「スマホが鍵」になる電子チケット──受付処理と本人確認の統合技術に関する出願動向


ライブ・コンサート・スポーツイベントなど、あらゆる「場」に人が集まる機会において、電子チケットが急速に普及している。特にコロナ禍以降、非接触・非対面の手段として定着した感のある電子チケットだが、その普及とともに浮上してきた課題がある。それが「不正転売の蔓延」と「受付処理の滞留」である。

この2つの課題に対し、一体どのような技術的解決策が講じられようとしているのか。2024年末から2025年にかけて、国内外の特許情報の中で注目を集めつつあるのが、電子チケットの本人確認処理と受付処理を一体化し、転売防止とスムーズな入場を両立する技術に関する一連の特許出願だ。

■不正転売の巧妙化と対策の限界

電子チケットはQRコードやバーコードなどをスマートフォンで提示する方式が主流であるが、これらのコード情報はスクリーンショットなどで簡単に第三者へ転送できてしまう。このため、チケット転売サイトやSNS、メルカリなどで「デジタルチケットの画面キャプチャ」が高額で売買されるという問題が絶えない。

従来から転売対策として、次のような取り組みが行われてきた:

  • チケットに購入者の氏名を記載し、本人確認書類と照合

  • 電話番号やSNS認証によるアカウント紐付け

  • 入場時の顔認証システムの導入

しかし、いずれも課題を抱える。氏名照合は受付で時間がかかり、顔認証は専用設備と処理時間を要する。また、本人確認を徹底するあまり「家族や友人に譲れない」といった柔軟性のなさに対する不満も生じていた。

■特許出願にみる新技術のアプローチ

こうした背景のなかで、2024年末に公開されたある国内企業の特許出願(出願番号:特開2024-XXXXX)では、「受付処理の一瞬で転売の有無と本人性を確認」する技術が提案されている。

技術の中核となるのは、以下の仕組みである:

  1. チケット発行時にスマートフォン端末情報(端末IDやSIM情報)を暗号化してチケットに埋め込む

  2. 入場ゲートではNFCやBluetooth通信で端末情報を取得し、チケットの埋め込み情報と照合

  3. 一致しない場合、チケットが他人の端末に転送された可能性があると判断し、アラートを出す

この仕組みのメリットは、スクリーンショットや画像転送では不正に利用できず、端末自体が“鍵”になることにある。加えて、照合処理が暗号技術を用いたワンタッチ式で行われるため、顔認証のような待ち時間が発生せず、受付処理の高速化も可能になる。

■端末情報を用いた照合の進化系:位置情報と時間情報の付加

同じく2025年初頭に出願された別の特許(出願番号:特開2025-XXXXX)では、さらに一歩踏み込んだ方式が提案されている。

それは、電子チケットに「指定された位置情報と時間帯でのみ有効になるトークン」を組み込むというものだ。つまり、

  • チケットが利用可能なのは、イベント会場付近(数百メートル以内)に到着し、

  • 指定された時間帯にスマートフォンからチケットを提示したとき

という「場所」と「時間」の条件が揃った場合に限られる。

この方式では、たとえ第三者がチケットを入手しても、本人が現地にいることを前提とした動的認証が組み込まれているため、転売や貸し借りが困難になる。また、転売目的の“仮押さえ”や“買い占め”の抑止にもつながる。

■応用可能性と業界動向

こうした技術は、スポーツ・音楽ライブといったエンタメ分野に限らず、テーマパーク、展示会、学会、さらには企業のセキュアな入館管理にも応用が可能だ。

また、既存の電子チケットプラットフォームと比較して、顔認証や指紋認証といったバイオメトリクスを使わないため、プライバシー保護の観点でも優位性がある。

特許出願の内容からは、国内大手チケット事業者、通信キャリア、スマートフォン製造業者のいずれかが関与している可能性が高い。特に2024年以降、NTTドコモやKDDIが「イベント×5G×デジタルウォレット」の展開を進めていることから、通信キャリア主導による「端末ベースのチケット管理」への布石とも読み取れる。

■独自視点:転売の是非と技術のバランス

ここで重要なのは、「すべての転売が悪」という一元的な見方をしないことだ。たとえば、正当な理由で行けなくなった際の“譲渡”が完全に排除されるような設計では、ユーザーの支持を得にくい。

技術のポイントは、「不正な転売は防止しつつ、正当な譲渡は柔軟に認める」仕組みをいかに設計するかである。この点において、端末IDに加え、譲渡時に本人確認付きで一度だけトークンの再生成が可能な設計が出願技術には含まれていることも注目に値する。

つまり、“転売禁止”というより、“透明性ある再配布と本人確認”を支援する新技術と見ることができる。

■今後の展望

電子チケットは単なる紙チケットのデジタル化ではない。ユーザーの体験、安全性、流通の公正さ、運営者側の効率性を高次元で調和させるエコシステムの中核である。その実現のためには、法制度や利用規約とともに、実効性のある技術的土台=特許技術の導入が欠かせない。

今回紹介したような特許出願は、その技術的な礎石を提供するものだ。5G、NFC、暗号技術、端末識別、位置情報といった複数の技術を統合し、「信頼できるチケット」の標準を築く動きが、今まさに始まっている。

不正転売がほぼ不可能で、入場が1秒で完了する──そんな近未来のイベント体験は、すでに特許文献の中で姿を見せ始めている。


Latest Posts 新着記事

11月に出願公開されたAppleの新技術〜PCに健康状態センサーをつけるとどうなるのか〜

はじめに もし、あなたが毎日使っているノートパソコンが、仕事や勉強をしながらそっとあなたの健康状態をチェックしてくれるとしたら、どう思いますか? これまで、私たちが使ってきたノートパソコンのような電子機器には、ユーザーの体調をモニターするような高度なセンサーはほとんど搭載されていませんでした。Appleから11月に出願公開された発明は、その常識を覆す画期的なアイデアです。キーボードの横にある、普段...

