Vol18//仮想スニーカーで新市場開拓

スニーカーの愛好家やコレクターは、日本国内はもちろんのこと、世界中に広く存在し、レアなスニーカーはプレミア価格付きの高値で取引されています。

そして、スニーカーメーカーとして世界的に著名なNIKEは、このスニーカーの販売を仮想空間、メタバースに展開し、仮想空間における「バーチャルスニーカー」の取引を手がけようとしています。バーチャルスニーカーは、例えばメタバース空間における自分のアバターに対して着用させるギアとして扱うこともできますし、現実の(物理的な)シューズと併存した形で扱うことも可能です。

ところで、熱狂的なスニーカーコレクターならずとも、自分の気に入ったシューズを売買する上で、販売者及び購入者を悩ませ続けているのが「模倣品・偽造品」の存在です。このような「ニセモノ」の存在は、結果としてブランドの価値を下げてしまい、メーカーにもユーザーにも不利益をもたらすものといえます。

そして、模倣品の問題は現実世界だけでなく、デジタル世界においても同様の問題をもっています(むしろ現実世界よりコピーが容易といえますね)。

今回紹介する発明は、NIKEが、現実世界及びデジタル世界での真正品の取引を行うために、アパレル製品を暗号化デジタルアセット(非代替性トークン:NFT)として取引することで、模倣品が入り込むことができないシステムを提供しようとする特許となります(特許番号:US10475306B1、登録日:2019年12月10日)。

暗号化デジタルアセットは、現在すでにブロックチェーンテクノロジーによる高い信頼性をもって取引・流通されているものですので、この仕組を利用して真正品の取引を行うことが特許の基本概念となっています。

また、出願された特許明細書の中には、デジタル世界ならではのユニークな取引方法やバーチャルスニーカーの「育成」などのアイディアも開示されており、物理的な現実のスニーカーには靴としての商品以上の魅力を感じないという人でも、バーチャルスニーカーには興味がある、ということは大いにあるように思えます。

スニーカーは我々の生活と密接な生活必需品の一つですが、デジタル世界での新たな商品として、今後、まったく新しいビジネスが期待できそうです。

高い品質を謳うシューズメーカーは、長い間、偽造シューズの販売に悩まされてきました。

模倣品は、真のメーカーによる本物の商品を購入していると信じている購入者を欺くことを意図したものでした。デジタルの世界でも同様の問題があり、このような不正な偽造製品や違法なデジタル再生はブランドの価値や独占性を阻害し、企業の収益性に悪影響を及ぼすものでした。

このような問題はさらに、カスタマイズ可能なアバター(皮膚や衣類、各種ギア)を用いた第三者とのゲームの普及に伴って、従来から存在する物理的なブランドが仮想取引市場でデジタルオブジェクトを供給する際にも影響を及ぼします。

  • アッパー及びソールをユーザーの足に合わせたユニークなシューズまたはそのシューズのデジタル設計ファイルに関連する暗号化デジタルアセットの生成を自動的に行うための方法であって、
  • リモートコンピューティングノードからネットワークを介してミドルウェアサーバーを経由して第一者から第二者へのシューズまたはシューズのデジタル設計ファイルの転送を示す取引確認を受信し、
  • 暗号化されたリレーショナルデータベースからミドルウェアサーバーを介して、第二者へ関連付けられたユニーク識別コード(ID)を決定し、
  • シューズまたはデジタル設計ファイルに関連付けられたデジタルシューズおよび固有のデジタルシューズIDコードを含む暗号化デジタルアセットを生成し、デジタルアセットはシューズまたはデジタル設計ファイルとは別に譲渡可能であり、
  • ミドルウェアサーバーを介して暗号化デジタルアセットをユニーク識別コードにリンクさせ、
  • ミドルウェアサーバーを介して、分散ブロックチェーン台帳にユニークなデジタルシューズIDコードとユニークな所有者IDコードを送信して、トランザクションブロック上の第二者への暗号化デジタルアセットの転送を記録し、
  • 暗号化デジタルアセットを第三者に譲渡する要求を伴うデジタル譲渡提案を受け取り、
  • 第三者に関連付けられた新しいユニーク所有者コードを決定し、
  • 暗号化デジタルアセットを新しいユニーク所有者IDコードにリンクさせ、
  • ユニークなデジタルシューズIDコードと新しいユニークな所有者IDコードを分散ブロックチェーン台帳に送信して、新しいトランザクションブロックに記録する方法。

特許請求の範囲を網羅的に図にすると、以下のようなシステム概略図が例示できます。

この図は、暗号化デジタルアセットをマイニング、混合、および交換するための代表的な分散型コンピューティングシステムを表しています。

ユーザは無線通信ネットワークを通じてリモートホストシステム及び/またはクラウド・コンピューティングシステムにアクセスします。この時点で分散型コンピューティングシステム上では単一のユーザを認識します。そして、ユーザの端末が、特許請求の範囲の第2段落にある「リモートコンピューティングノード」となります。

ユーザはスマートフォンやスマートウォッチなどのアプリ(NIKE+など)からシューズを購入することができます。

ユーザは個人情報および支払い方法を入力するトランザクションを完了させ、イーサリアムなどの暗号通貨およびデジタルアセットによる有効な決済を行います(MyEtherWalletなどを用いる)。この決済が完了すると、ホストシステムは、物理的なシューズに関連付けられた固有のIDコードをユーザの個人アカウントにリンクさせます。

