのが、SGLT2阻害薬「フォシーガ(一般名:ダパグリフロジン)」の後発医薬品(GE、ジェネリック)の登場である。糖尿病治療薬の中でも売上規模が大きく、近年では慢性腎臓病や心不全の領域にも適応拡大が進んだフォシーガは、アストラゼネカの主力製品のひとつである。その特許の“牙城”を突破し、ジェネリック医薬品の承認を獲得したのが沢井製薬とT&#...

電池特許はCATLだけじゃない――AI冷却から宇宙利用まで、注目5大トピック

近年、知的財産の世界では、特定の企業やテーマに関心が集中しやすい傾向がある。中国・CATLの電池特許戦略や、AIをいかに効率的に冷却するかといったテーマは、テクノロジー産業の今を象徴するキーワードだ。しかし同時に、その裏側には見落とされがちな知財動向や、将来を左右しかねない新しい潮流が潜んでいる。本稿では、「電池特許CATL以外にも」「特集AIを冷やせ」を含め、いま注目すべき5本のトピックを整理し...

バックオフィス改革へ ミライAI、電話取次自動化で特許取得

AI技術の進化が加速するなか、企業のバックオフィスや顧客対応の現場では「省人化」「自動化」をキーワードとした取り組みが急速に広がっている。その中で、AIソリューションを展開するミライAI株式会社は、従来の電話取次業務を人手に頼ることなく「完全無人化」するための技術を開発し、特許を取得したと発表した。この技術は、音声認識・自然言語処理・対話制御を組み合わせ、従来課題とされてきた「誤認識」「取次精度の...

技術から収益化へ――河西長官が訴える“知財活用”の新ステージ

特許庁の河西長官は、来る9月10日に開幕する「知財・情報&コンファレンス」を前に記者団の取材に応じ、日本経済の競争力強化における知的財産の役割を改めて強調した。長官は「日本は技術とアイデアを数多く持ちながら、それを十分に事業化や収益化につなげきれていない。知財で稼ぐ政策を実現することが不可欠だ」と語り、特許庁としても産業界と連携し、知財活用の裾野を広げる方針を示した。 ■ 知財立国から「稼ぐ知財立...

View more


Summary サマリー

View more

Ranking
Report
ランキングレポート

海外発 知財活用収益ランキング

冒頭の抜粋文章がここに2〜3行程度でここにはいります鶏卵産業用機械を製造する共和機械株式会社は、1959年に日本初の自動洗卵機を開発した会社です。国内外の顧客に向き合い、技術革新を重ね、現在では21か国でその技術が活用されていますり立ちと成功の秘訣を伺いました...

View more



タグ

Popular
Posts
人気記事


Glossary 用語集

一覧を見る