AI×半導体の知財戦略を加速 アリババが築く世界規模の特許ポートフォリオ

かつてアリババといえば、EC・物流・決済システムを中心とした巨大インターネット企業というイメージが強かった。しかし近年のアリババは、AI・クラウド・半導体・ロボティクスまで領域を拡大し、技術企業としての輪郭を大きく変えつつある。その象徴が、世界最高峰AI学会での論文数と、半導体を含むハードウェア領域の特許出願である。アリババ・ダモアカデミー(Alibaba DAMO Academy)が毎年100本...

翻訳プロセス自体を発明に──Play「XMAT®」の特許が意味する産業インパクト

近年、生成AIの普及によって翻訳の世界は劇的な変化を迎えている。とりわけ、専門文書や産業領域では、単なる機械翻訳ではなく「人間の判断」と「AIの高速処理」を組み合わせた“ハイブリッド翻訳”が注目を集めている。そうした潮流の中で、Play株式会社が開発したAI翻訳ソリューション 「XMAT®(トランスマット)」 が、日本国内で翻訳支援技術として特許を取得した。この特許は、AIを活用して翻訳作業を効率...

特許技術が支える次世代EdTech──未来教育が開発した「AIVICE」の真価

学習の個別最適化は、教育界で長年議論され続けてきたテーマである。生徒一人ひとりに違う教材を提示し、理解度に合わせて学習ルートを変化させ、弱点に寄り添いながら伸ばしていく理想の学習プロセス。しかし、従来の教育現場では、教師の業務負担や教材制作の限界から、それを十分に実現することは難しかった。 この課題に真正面から挑んだのが 未来教育株式会社 だ。同社は独自の AI学習最適化技術 で特許を取得し、その...

抗体医薬×特許の価値を示した免疫生物研究所の株価急伸

東京証券取引所グロース市場に上場する 免疫生物研究所(Immuno-Biological Laboratories:IBL) の株価が連日でストップ高となり、市場の大きな注目を集めている。背景にあるのは、同社が保有する 抗HIV抗体に関する特許 をはじめとしたバイオ医薬分野の独自技術が、国内外で新たな価値を持ち始めているためだ。 バイオ・創薬企業にとって、研究成果そのものだけでなく 知財ポートフォ...

農業自動化のラストピース──トクイテンの青果物収穫技術が特許認定

農業分野では近年、深刻な人手不足と高齢化により「収穫作業の自動化」が急務となっている。特に、いちご・トマト・ブルーベリー・柑橘など、表皮が繊細な青果物は人の手で丁寧に扱う必要があり、ロボットによる自動収穫は難易度が極めて高かった。そうした課題に挑む中で、株式会社トクイテンが開発した “青果物を傷付けにくい収穫装置” が特許を取得し、農業DX領域で大きな注目を集めている。 今回の特許は単なる「収穫機...

<社説>地域ブランドの危機と希望――GI制度を攻めの武器に

国が地理的表示(GI:Geographical Indication)保護制度をスタートしてから10年が経つ。ワインやチーズなど農産物を地域の名前とともに保護する仕組みは、欧米では産地価値を国境を越えて守る知財戦略としてすでに大きな成果を上げてきた。一方、日本でのGI制度は、導入から10年が経った今ようやくその重要性が幅広く認識される段階に差し掛かったと言える。 農林水産省によれば、2024年時点...

保育データの構造化とAI分析を特許化 ルクミー「すくすくレポート」技術の本質

保育業界におけるDXが本格的に進む中、ユニファ株式会社が展開する「ルクミー」は、写真・動画販売や登降園管理、午睡チェックシステムなどを通じて保育の可視化と効率化を支えてきた。その同社が開発した 保育AI™「すくすくレポート」 が特許を取得したことは、保育現場のデジタル化における大きな節目となった。 「すくすくレポート」は、子どもの日々の成長・発達をAIが分析し、保育士の観察記録を補助...

View more


Summary サマリー

View more

Ranking
Report
ランキングレポート

海外発 知財活用収益ランキング

冒頭の抜粋文章がここに2〜3行程度でここにはいります鶏卵産業用機械を製造する共和機械株式会社は、1959年に日本初の自動洗卵機を開発した会社です。国内外の顧客に向き合い、技術革新を重ね、現在では21か国でその技術が活用されていますり立ちと成功の秘訣を伺いました...

View more



タグ

Popular
Posts
人気記事


Glossary 用語集

一覧を見る