佐藤健、清野菜名、Matt、羽生結弦、窪田正孝、この名前でピーンとくることって何でしょう。そう、ここのところの男性向け化粧品の広告や商品のキャラクターです。さらにことしの元旦、有力新聞各紙であの大物、大谷翔平が羽生結弦とふたりで30段広告。これ、コーセー化粧品の企業ブランド広告で、メインコピーは「肌を 心を 人生を、ケアしていく」。これには新年早々爽やかな気分にさせていただいた。
コーセー化粧品しかり、毎年、元旦の広告は各社の思いが詰まったメッセージで興味深く、世の中の新たな流れも感じられじっくり見てしまう。話は少し逸れたが、このインパクトもあってか、いよいよと言うか、男性向け化粧品が初期段階から大きく成長期に入っていく予感がして、ことしは男性向け化粧品のマーケティングから目が離せなくなりそうだ。
調査会社の富士経済によると、化粧品市場規模は2022年度で前年比2・6%増の約2兆9000憶円(見込み)。メンズコスメの国内市場は2022年に前年比2・1%増の約1580億円となる見込みで、なかでも化粧水や乳液などスキンケア用品は、新商品が相次いで発売されるなど急速に市場が伸びており、21年は347億円と、この10年で6割以上増え、これはスキンケア全体に占める割合は2・7%にとどまるが、コロナ下の外出自粛で女性用が伸び悩む中、男性用の成長は際立っている。
また、男性1人当たりの購入額も増加している。調査会社インテージの調べでは、化粧水など基礎化粧品の購入額は、21年に前年比14・0%増の2179円となった。コロナ前の19年より400円以上も高くなっている。
この男性化粧品市場のいまの状況について、マーケティングの世界でよく出るくるプロダクトライフサイクル理論に当てはめてみると導入期から一気に成長期に入っていく節目の時期だと見える。
もともとは2003年新宿の伊勢丹百貨店の「メンズ館」。ここにこれまでにない規模の男性用化粧品コーナーが設けられたことで一気に認知されるようになった。「メンズ館」はその名称の通り男性向けフッション商品専門の販売施設で、その1階の3分の1が男性用化粧品店で埋め尽くされたのだった。
それから20年を経て男性化粧品市場は1500憶円規模に成長。その導入期を経て、ことし2023年を読み解くと、消費者側とマーケティングしていく企業側、双方でいくつかの潮流が重なって成長期へと市場を押し上げているようだ。まあ、新たな変革が起こる時は多くの場合いくつかの要因が重なって地殻変動のように新たなことが起こり、それが節目となるものだ。
世界的なノージェンダーの流れ、日本でもやっとその加速がみられる
たとえば、歌手、タレント、モデル、プロデュース業とマルチに活躍するMattの人気が象徴的だ。これはスキンケア商品が中心だった男性ビューティー市場が、メイクアップ製品中心に再編されつつあるとも流れとも読み取れる。
また、美容大国の韓国の音楽や映画・ドラマを通して、憧れのK-POPアイドルのメイクを真似する人や、男性のメイクへの抵抗感が薄れる人が出てきて、男性も「美しくなりたい」この美意識やコスメ利用はもはや当たり前という意識が急速に広がる。
なかでもメンズコスメに対して偏見を持たないのがZ世代の男性(なぜ偏見を持たないのかは省略)。この世代はSNSの影響が大きくSNSを見てそのままロフトや東急ハンズ、ドン・キホーテなどのリアル店舗で、またオンラインで購入。そこではナショナルブランドではないスピード感ある中小ブランドの廉価なラインナップと合致している。
一方、面接や営業における印象アップの意識が高まり、30代~40代のビジネスマンが自己投資や身だしなみとしてコスメ・ケア用品を購入ことも珍しいことではなくなってきている。
社会変化では、人口減少、コロナ禍の影響もあって、働き方の変化、そして顕著なのが外国人旅行者による爆買いの大幅減少などの影響もあって、ここのところの化粧品市場の縮小によるメーカー側の経営上の事情。それにより、資生堂、カネボウ、コーセーなど大手化粧品メーカーの相次ぐ本格展開。さらには
22年3月発売のサントリーウエルネスによる男性向けオールインワン化粧品の参入。「VARON(ヴァロン)」で通販ではいち早く本格展開し半年で20万本以上売れたと発表している。
また、「メンズ」「レディース」の垣根を超えた「ジェンダーレスコスメ」も静かに支持され、それに女性の支持も後押ししている。加えて、メンズコスメの購入者は男性とは限らない。女性が「プレゼント」としてメンズコスメを入する機会が増えていることもマーケティング的に重要だ。
SDGsでは多様性が大事と言われ、その「多様性」の理解が進む大きな社会現象下での流れと考えると単なる流行ではないとの認識が広まる。
こうした市場の気分を見てみると、「ルシード」「ギャツビー」など有名ブランドを擁し男性用化粧品で国内シェアトップのマンダムを中心にした、汗やニオイ、育毛も含めたヘアスタイリング剤といった〇
〇対策化粧品の1500憶の規模がそのまま拡大するのではない。その上に「ジェンダーレスコスメ」も含めた“ファッションとしての男性向け化粧品”が上乗せで拡大してくるのだ、いよいよ。
「化粧品は女性のもの」という認識はいまやはっきり過去のものとなり、若い世代からミドル層、さらには若々しいシニアまで、そして女性達からの協調もある。これは海だったところに地殻変動で新たに陸地が出来るように化粧品業界の新市場だ。先行者利益を手にするのは大手企業もスタートアップ企業もまさにフロンティア精神とスピード、そして、ここでもマーケティングのカギを握っているのは女性だと考える。
ライター
渡部茂夫
SHIGEO WATANABE
マーケティングデザイナー、team-Aプロジェクト代表
通販大手千趣会、東京テレビランドを経て2006年独立、“販売と商品の相性” を目線に幅広くダイレクトマーケティングソリューション業務・コンサルティングに従事。 通販業界はもとより広く流通業界及びその周辺分野に広いネットワークを持つ。6次産業化プランナー、機能性表示食品届出指導員。通販検定テキスト、ネットメディアなどの執筆を行う。トレッキングと食べ歩き・ワインが趣味。岡山県生まれ。