Vol14//未来の車はレーザービームで汚れを落とす!
現代社会において、車は人間の生活になくてはならないものとなっています。私も自分の車を所有していますが、駐車場に停めておくだけで、たいして乗ってもいないのに汚れだけは蓄積されていくんですよね。月に一回は洗車するようにしているのですが、特にガラス面に付着した頑固な汚れは落としにくく、いつも苦労しています。鳥のフンなんてついていたときにはもう、ガックリきてしまいます。
今回紹介する特許発明は、2003年7月に創業されて、わずか17年でトヨタを抜いて世界一の時価総額を有するとまでいわれたテスラ社による発明です。2019年5月10日に米国特許商標庁に出願され、2021年9月7日に特許登録となったこの発明は、レーザーを用いてガラス面に蓄積された汚れを落とすという、これまでにないレーザークリーニングの技術です。
例えば車のフロントガラスには、ドライブレコーダーや各種センサのためのカメラが備えられているのがいまや一般的です。このような光学センサは、フロントガラスの汚れによって感度・精度が大きく低下してしまいます。
もちろんワイパーを用いて汚れを落とすことも考えられますが、ワイパーの届く範囲というのは限界があり、ワイパーの届かない部分に汚れがたまることによって、運転中の視界が妨げられるというのも大きな危険性が想定できます。
また、車を洗浄するときには、水をかけるだけできれいになるなら良いのですが、多くの場合、汚れを落とすために様々な化学洗剤を使用します。このような化学物質を使うこと自体、環境への負荷を考えれば、極力避けていきたい問題です。
そこで、本発明のレーザー洗浄装置は、ガラス面上の様々な領域に蓄積されたゴミを車両の内外に設置した画像センサで自動的に検出し、車載されたレーザー発振器からパルスレーザーを発してゴミを分解するというものです。
さらに、照射されるレーザーは、ゴミの蓄積量に応じてレーザー強度が調節され、ゴミは分解するけれどもガラスは透過しない、という強度に制御されます。これによってガラスの保護も同時に図ります。
テスラ社は電気自動車(EV)のメーカーなので、この発明は主として車載のレーザークリーナーとして発表されていますが、もちろんこの発明を応用することで太陽光パネルの表面の汚れを落として発電効率の低下を防止する、ということも可能です。
発明の背景
ガラス製品は、大量生産可能でかつ加工が容易なために幅広い用途で使われています。自動車ではフロントガラスやサイドミラー、バックミラー、リアガラスとして使用されますし、太陽光発電パネルではパネルの表面に使用されています。
ただ、その自動車のフロントガラスをよーく見てみるとワイパーが動いた範囲以外のところはうっすらと濁っていませんか?時には小さい虫がこびりついていたり、鳥のフンが落ちていた何てこともあります。
また、太陽光発電パネルは表面を指でなでると指先に黒いものがつくことがあります。このようにガラス製品は時間とともに汚れて、その汚れがたまっていくものです。
このたまった汚れを放置していると、自動車の運転者は視認性が悪くなり死角がどんどん広がって、安全な運転が出来なくなります。また、太陽光発電パネルの汚れは発電効率の低下を招きます。
しかも、こういった汚れは水で洗い流せるならまだいいんですが、頑固な汚れなどは洗剤を使わなければなりません。油汚れは専用の洗剤であったり、特別な洗剤はガラスや部品(ダッシュボードやゴムパッキンなど)を痛めてしまう可能性もあるため汚れの除去には手間と知識が必要になります。
このような手間と知識が必要になる汚れをレーザービームで一括除去してしまおうと考えたのが今回ご紹介する発明特許です。
どんな特許?
