私たちの生活に欠かせないバッテリー技術は、電気自動車(EV)の普及や再生可能エネルギーの貯蔵といった分野で、ますますその重要性を増しています。現在、リチウムイオン電池が主流ですが、安全性やエネルギー密度のさらなる向上を目指し、次世代電池として注目を集めているのが「全固体電池」です。
全固体電池は、従来の液体電解質の代わりに固体電解質を用いることで、以下のようなメリットが期待されています。
- 安全性向上: 可燃性の液体電解質を使用しないため、液漏れや発火のリスクが大幅に低減されます。
- エネルギー密度向上: より高い電圧や容量を持つ材料の組み合わせが可能になり、電池の小型化・軽量化、長寿命化に貢献します。
- 広い動作温度範囲: 固体電解質は温度変化に強く、高温下や低温下でも安定した動作が期待できます。
- 多様な形状への対応: 固体であるため、電池の形状設計の自由度が高まります。
このような魅力を持つ全固体電池の研究開発は世界中で活発に進められており、その技術的な進歩は特許情報からも窺い知ることができます。
全固体電池の特許動向:過去から現在
全固体電池に関する特許出願件数は、近年急激に増加しています。特に、2010年代後半から2020年代にかけて、世界各国で特許出願が活発化しています。この背景には、電気自動車の普及や再生可能エネルギーの導入に伴い、高性能で安全な蓄電池の需要が高まっていることが挙げられます(参考リンク:経済産業省「蓄電池産業戦略」)。
特許出願人の国別構成を見ると、日本、中国、韓国、米国が上位を占めています。特に、日本は全固体電池の研究開発において先行しており、多くの特許を保有しています(参考リンク:特許庁「令和5年度分野別特許出願技術動向調査結果」)。また、中国や韓国も近年、全固体電池技術の開発に力を入れており、特許出願件数を伸ばしています。
全固体電池に関する特許技術は、材料開発、電極構造、製造プロセスなど、様々な分野にわたって進展しています。例えば、材料開発では、高イオン伝導性を持つ固体電解質や、高容量・高電圧の正極材料の開発が進められています。また、電極構造では、電極と固体電解質の界面抵抗を低減する技術や、電極の微細構造を制御する技術が開発されています。さらに、製造プロセスでは、薄膜化技術や積層技術などの開発により、製造コストの低減や生産性の向上を目指しています。
全固体電池関連の注目特許例
- 特許名: 固体電解質材料、および、電池
出願人: パナソニックIPマネジメント株式会社
公開番号: WO2018025582A1
出願年: 2017年
概要: 硫化物およびハロゲン化物を使用した高いリチウムイオン電導性を示す固体電解質およびそれを使用した全固体電池の製造技術。高い電導性を持つ材料の開発が進められており、全固体電池の性能向上に寄与することが期待されています。 - 特許名: Lithium-stuffed garnet electrolytes with secondary phase inclusions
出願人: QuantumScape Battery Inc.
特許番号: US10347937B2
出願年: 2017年
概要: 高イオン電導率を持つ固体電池用電解質のためのリチウムをドープしたガーネット材料の製造技術。この技術は、全固体電池の効率を向上させる可能性があります。 - 特許名: 全固体電池
出願人: トヨタ自動車株式会社
特許番号: JP6856042B2
出願年: 2018年
概要: 全固体電池の構造に関する特許で、正極と負極の間に固体電解質を挟んだ構造を持ち、電池間の接続で生じる抵抗を抑える技術が記載されています。この特許は、全固体電池の効率的な電気流動を実現するための重要な技術です
今後の展望
全固体電池は、次世代の蓄電池として大きな期待を集めていますが、実用化に向けてはさらなる技術開発が必要です。特に、材料開発や製造プロセス技術の向上、コストの低減などが課題となっています(参考リンク:トヨタ自動車「全固体電池の開発・実用化に向けたトヨタの戦略とは?【2024年度版】」)。
現在、多くの企業が全固体電池の実用化に向けて積極的に取り組んでおり、材料メーカーによる量産体制の構築(参考リンク:日刊工業新聞「全固体電池向け固体電解質、三井金属が生産能力3倍に」)や、エネルギー企業による技術開発など、具体的な動きも加速しています。
今後、これらの課題を解決することで、全固体電池が実用化され、電気自動車をはじめとする様々な分野で活用されることが期待されます。全固体電池の技術革新とその特許動向は、持続可能な社会の実現に向けた重要な鍵となると言えるでしょう。