ARが医療の未来を拓く:神経学的疾患の革新的評価と治療システム

現代医学において、神経学的疾患の診断と治療は依然として大きな課題の一つです。特に、視覚的処理や知覚に関連する疾患は、患者の生活の質に直接影響を及ぼすため、その評価と治療方法の改善が求められています。このような背景のもと、米国のマジックリープ社が特許出願した「視覚的処理および知覚の疾患を含む神経学的疾患の評価および修正のための拡張現実ディスプレイシステム」は、注目すべき技術的進歩を示しています。

出願番号:特開2023-182619
優先日:2016年7月25日
公開日:2023年12月26日
出願人:Magic Leap, Inc.
発明者:ニコル エリザベス サメック 他

技術概要

この特許発明では、拡張現実(AR)技術を利用して神経学的疾患、特に視覚的処理に関連する疾患の診断と治療を行うシステムが提案されています。このシステムは、現実世界に仮想の視覚情報を重ね合わせることで、患者の視覚的刺激への反応を評価し、それに基づいて治療プランをカスタマイズします。

技術の応用

この技術は、視覚障害を伴う様々な神経学的疾患に適用可能です。例えば、脳卒中による視覚障害、加齢黄斑変性症、視覚情報処理障害などが挙げられます。治療プログラムは患者の具体的な症状や反応に応じてリアルタイムで調整されるため、より個別化された治療が可能になります。

この特許出願の公開公報には、たくさんの症例に対する試験法、治療法が例示されていますが、その中から2つほど、例を挙げてみましょう。

例1)網膜の健康評価
色彩瞳孔測定試験によって、網膜の健康を評価することができます。
色彩瞳孔測定試験は、ARゴーグルから視覚的刺激をユーザに提示し、刺激に対するユーザの反応を感知することによって実施されます。色彩瞳孔測定試験の間にユーザに提示される視覚的刺激は、異なる強度において、ユーザの眼のうちの一方または両方にディスプレイシステムによって投影された赤色および青色画像を含みます。異なる強度における赤色および青色画像に対する瞳孔応答が、ARゴーグルに内蔵されたユーザ応答カメラによって感知されます。異なる強度における赤色および青色画像に対する瞳孔応答における異常と関連付けられた神経学的疾患としては、網膜色素変性、緑内障、網膜変性疾患が挙げられます。このような色彩瞳孔測定試験は、網膜外層機能、網膜機能状態、メラノプシン機能、ならびに桿体および錐体機能を試験するために使用されることができます。

例2)瞳孔の応答チェック
瞳孔に照明を当てた際の直接応答は、同側視神経、視蓋前野、もしくは虹彩の瞳孔収縮筋の病変の存在、第Ⅲ脳神経に進行する同側副交感神経における異常をチェックできます。さらに、照明が当たっていない他方の瞳孔における同感性応答は、対側視神経、視蓋前野、もしくは瞳孔収縮筋の病変、第Ⅲ脳神経に進行する同側副交感神経における異常を確認することができます。さらには、ユーザが、あるタイプの神経系障害(例えば、癲癇)、行動障害(例えば、不安障害、中毒、薬物またはアルコールの影響)または神経学的障害(例えば、脳卒中、脳動脈瘤、または脳傷害)を患っていることの判定は、照明が当てられた瞳孔が膨張したまま(瞳孔散大とも称される)の場合に行われます。瞳孔はまた、恐怖、疼痛、感情的苦痛等の間、交感神経闘争・逃走応答の一部としても膨張し得ます。故に、明光刺激に応答した瞳孔の散瞳は、恐怖、疼痛、または感情的苦痛を示します。さらに、視覚的刺激に対する瞳孔応答の変化は、ギラン・バレー症候群またはアルツハイマー病の発見にも役立ちます。例えば、明光刺激に対するゆっくりな瞳孔応答および瞳孔が明光刺激に応答する低減された振幅または速度(例えば、低応答性または低反応瞳孔)は、アルツハイマー病の早期症状の特徴です。

技術的特徴と利点

リアルタイム評価: 患者の反応をリアルタイムで捉え、治療プログラムを即時に調整できる点がこの技術の大きな特徴です。
個別化治療: 患者一人ひとりの状態に応じたカスタマイズが可能であり、治療の効果を最大化します。
非侵襲性: 物理的な手術や薬物治療とは異なり、非侵襲的な治療方法であり、副作用のリスクを最小限に抑えます。

まとめ

今回紹介した「視覚的処理および知覚の疾患を含む神経学的疾患の評価および修正のための拡張現実ディスプレイシステム」は、神経学的疾患の診断と治療における新たなアプローチを提供します。この技術により、個別化された治療計画の立案が可能となり、視覚的処理障害を持つ患者の治療に新たな可能性をもたらすことが期待されます。


ライター

+VISION編集部

普段からメディアを運営する上で、特許活用やマーケティング、商品開発に関する情報に触れる機会が多い編集スタッフが順に気になったテーマで執筆しています。

好きなテーマは、#特許 #IT #AIなど新しいもが多めです。


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