6月に出願公開されたAppleの新技術〜顔料/染料レスのカラーマーキング 〜


はじめに

今回のコラムは、2025年6月19日に出願公開された、Appleの特許出願、「Electronic device with a colored marking(カラーマーキングを備えた電子デバイス)」について紹介します。

 

発明の名称:Electronic device with a colored marking

出願人名:Apple Inc. 

公開日:2025年6月19日 

公開番号:US2025/0199220A1

https://www.j-platpat.inpit.go.jp/c1801/PU/US-A-2025-0199220/50/ja

 

今日のデジタル社会において、スマートフォンやタブレット、ノートブックPCといった電子機器は私たちの生活に不可欠な存在です。これらのデバイスには、ブランドロゴや識別情報、装飾的な画像など、様々な「マーキング」が施されています(例えばAppleマークもその1つです)。

しかし、従来のマーキングには避けられない課題がありました。

 

従来技術の問題点

一般的な電子機器の筐体に見られるマーキングは、通常、塗料やインクを用いて形成されています。これらの塗料やインクには、目的の色を出すための顔料や染料が含まれています。しかし、デバイスが日常的に使用される中で、筐体の外面に施されたこれらのマーキングは、「摩耗しやすい」という根本的な問題点がありました。

せっかくの美しいロゴやデザインも、使っているうちに擦れて薄くなったり、消えてしまったりすることがありました。これは、デバイスの見た目を損なうだけでなく、ブランドイメージの低下にも繋がりかねない、長年の課題だったのです(これを当たり前のこととせず、課題だと認識することが大事なことです)。

 

本出願が開示する解決策

Appleが出願した特許(出願人:Apple Inc.、発明者:Michael S. Nashner、Erica K. Block、Robert B. Reichenbach)は、この従来の課題を根本から解決する画期的なアプローチとして、「光の干渉を利用した発色」と「レーザーベースの精密形成技術」を開示します。

この発明によるカラーマーキングは、従来の顔料や染料を使うのではなく、光の干渉によって色が生成される「カラーピクセル」で構成されます。これにより、異なる色を持つマルチカラーマーキングや、ロゴや写真画像、バーコードなどの多様な「画像」をデバイス表面に形成することが可能になります。

 

1.光の干渉による発色メカニズム

本発明では、多層構造を持つカラーピクセルを多数組み合わせます。カラーピクセルの構造は、反射ベース層、半透明層(干渉層とも呼ばれる)、および部分反射カバー層からなります。



この発明の最も重要な特徴は、半透明層の「厚さ」がピクセルの色を決定するという点です。光がこの多層構造に入射すると、層の内部で反射と透過を繰り返し、特定の波長の光が強められたり弱められたりする「干渉」現象が起きます。半透明層の厚さを変えることで、異なる色が作り出されます。


これにより、従来の顔料や染料が不要となり、ピクセル自体が本質的に色を持つため、色褪せや摩耗による色の変化が起こりにくくなります。


2.レーザーベースの精密形成技術


カラーピクセルは、少なくとも一部が「レーザーベースの技術」(「レーザー形成」または「レーザー蒸着」)を用いて形成されます。
このレーザーベースの蒸着プロセスは、層の位置決めや寸法を極めて精密に制御できるため、触ってもほとんど感知できないほど薄い層を形成することが可能です。これにより、マーキングがデバイスの触感に影響を与えることなく、自然な一体感を生み出します。


耐久性と美しさを両立

これらの技術を組み合わせることで、この発明は電子機器の外面で使用するのに十分な「耐摩耗性」を持つカラーマーキングを実現します。iPhoneやiPad、MacBookといった日々の使用に耐える必要があるデバイスのロゴやデザインに、この技術が応用されることで、長期間にわたってその美しさと機能性を保つことができるようになるでしょう。



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