Vol18//ブロックチェーンでホンモノ証明

私達が買い物をする際に、最近特に気になるのが、模倣品(ニセモノ)の存在です。特にバッグ、衣類、時計、美術工芸品など、高価な買い物をする際にはその商品が真正品(ホンモノ)かどうかを保証するための鑑定書などを証明に用いることが多いですよね。

我々が購入する製品は、通常、メーカーによって製造された後に、物流業者、卸売業者、小売業者等の流通業者を通じてユーザーに販売されるという、複雑な流通経路を辿りますが、この経路において製品がホンモノかどうかを証明することがユーザーから求められています。また、近年はインターネットを通じて製品が販売されることが多くなってきたため、製品がホンモノであることを鑑定し、証明する必要性は高まってきています。

上述のとおり、現状最も一般的な証明方法は、「証明書(ギャランティーカード)」を発行して製品の商品名、品番、製造年月日などの製品情報を記載しておき、これを製品に同梱するというやりかたをとります。しかし、インターネット等を通じてギャランティーカードのみを入手することも可能となってきたことから、証明書による鑑定証明は充分な信頼性があるものとはいえなくなってきました。

そこで、エストニア共和国のクリプトモール社は、ブロックチェーンを用いた鑑定照明システムを発明し、日本特許庁で特許を取得しました(特許第6894033号、2021年6月4日登録)。通常、製品とギャランティーカードは共に流通・販売されるので、両者をデータ的に紐付けし、ユーザーのみが鑑定証明を確認できるようにしました。

具体的には、秘密鍵αと製品情報を含む情報を記録した小型メディアが組み込まれた製品を製造し、ギャランティーカードには秘密鍵β、製品情報を含む情報を記録した小型メディアを組み込みます。メーカーが秘密鍵αと製品情報、取引情報をブロックチェーンデータに登録しておくと、製品を購入したユーザーはギャランティーカードに記録された秘密鍵βを用いてブロックチェーンデータから製品情報を読み取ることで、製品の鑑定証明が可能となる、という仕組みです。

このような秘密鍵を使った技術による本人証明などは、既にビジネス上のファイルの受け渡しなどで我々も使っていますが、これを改竄不可能なブロックチェーンデータのデータを確認するための鍵として使う点で、ブロックチェーンデータの活用方法がさらに広がったといえそうですね。

私たちがブランド品を購入するとき、そのブランドの正規販売店で購入するのが一般的でしょう。なぜそうするかというと偽物をつかまされることがなく安心だからです。

しかし、正規販売店はそこかしこに存在するわけではありません。ブランド品の販売店はそのブランドが直接販売する場合もあれば、時計などのように専門店が複数のブランドを販売する場合もあります。買う側はそのお店を信用して購入することになります。

新品の品は店を選ぶことで本物を手にすることができます。一部のブランドではギャランティカードで製造番号などと紐づけすることで自社の商品であることを証明しています。安心ですね。

一方中古品はどうでしょう。ブランドの正規販売店では中古品を扱っているのはまれで、購入するには古物商からでしょう。最近ではインターネットオークションサイトやフリマサイトでの購入もあります。

しかし中古品の購入においては「ここで販売されているものは本物か?」不安を感じながらの購入ではないでしょうか。ましてや、本物を証明するギャランティカードが売買できるとあっては何を信用してよいかわかりません。購入者が本物を買おうとするとき購入先を見極める必要があります。

一方、古物商も品物を仕入れるとき、そのものの真贋や価値を見極める目利きのスキルが必要になってきます。

結局購入者側の責任なんですね。

そこで、購入者が信頼性の高い鑑定証明を簡単に行えるシステムを考えたのがこの特許です

私たちが購入するものは、複雑な流通経路で手元に届きます。生産者から私たちに直接届けられるサービスは少ないですね。多くは生産者~物流会社~卸会社~小売り会社~購入者と流れます。物流会社~卸会社~小売り会社の間にも何社かが関わっています。

そこで、製品とギャランティカードが共に流通販売されることに着目して、製品データ(製造社、製造番号、製造日など)と流通経路の各所での取引情報をブロックチェーンという仕組みを使用して記録することで、ユーザーのみが信頼性のある鑑定証明を簡単に行えるシステムの発明です

詳しく見ていきましょう。

図1はこのシステムにおいてのブランド品(以後要鑑定品という)1とギャランティカード2を示しています。要鑑定品1には秘密鍵α、製品情報(商品名、品番、製造メーカー、製造者、製造場所、製造年月日など)を含む情報を記録した小型記憶媒体1aが貼り着けまたは組み込まれています。ギャランティカード2には秘密鍵β、製品情報を含む情報を記録した小型記憶媒体2aが貼り着けまたは組み込まれています。

