Apple、Air Podsの新しいボリュームコントロール方法を出願

徐々にリモートワークからオフィスへの通勤に勤務形態が戻りつつある職場が多いのか、電車の乗客が増えてきた気がします。通勤客をみていると、AirPodsなどの両耳分離型カナル型イヤホンをつけて音楽を聞いている人が多いですね。私感ですが分離型イヤホンはかなり一般に浸透してきたかなと感じています(それに伴って、片側だけ紛失するという事故も多いようですが)。

今回のコラムは、Appleから特許出願されて3月に出願公開されたもののうち、AirPodsのボリュームコントロールに関する発明を簡単に紹介したいと思います。非常にシンプルな特許出願ですが、いかにもAppleらしいユニークなものですので、難しいことは抜きにして見てみましょう。

この特許出願は、公開番号:US2023/0074080A1、出願日:2021.9.9、公開日:2023.3.9、発明の名称は「Volume Control of Ear Devices」です。

AirPodsの加速度センサー/ジャイロセンサーを活用

以前、Appleが開発者向け会議「WWDC20」にて、AirPods Proに空間オーディオ機能とヘッドトラッキング機能を搭載し、サードパーティがこれらの機能を活用したコンテンツを制作できるように、加速度センサーやジャイロセンサーを使うためのCore MotionフレームワークAPIへのアクセスを公開したことは記憶に新しいところです。

ちなみに、空間オーディオは5.1chまたは7.1chサラウンドや、ドルビーアトモスに対応したコンテンツが必要ですが、Appleからはステレオ音源を空間オーディオにアップグレード(アップミックス)するためのAPIも開発者向けに公開されています。

ヘッドトラッキング機能は、ユーザーが頭や身体を動かした際に、音像を正しい定位に補正するためのもので、AirPods ProとiPhone/iPadの両方に内蔵されている加速度センサーとジャイロセンサーを使い、それぞれの情報をP2P接続によってリンクさせながら導き出した位置情報をアンカーにし、空間オーディオの音像定位を決めるというものでした。

AirPodsを回転させることでモーションセンサーを動作させる

この発明は、耳の基準姿勢を慣性センサで決定し、回転入力によるAirPods自体の姿勢変化に基づいて音量レベルを調整するというものです。

まずは、AirPodsの構造を確認しておきます。下図は、Appleが先行して特許を取得している米国特許第9913022号にも記載されているワイヤレスヘッドセット(AirPods)の内部構造です。

基本的な構造を確認しておきますと、AirPodsの構成要素はラウドスピーカー402、フロントマイク403、リアマイク404、慣性センサ(IMU)405、プロセッサ406、通信インターフェース407、バッテリーデバイス408、エンドマイク409および力センサ410を含むハウジング401からなります。フロントマイク403は鼓膜の方向を向き、リアマイクは鼓膜の逆方向を向きます。

エンドマイクロホン409は、イヤホン401の端部、ユーザの口元に近い部分に配置されています。ヘッドセットとして使用する際、ユーザの発話を捕捉するため、および周囲の騒音を捕捉するために、それぞれリアマイク404およびエンドマイク409を用いてビームフォーマーパターンが形成されます(このビームフォーミングにより、信号対ノイズ比(SINR、いわゆるS/N比)が改善し、ユーザーの使用感が良くなります)。

このような構成を持つAir Podsを、意図的に回転させるとどうなるかといえば、基準姿勢が記憶されている慣性センサが機能して、「姿勢が変わった」ことが感知されます。専門的にはデルタ四元数として表される回転角度変位として記録されます(ロール角、ピッチ角、ヨー角)。例えば、以下の図にあるように、ユーザは親指と人差し指でAirPodsの力センサ410を押圧したままAirPodsを回転させたとき、回転角度に応じて音量を調節できるようにしたのが本発明です。

また、AirPodsだけを回転させるのではなく、音量変更制御モードを開始した直後の姿勢を基準として、その後に首を動かすことで音量調節を行うことも例示されています。つまり、下を向けば音量が下がり、上を向けば音量が上がるといった具合です。

もちろん、上下の動きではなく、左右の動きで音量を調節するようにすることも可能です。左を向けば音量が下がり、右を向けば音量が上がる、ということも例示されています。これはユーザの好みの動きを選択できるということです。

実装可能性は不明だが、楽しい機能

AirPodsのモーションセンサの機能を利用した発明ですが、なかなかおもしろいアイディアではないでしょうか。もちろん、まだ出願が公開されただけですので、特許化されるかは不明ですし、製品実装されるかもまったく未知数です。

近い将来、電車の中でしきりに首を上下左右に動かす人が現れるかもしれませんが、その際は変な目で見ずに「イヤホンからの音漏れを気にしているのかな」と察してあげましょうね。