2025年春、かつて“夢の電池”とまで称された次世代蓄電技術を開発していたベンチャー企業が、ついに再建を断念し、破産に至ったというニュースが駆け巡った。だが、そのニュースの“続報”が業界に波紋を呼んでいる。かつて同社を率いた元CEOが、新会社を設立し、破産企業が保有していた中核特許の“取り戻し”に動き出しているのだ。
この物語は、単なる一企業の興亡を超え、日本のスタートアップエコシステムにおける知財の価値、そして復活の可能性を示唆するケースとして注目に値する。
■「夢の電池」と呼ばれた理由
当該企業(仮に「EnerFuture社」とする)は、数年前から革新的な固体電池技術を開発していた。従来のリチウムイオン電池に代わる“ポストLiB”として、安全性・高エネルギー密度・長寿命を兼ね備えるこの新型電池は、EVやドローン、さらには防災用の蓄電インフラとしても期待されていた。
大学発のスピンオフ企業であったEnerFuture社は、著名な研究者が率いる開発チームとともに、多数の国内外特許を取得。実際に、国際特許分類(IPC)で見ても、高電圧対応の電極材料や固体電解質の組成、製造プロセスに関する独自性は評価されており、複数のグローバル大手が提携を打診していたとされる。
■なぜ破産に至ったのか
しかし、技術的優位性だけでは事業は成り立たない。EnerFuture社は量産化フェーズでの資金調達に失敗し、量産ラインの立ち上げが予定より1年遅延。投資家や支援先との信頼関係も徐々に揺らぎ、結果としてメインバンクが融資を凍結。その後、企業再生型のM&Aも破談となり、今年3月末に民事再生法の適用を断念し、破産手続きへと進んだ。
こうした背景には、明確な事業モデルの未確立、ファウンダーと投資家との意見対立、そして国際特許出願の維持コストが膨れ上がったこともあった。特に、PCT出願から各国移行した段階で、特許維持費が年間数千万円規模となり、ベンチャーの財務を圧迫した。
■特許は誰のものか―CEOの「取り戻す」宣言
破産後、特許群は管財人を通じて整理・売却の対象となった。そこに動いたのが、元CEOのA氏である。彼は、自らが率いた研究成果が単なる知財売却の対象になることを拒み、新会社「ReVoltTech株式会社」を設立。管財人との交渉により、主力特許の一部を“買い戻す”ことに成功したと報じられている。
この動きは、国内スタートアップ業界に一石を投じた。通常、ベンチャーの破綻時には知財が二束三文で売却され、再起が難しい構造がある。だが、A氏のように「技術と志を持つ創業者」が、知財を武器に再チャレンジするモデルは、今後のエコシステム形成においても重要な示唆を含んでいる。
■スタートアップにおける「知財継承モデル」の課題
この一連のケースで浮かび上がるのは、「技術はあるが、知財と資金が切り離されるリスク」だ。日本のスタートアップでは、大学の技術を起点とした事業が多く、その分、技術者やファウンダーにとって「特許=分身」のような存在となる。しかし、いざ破産となると、知財は単なる“換金資産”と見なされ、創業者の手を離れてしまう。
海外では、破綻時にも創業者が知財を取得・継承する“特許リセール支援制度”が存在する国もある。日本でも、経済産業省が2024年に発表した「スタートアップ育成5か年計画」において、知財金融や再挑戦支援策が盛り込まれたが、まだ制度面は整備途上だ。
■再起の成否は?
では、ReVoltTechが再起できるか。その鍵は三つある。
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特許ポートフォリオの再構築
既に買い戻した特許に加え、技術者チームの再結集が図られており、今後の改良技術も出願予定とされる。特許の延命・更新だけでなく、新たな用途特許(バッテリー搭載型非常電源装置など)への展開が進む可能性がある。 -
提携による製造委託スキーム
量産投資のリスクを避け、外部企業とのライセンス型提携、あるいはOEM製造への切り替えを図るという戦略が採られている。これは、2020年代中盤に増加している“Fablessスタートアップ”の流れに合致する。 -
脱・資金依存の研究体制
特定ベンチャーキャピタルへの依存を避け、クラウドファンディング型資金調達、地方自治体やグリーンファンドとの連携も模索されている。
■「失敗から始まる」スタートアップ支援へ
今回のようなケースは、まさに「失敗を糧に再挑戦する創業者」が主役となる稀有な事例だ。知財は単なる“資産”ではなく、“志”や“夢”と密接に結びついた経営資源である。その価値をどう評価し、どう引き継いでいくかは、今後の日本の技術競争力を左右する。
破産によって“夢の電池”が一度は途切れたとしても、その夢を再び灯す者がいる限り、日本の技術スタートアップにはまだ希望がある。ReVoltTechの動向に、今後も注視したい。