物理的なシューズの決済の完了後、仮想表現(デジタルアート)を生成させます。このデジタルアートには、シューズのアバターやアーティストによる演出を割り当てることもできます。

ユーザは、シューズを購入するだけでなく、例えば生成されたクリプトキックを販売することもできます。オークションのような形態で、最低入札価格や購入価格を設定し、選択された任意の時間(数時間、数日、数週間)の販売ウインドウを提供することができます。

さらに、デジタルアセットの所有者は、自身の所有する複数のアセットを混ぜ合わせて(マッシュアップさせて)、「子孫(offspring)」を形成させることができます。これらの実施態様は、以下の図で模式的に開示されています。

以下の図は、販売促進用景品などのデジタルコレクションを取得する方法を概略的に示すものです。ユーザはスマートフォンのAR機能を使用して、競技場においてクリプトキックなどの仮想オブジェクトを配置することができます。

この例では、クリプトキックはスコアボード内に「隠す」ことができます。スマートフォンのカメラが特定の環境の光学的パターン(アリーナ内のスコアなど)を認識した場合などに、アプリが仮想オブジェクトを表示することができるような仕掛けを施すことが可能です。

また、ゲームと組み合わせることで、ゲーム内キャラクタが着用するギア(ユニフォームなど)といったアパレル物品を対象とすることも可能です。

別のオプションとして、全世代を対象とした仮想的なバーチャルペットとしてデジタルアセットをプログラミングすることも可能です。

以下の図は、例えば仮想的な歩行ペットとしてのクリプトキックを提供して、別のユーザのアバターと対話しているユーザのアバターを示しています。デジタルアセットがどのような属性を持つかを、実際の「育成時間」によって変化させるようにもできます。

仮想ペットは様々なライフステージを通過し、それに付随して、ユーザは店舗で購入することができる新しいシューズのバージョンをアンロックすることもできます。

本発明では、シューズなどのアパレル製品を暗号化デジタルアセット(非代替性トークン:NFT)として取引できるようにし、そのためのブロックチェーン制御ロジックを備えた分散コンピューティングシステムを用意することとしました。

具体的には、現在実用化されているブロックチェーンテクノロジーの信頼性によって、企業が自社のブランドを表すデジタル製品の作成、配布、表現および使用を制御できるようにします。

さらに、このテクノロジーによって、企業はデジタル製品(またはその製品特性)の全体的な供給量を制限することで、希少性を生み出すこともできます。

例えば一つの例として、ブロックチェーンから提供される物理的なシューズなどの「実際の製品」を、仮想的なコレクションとリンクさせるために機能する暗号化デジタルアセットが提示できます。いわゆるデジタルシューズです。

消費者が本物のシューズ(通称「キック」)を購入すると、そのシューズのデジタル版が生成され、非代替性トークンが割り当てられます。デジタルシューズと非代替性トークンは、両者を組み合わせて「クリプトキック」となります。デジタルシューズのアバターとしては、アーティストによるシューズ表現が含まれる場合もあるでしょう。

デジタルアセットを使用して、購入者は有形のシューズを安全に取引または販売し、デジタルシューズを取引または販売し、デジタルシューズを暗号通貨のウォレットまたは他のデジタルブロックチェーンロッカーに保管することもできます。

また、複数のデジタルシューズをかけ合わせて「交配」させることもできます。「シューズの子孫」となる別のデジタルシューズを作成でき、そのデジタルシューズを有形のシューズとしてカスタムメイドすることもできます

上記のようなシューズの「飼育」については、消費者に「育種権」を付与することもでき、デジタルシューズがより生きているように見えるように動画化された特徴(例えば、時間に応じて変化するパーソナリティを付与するなど)をつけることもできます。

本発明は、現実のシューズやデジタルシューズを非代替性トークン(NFT)として用いる特許といえます。

デジタル資産を「物品」としてどのように市場で取引するかのモデルケースとなるNFT関連特許としてNFT業界ではよく知られています。

この特許と直接の関連があるかは断言できませんが、強い関係性が示唆されるニュースが2021年末にNikeから発表されています。Nikeは2021年にバーチャルスニーカーなどのグッズを制作するRTFKT(アーティファクト)社を買収し、メタバースへの進出を拡大すると宣言したのです。

RTFKT社が手掛けるバーチャルスニーカーは、2021年はじめに限定600足の販売をしたところ、わずか7分で完売し、310万ドル以上の売上を達成するほどの高い人気を誇っています。

今後、ナイキブランドとの融合によって、さらなる展開が期待できそうです。

発明の名称

System and method for providing cryptographically secured digital assets

特許番号

US10475306B1

登録日

2019.12.10

発明者

Christopher Andon他3名

特許権者

NIKE, Inc.

<免責事由>
本解説は、主に発明の紹介を主たる目的とするもので、特許権の権利範囲(技術的範囲の解釈)に関する見解及び発明の要旨認定に関する見解を示すものではありません。自社製品がこれらの技術的範囲に属するか否かについては、当社は一切の責任を負いません。技術的範囲の解釈に関する見解及び発明の要旨認定に関する見解については、特許(知的財産)の専門家であるお近くの弁理士にご相談ください。