日本時間9月8日に、Appleの新製品発表イベント「Far Out.」が行われたことは記憶に新しいと思います。新しいApple Watchや、iPhone 14が発表され、リアルタイムで発表イベントを見ていた方も多いのではないでしょうか(筆者も翌日に仕事があるのにイベントを最後まで見てしまいました)。
そんな新製品発表イベントのあった9月ですが、今回のコラムでは、今月出願公開されたAppleの特許出願のうち、実装可能性が気になる技術を1つ紹介したいと思います。9月1日に公開された、水分非感受性タッチセンサに関しての特許出願について簡単に紹介します。
発明の名称:Electronic Devices Having Moisture-Insensitive Optical Touch Sensors
出願公開日:2022年9月1日
特許出願日:2022年5月6日
公開番号:US2022/0276738A1
水中でタッチ操作できるディスプレイ
一般に、電子デバイスのディスプレイに実装されているタッチセンサは静電容量センサを備えますが、水中で静電容量センサを動作させることは原理上困難です。
そこで、本発明では、水の存在に対して反応しないタッチセンサとして、直接照明光学タッチセンサ(Direct illumination optical touch sensor)や内部全反射タッチセンサ(Total internal reflection touch sensor)等を利用した2次元光学タッチセンサを採用することとしました。
この光学センサは、画面表面のディスプレイカバー層に指などの外部物体が接触したときに、ディスプレイ内部の光源からその指に光をあて、その光の散乱を検出することでタッチセンサとしての機能を発揮します。このような光学センサは、人体の静電容量を用いるわけではないため、水中でなくとも、従来の静電容量センサでは対応不可能な、例えばユーザが手袋を着用しているときでも動作することが可能です。
本願明細書には、具体的な適用デバイスとして、腕時計、携帯電話、タブレットコンピュータなどのポータブルデバイスなどが例示されています。水中でタッチ操作、というと先日発表された「Apple Watch Ultra」を想像してしまいますよね。先にいっておきますと、どうやら本発明はまだApple Watch Ultraのタッチスクリーンには採用されていないようです(よって、Apple Watch Ultraは水中でのタッチ操作はできません)。
可視光と赤外光(又は紫外光)を使い分ける
それでは、水中で使用可能なタッチセンサの原理をちょっとチェックしてみましょう。
光学式センサで画面表面層に触れた物体(多くの場合、ユーザの指)を検出するにあたって、画面からは当然ながらユーザが見るために画面の表示情報が「可視光」で発せられています。このため、センサが使用する光は可視光以外でなければいけません(もちろん、画面表示のことを考えなければ可視光領域でも問題ありませんが)。
上図は、全反射光学タッチセンサを有するディスプレイの断面図を例示的に示したものです。パネル14P内の画像ピクセルは、ディスプレイカバー層14CGを通して視聴者によって視認可能である画像を表示します。一方、赤外発光ダイオードなどの光源52からは可視光領域外の光46が放射され、プリズム56を経てディスプレイカバー層14CGに向けられます。
この光46は、層14CG外面上の指34の存在によって局所的に無効にされない限り、全内部反射の原理に従って層14CG内を伝搬し続けます。光46から指の存在によって散乱光48になったことを検出して、画面がタッチされたことを検知するわけです。このとき、水60の存在は光46に影響を与えませんので、水60があろうとなかろうと、このタッチセンサは動作することができるのです。もちろん、この指にグローブがはめられていても、何の問題もありません。
実装可能性は不明
以上、9月に公開公報が発行されたAppleの新技術のうち、水中タッチパネルの特許出願を簡単に確認しましたが、出願日をみてもまだ数ヶ月しか経っていないため、この技術が特許化されるかどうかも不明ですし、実際の製品に実装されるかもまったく不明という段階です。
実装されるとすればApple Watchではないか、と筆者は推測しますが、水中ガジェットとして今後どのような製品が出てくるかもわかりませんので、予測はなかなか難しいところです。
しかし、出願された発明から、様々な未来の可能性を考えてみるのも特許の「楽しみ方」ですね。
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