秘密鍵α・β、製品情報を含む情報は、小型記憶媒体1aと2aに要鑑定品1の出荷時に製造メーカー・製造者によって入力されます。

【図1】

図2はこの鑑定証明システムの実施形態です。

8はこのシステムの専用プラットフォーム、8aはブロックチェーン、8bはブロックチェーン内のデータを示しています。

製造メーカー・製造者及び流通業者(物流業者、卸売業者、小売業者など)3は、アプリケーションA9を使用してインターネット環境7から専用プラットフォーム8内のブロックチェーン8aにデータを書き込みます。

ユーザー4はアプリケーションB10を使用して、要鑑定品1の小型記憶媒体1aに付与された秘密鍵αとギャランティカード2の小型記憶媒体2aに付与された秘密鍵βにより、インターネット環境7から専用プラットフォーム8内のブロックチェーン8aに記録されているデータを読むことができます。

【図2】

図3は要鑑定品1が出荷してから流通経路の各段階でブロックチェーンに情報を記録していく様子を示しています。

【図3】

要鑑定品1の小型記憶媒体1aに付与された秘密鍵αとギャランティカード2の小型記憶媒体2aに付与された秘密鍵βを使用して、このように積み上げられたデータを読むことで、要鑑定品1およびギャランティカード2を所有する真のユーザーだけが信頼性の高い鑑定証明を簡単に行うことができるのです。

システム障害に強く、データ改ざん防止にも役に立つといわれているブロックチェーンの仕組みと、製品情報を含む情報を記録した小型記憶媒体α・βそれぞれを貼り着けまたは組み込まれている要鑑定品とギャランティカードを利用します。

出荷後の流通経路における各段階の取引情報を書き込み用アプリケーションでチェーンブロックに記憶することで、要鑑定品とギャランティカードを購入したユーザーは、読み出し用アプリケーションでインターネットを通して、要鑑定品1の小型記憶媒体1aに付与された秘密鍵αとギャランティカード2の小型記憶媒体2aに付与された秘密鍵βによって、ブロックチェーンからデータを読み出せば、真のユーザーとして鑑定証明を行うことができます

特許権者であるクリプトモール オーユーが運営している「クリプトモール」(https://crypto-mall.org/)にこの特許が使われているようです。このクリプトモールは暗号資産専用のショッピングモールです。

ショッピングサイトには、「「cryptomall(クリプトモール)」は、本物の商品しか【販売されない】・【販売できない】世界で初めての「ハイブリッドNFTマーケットプレイス®」です。」との紹介があります。他に「cryptomall」とは?というタブがありその中に鑑定証明システムの説明が書かれています。

サイトをみると高額の商品が並んでいますよー。中古品はないようですね。「NFT」という記述もありますが商品は登録されていませんでした。

このシステムが中古の市場にも広がれば、手に入れたブランドのバックや時計が本物だと証明できますからユーザーは助かるのではないでしょうか。

中古の自動車の購入にも助かりそうです。ワンオーナー?無事故車?こんな情報も販売店にたよるのではなく、記録されたデータを見るとメーカー出荷から流通経路、新車で購入されたオーナー、車検点検、修理などの情報が確認できれば安心ですよね。

また、最近ではデジタルアートやコミックなどもインターネット上で取引されるようになりました。プロ・アマ問わず作品をネットに上げて公開することが多くなるでしょう。

でもデジタルの作品故にどれが本物か、本当に本物から複写されたものかが証明できれば購入者ばかりでなく作者も助かり、取引も活発になるのではないでしょうか。そのものが本物(作者)までちゃんとつながっているのは重要です。

自分の作品が他人により権利を取られてしまうこともあるとのこと。多様な表現が可能になっている現在、本発明のような鑑定証明システムが必要不可欠だと考えられます。

発明の名称

鑑定証明システム

出願番号

特願2020-103189(P2020-103189)

特許番号

特許第6894033号(P6894033)

出願日

令和2年6月15日(2020.6.15)

登録日

令和3年6月4日(2021.6.4)

審査請求日

令和3年2月2日(2021.2.2)

出願人

クリプトモール オーユー

発明者

熊谷 絵美

国際特許分類

G06Q 30/00 (2012.01)
G06Q 50/10 (2012.01)

経過情報

早期審査対象出願され令和3年4月21日拒絶されたが、請求項全文と明細書の「本発明の要旨」部分の補正と意見書を提出し特許査定となった。

<免責事由>
本解説は、主に発明の紹介を主たる目的とするもので、特許権の権利範囲(技術的範囲の解釈)に関する見解及び発明の要旨認定に関する見解を示すものではありません。自社製品がこれらの技術的範囲に属するか否かについては、当社は一切の責任を負いません。技術的範囲の解釈に関する見解及び発明の要旨認定に関する見解については、特許(知的財産)の専門家であるお近くの弁理士にご相談ください。