序章:薬剤師業務のDXと新たな挑戦
近年、薬局業界では「服薬指導の質」をどのように高め、標準化していくかが大きな課題となっています。高齢化に伴う患者数の増加、処方薬の多様化、さらには医薬分業の進展によって、薬剤師に求められる役割は年々広がっています。しかし、現場の薬剤師は限られた時間の中で一人ひとりの患者に合わせた指導を行う必要があり、その質を定量的に評価する仕組みはこれまで存在しませんでした。
こうした状況に対し、AI薬歴作成サービス「corte」を展開するソラミチシステム株式会社は、日本調剤株式会社および大学教授との産学連携によって、服薬指導を「採点」できる画期的な機能を共同開発しました。そして、この仕組みを特許として出願することで、医療DXの新たな一歩を踏み出しました。
「corte」とは何か
「corte」は、薬剤師が行う服薬指導や薬歴作成をAIで支援するサービスです。従来、薬歴は薬剤師が患者との会話内容を手作業で記録し、整理する必要があり、業務負担が大きな課題でした。
AIを活用することで、
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患者との対話を自動で文字起こし
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指導内容を解析し、薬歴に反映
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不足項目や確認漏れをリアルタイムで指摘
といったプロセスを自動化・効率化できるのが「corte」の特徴です。薬剤師はより患者に寄り添ったコミュニケーションに集中できるようになり、サービス導入店舗からは「業務時間の削減と指導の質向上を両立できた」との声が上がっています。
新機能:「服薬指導の採点」
今回新たに開発された機能は、AIによる「服薬指導の採点」です。これは薬剤師が患者に行った説明や確認の内容をAIが解析し、指導の網羅性・適切性・安全性の観点からスコアリングする仕組みです。
評価の観点としては、以下のような要素が含まれます。
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薬剤の用法用量が正しく説明されたか
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副作用や注意点について適切な言及があったか
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患者の理解度を確認するやり取りがあったか
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残薬や併用薬への配慮がなされたか
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生活習慣や服薬継続へのモチベーション支援ができたか
これらをAIが客観的に採点することで、薬剤師の指導内容を数値で可視化できます。これにより、薬局内での教育・研修や、薬剤師個々のスキル向上につなげることが可能となります。
日本調剤と大学教授の参画
本機能の開発にあたっては、大手薬局チェーンである日本調剤が実務的な知見を提供しました。現場の薬剤師が直面する課題や、患者対応の実際的なプロセスを反映することで、実用性の高いアルゴリズム設計が実現しました。
さらに大学教授との連携によって、服薬指導の学術的基盤が補強されました。薬学教育においてどのような点が重視されるべきか、評価指標はどのように構築すべきかといった観点が盛り込まれ、単なる「スコアリングシステム」を超えた教育的・臨床的価値を持つ仕組みが完成したのです。
特許出願の意義
今回の技術は単なる業務支援ツールにとどまらず、薬剤師業務そのものの質を評価する全く新しい枠組みを示しています。これを特許として出願することには、以下のような意義があります。
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医療DXにおける先駆的ポジションの確立
AIを活用した薬歴支援システムはまだ黎明期にあり、特許取得によってソラミチシステムは国内外市場で独自性を強く打ち出せます。 -
薬学教育と研修への応用
特許技術は薬学部や研修施設での教育カリキュラムに活用でき、薬剤師の育成に直接寄与することが期待されます。 -
薬局経営の質的向上
服薬指導の可視化によって、患者満足度の向上や薬局間の差別化が図れます。特に在宅医療やオンライン服薬指導の拡大においては大きな武器となります。
医療現場への波及効果
この技術が普及すれば、医療現場には以下のような変化が起こると考えられます。
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薬剤師の役割拡大:単なる調剤業務から、患者支援・教育の専門職としての価値がより高まる。
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患者安全の強化:副作用や飲み合わせのリスクに関する確認漏れが減り、医療事故防止につながる。
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医師との連携強化:薬剤師が採点データをもとに医師にフィードバックできるため、チーム医療の質が高まる。
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AI教育モデルの確立:薬学教育だけでなく、看護やリハビリ分野など他の医療職種教育への応用も可能。
今後の展望
ソラミチシステムは、今後「corte」の機能を拡張し、
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全国の薬局チェーンでの実証実験
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薬学教育機関との共同研究
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海外市場への展開
を視野に入れています。また、採点機能はAIの学習によってさらに精緻化が進み、将来的には患者ごとのリスクプロファイルに応じた「パーソナライズド指導支援」へと発展する可能性があります。
結論
AI薬歴作成サービス「corte」とソラミチシステム、日本調剤、大学教授との連携による「服薬指導採点機能」の特許出願は、薬剤師業務の新たなスタンダードを築く試みといえます。これは単に業務効率を高めるだけでなく、薬剤師の専門性を数値化し、教育・臨床・経営のすべてに寄与する大きな可能性を秘めています。
「薬剤師の力を可視化し、医療の未来を支える」――この挑戦が実現する未来は、患者にとっても薬局にとっても、より安全で信頼できる医療体験をもたらすことでしょう。