りんご飴に特許という選択肢。『ポムダムールトーキョー』が札幌すすきので描く知財スイーツ戦略


札幌市中央区・すすきのエリアに、日本初の“りんご飴専門店”として注目される「ポムダムールトーキョー(POMME DAMOUR TOKYO)」が出店しているのをご存じだろうか。単なる屋台スイーツの延長ではない。店舗で提供されるりんご飴には、企業としての確かなブランド戦略、独自技術の裏付け、そして知的財産権による保護という、現代的ビジネスの三拍子が揃っている。

今回は、札幌進出とともに特許取得が話題となったポムダムールトーキョーの背景に迫りながら、スイーツビジネスにおける知財戦略の重要性についても掘り下げていきたい。

■「屋台の定番」から「都市型グルメ」へ

りんご飴といえば、かつては縁日の夜店や夏祭りの露店でしか出会えない、どこかレトロで素朴なスイーツだった。それを“都市型・映えるグルメ”として再定義したのが、2014年に東京・中野で創業したポムダムールトーキョーである。

同ブランドは、艶やかな飴の質感と、厳選されたりんごのシャリっとした歯ごたえ、そしてインスタグラム映えするビジュアルを武器に、若者を中心にファンを拡大してきた。りんご飴というノスタルジックな素材を、現代のスイーツカルチャーの文脈に再接続した発想は、まさに“スイーツのリノベーション”とでも呼ぶべき革新だ。

■「外カリ・中ジューシー」を科学で実現

ポムダムールトーキョーの最大の特徴は、単なる見た目の可愛さだけではない。その魅力は“食感”と“保存性”にある。特許庁の公開情報によると、同社はりんご飴の製法に関する特許(特許第7263727号など)を取得しており、内容は「飴コーティングの温度や水分量、飴の厚さ、りんごの品種選定」にまで及ぶ緻密な調整に関わるものだ。

この技術により、表面の飴はパリっとした食感を保ちつつ、内部のりんごは水分を逃さずフレッシュな味わいが持続する。これによりテイクアウト需要にも対応でき、観光地すすきのにおける「お土産スイーツ」としてのポテンシャルも引き上げられた。

技術の力で「外カリ・中ジューシー」を安定して実現する――この一見シンプルながら再現性の難しいスイーツの品質を守るために、特許という知的財産権を活用した姿勢は、食品業界でも先進的といえる。

■すすきのでなぜ成功できるのか?

札幌・すすきのといえば、国内屈指の歓楽街でありながら、グルメ激戦区でもある。ポムダムールトーキョーが進出したのは、こうした「多様な顧客が訪れる立地」に対応する高いブランド適応力があるからだ。

カフェ利用として昼間の若年層・観光客を取り込み、夜間はテイクアウトや差し入れとしての需要がある。また、「かわいい×レトロ」というビジュアル戦略は、韓国・台湾からのインバウンド層にも好評で、札幌観光の新たな定番スポットとなる可能性を秘めている。

すすきののりんご飴専門店では、シナモンやラム酒風味のバリエーション、さらにはハーフサイズやカットタイプなども展開されており、消費者の細やかなニーズに応える工夫も光る。

■スイーツと知財戦略の融合

ここで着目すべきは、「りんご飴の製法」そのものを特許化し、ブランドの独自性を保護したという点だ。食品業界では、レシピや製法を“秘伝”として扱うことは多いが、文書化して特許化する事例はまだまだ少ない。

ポムダムールトーキョーはこの点で一歩抜きん出ており、「ビジュアル」では商標(ロゴ・店舗意匠など)、「製法」では特許というふうに、マルチな知財ミックスでブランドを守っている。

これはスイーツ業界においても、プロダクトアウトから知財アウトの時代へ移行しつつあることを象徴している。特許で守られた製法をもとにフランチャイズやOEM展開を図ることで、今後の全国展開、あるいは海外市場への輸出も視野に入ってくるだろう。

■「地方×知財」のヒントにも

地方都市におけるスイーツブランド展開には、「地元素材を使った土産スイーツ」という文脈が強い。だが、ポムダムールトーキョーのように都市型で知財を核にしたスイーツ展開は、今後の地方ブランディングに一石を投じる存在といえる。

札幌には、夕張メロンやハスカップといった地域固有のフルーツも多く、これらと組み合わせた知財スイーツの開発も可能だろう。「地方発×特許取得のスイーツ」が次なる潮流となるかもしれない。

■まとめ:甘く見られない、甘いビジネス

ポムダムールトーキョーの札幌進出は、単なるグルメトレンドの延長ではない。「甘いお菓子」だからこそ、知財の力で“ビジネスとしての強さ”を持たせているのだ。

札幌・すすきので見かけるその艶やかで宝石のようなりんご飴には、職人の手業と知財の知恵、そして甘く見られたくないという気概が詰まっている。

あなたがその一口をかじった瞬間、そこには味覚だけでなく、戦略の果実もまた広がっているのだ。


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