本発明は、自動車のフロントガラスにあるような汚れ(以下「デブリ」ともいう)の位置と大きさ、およびどんな汚れかを検出して、レーザービームによって除去してしまおうという発明です。
デブリを自動検出することで洩れを防ぐとともに、時間的な手間を省くことができます。また、レーザーを用いた除去により洗剤薬品の専門的知識を必要とせずガラスを傷めることなく幅広い用途で対応することができます。
特許概要
本発明は、汚れを検出する「デブリ検出部」と汚れを除去する「レーザ照射部」の2部で構成されています。
図(FIG.2A)は特許の概要を示した図で、自動車のフロントガラスとボンネットの断面(200A)を表しています。
デブリ検出部
汚れ検出回路(106)が汚れ検出被膜(208)を介して、汚れの位置、大きさなどの情報を得ます。
また、明細中には、「デブリ検出被膜208」は、デブリと接触したときに、静電容量または抵抗の既知の値に関して、静電容量または抵抗の値の変化を示す。このような変化でフロントガラス部分202上のデブリの存在を検出しても良い、ことが記載されている。
レーザ照射部
制御回路(112)は得られた情報から、汚れ除去の可否や汚れ除去でき、かつガラスを透過してしまわないような、レーザービームの諸々のパラメータを設定し、レーザー発生部(108)やレーザービームを照射する光学アセンブリ(110)を制御します。
レーザー発生部(108)は、制御回路(112)のパラメータにより必要なレーザーを発生させます。
レーザービームを照射する光学アセンブリ(110)は、制御回路(112)のパラメータにより、汚れに対してレーザービームを照射して汚れを除去します。
ちなみに、ボンネットにはレーザーバリアコート(レーザーを跳ね返すもの)が施され、それは、ガラス物品の上に施された特殊な材料、例えば酸化インジウムスズ(Indium Tin Oxide)の保護コーティングであってもよいと明記されている。
ここがポイント!
特許の適用範囲が広くなるような書き方をしています。実施例はFIG.2Aで説明しているものですが、汚れ検出被膜(208)は絶対必要な要素ではありません。車載カメラの画像による検出などの光学センサなどの検出も対象にしています。
また、レーザービームを照射する光学アセンブリ(110)も中身には言及がなく、実施例の中でいろいろなレーザーが使用できると記しています。
このクリーニングシステムは、自動車でいえば、フロントガラスだけでなく、サイドガラスやリヤガラス、バックミラー、車載カメラのレンズにも適用できますし、太陽光発電パネル面の汚れの除去にも同じシステム構成で適用できます。
ちなみに、汚れ(デブリ、debris)の例としては、「雪、水滴、塗料、鳥の糞、虫の糞、植物の糞、油のこぼれ、グライム、汚れ、泥などが考えられるが、これらに限定されない。」と記載されておりますので、ありとあらゆる物を除去できることが想定されております。
何に活用されているの?
現在のテスラ社のサイトには、この特許に対応する機能の記載はありませんでした。とりあえずアイデアを特許申請し、権利を取得したのではないかと思います。
将来、この技術は、テスラ社のフラグシップモデルの車に搭載されるかもしれません。今後のテスラ社の製品発表会に注目が集まります。
特許の概要
発明の名称 |
PULSED LASER CLEANING OF DEBRIS ACCUMULATED ON GLASS ARTICLES IN VEHICLES AND PHOTOVOLTAIC ASSEMBLIES”(車両および太陽光発電アセンブリのガラスに蓄積された汚れのパルスレーザー洗浄) |
出願番号 |
16408671 |
公開番号 |
20190351873 |
特許番号 |
11110896(米国特許) |
出願日 |
2019.5.10 |
公開日 |
2019.11.21 |
登録日 |
2121.9.7 |
出願人 |
TESLA, INC |
発明者 |
Phiroze Dalal |
国際特許分類 |
B60S 1/02 |
<免責事由>
本解説は、主に発明の紹介を主たる目的とするもので、特許権の権利範囲(技術的範囲の解釈)に関する見解及び発明の要旨認定に関する見解を示すものではありません。自社製品がこれらの技術的範囲に属するか否かについては、当社は一切の責任を負いません。技術的範囲の解釈に関する見解及び発明の要旨認定に関する見解については、特許(知的財産)の専門家であるお近くの弁理士にご相談ください。