仮想現実(VR)技術は、鮮明な没入感覚が得られることから、特に映像視聴やゲーム分野で広く用いられています。
そんな中、VRシーンにおいてセキュリティ検証を必要とするサービス(典型的には支払いサービス)が実行される場合、VR端末を装着しているユーザが没入体験を楽しんでいる間にセキュリティをいかに迅速に検証するかが、ユーザの没入感を向上させるために非常に重要な課題となっています。
今回紹介する特許発明は、ユーザがVR端末を装着している間に、視覚焦点コントロールなどの直感的な対話モードを使用して、セキュリティ検証を完了させるというものです。
例えば、VR端末に搭載された眼認識ハードウェアを介して、ユーザの複数の相補的眼生理的特徴(例えば、眼紋特徴+虹彩特徴)を取得し、その特徴とユーザによって保持された事前に定義された上記特徴とを照合してセキュリティ検証を完了することができるのです。
このようにユーザの生体認証によって迅速に支払いサービスなどのセキュリティ検証を通過できれば、ゲーム中にVR端末を外してパスワードを入力するといった煩わしさから開放され、より没入感の高いVR体験ができるというわけですね。
発明の背景
仮想現実(VR)技術は、コンピュータ・グラフィックス・システムおよび様々な制御インターフェースを包括的に利用して、ユーザに没入感覚を提供するように、コンピュータ上に対話型3次元環境を生成する技術です。
VRを通して得られるリアルな体験は、あたかも現実であるかのように感じられ、今後の発展が大いに期待されています。
ユーザに鮮明な没入感覚を提供できるVR技術ですが、一方で、克服すべき課題も残っています。それは、セキュリティ検証の精度をいかに向上させていくかです。
例えば、VRシーンの中で支払サービスが実行される場合には、厳重なセキュリティを敷く必要があります。
とはいえ、セキュリティ性を高めるためにVR端末を装着しているユーザの没入感を損ねてしまっては、せっかくのVR技術が台無しになってしまいます。
ユーザにVR環境での行動を楽しんでもらうと同時に、サービスのセキュリティを迅速かつ正確に検証することは、ユーザ体験を向上させるためには極めて重要なのです。
どんな発明?
今回紹介する「仮想現実シーンベースのビジネス検証方法およびデバイス」とは、いったいどのような発明なのでしょうか。
ここでは、発明の目的や詳細について解説します。
発明の目的
本発明の目的は、VR環境におけるセキュリティ検証の精度を高めることです。
セキュリティ検証の精度が上がることで、意図せず決済が行なわれてしまったり、逆に、決済したいのにうまく支払作業が行なえないといったエラーを回避できるようになります。
本発明には、視覚焦点によるセキュリティ検証の精度を高める効果があります。
眼認識ハードウェアを介してユーザから獲得した複数の眼生理的特徴と、事前に登録してあるサンプルとを比較することで、サービスのセキュリティ検証を迅速に行ないます。
それによって、ユーザによって実行されるサービスのセキュリティ性を保証すると同時に、セキュリティ検証が、より簡単に行なえるようになります。
複数の眼生理的特徴を判断材料とすることによって、検証失敗を抑えられ、セキュリティ検証の精度を向上させられるのです。
発明の詳細
この発明は、仮想現実(VR)シーンベースのサービス検証デバイスに関するものです。
実際の適用例としては、以下のようなものが挙げられます。
- VRショッピングにおける注文支払
- VRライブ放送におけるチップ支払
- VRビデオにおけるビデオ・オン・デマンド支払
- ユーザのVR端末ロック解除サービス
FIG.2は、VRシーンベースのサービス検証デバイスの論理を示す図です
以下の流れで、セキュリティ検証を行ないます。
- 検出モジュール(201)によって、ユーザが行なおうとしているサービスを検出します。
- 獲得モジュール(202)によって獲得したユーザの眼生理的特徴と、事前に記憶されている「眼生理的特徴サンプル」とを比較します。
- 比較結果に基づき、検証モジュール(203)が、サービスのセキュリティ検証が成功したかどうかを判定します。
検出モジュールとは、VRシーンにおいて、ユーザの視覚焦点によってトリガされるターゲット・サービスを検出するように構成されたモジュールです。ユーザの視覚焦点を参考にして、対象のサービスを検出します。
獲得モジュールとは、ユーザから複数の眼生理的特徴を獲得するために、事前に構成された眼認識ハードウェアを使用するように構成されたモジュールです。「ユーザの眼生理的特徴」には、網膜の特徴や、虹彩の特徴などが挙げられます。
セキュリティ検証が失敗したと判定された場合には、「02」の工程を繰り返します。
デバイス(20)はVRシーンにおいて、視覚焦点を中心とする事前に設定したサイズのターゲット視覚エリアを識別し、2段階のレンダリングを行ないます。
1つ目のレンダリングでは、識別されたターゲット視覚エリアに対応する視覚イメージを視覚的に検出し、2つ目のレンダリングでは、ターゲット視覚エリアの外側の他の視覚エリアに対応する視覚イメージを視覚的に検出します。
この時、2つ目のレンダリング精度は1つ目のレンダリング精度よりも低くなっています。
さらに、ターゲット視覚エリアの外側の他の視覚エリアについては、視覚焦点までの距離が遠くなればなるほど、徐々にレンダリング精度を落とすことができます。
このため、ユーザが意識を向けて注視しているエリアを、より正確に検出できるのです。
またデバイス(20)は、事前に構成された「視標追跡ハードウェア」を使用し、ユーザの視覚焦点の判定や、VRシーンにおいて「事前設定仮想コンポーネント」が配置されたエリア内に視覚焦点が滞留するかどうかの判断を行ないます。
「視標追跡ハードウェア」には、例えば、網膜特徴を獲得するための「RGBカメラ」や、虹彩特徴を獲得するための「赤外線カメラ」などがあります。
「事前設定仮想コンポーネント」は、ターゲット・サービスをトリガするために使用されます。
FIG.2では省略していますが、「毅然設定仮想コンポーネント」は、トリガモジュールを含むこともできます。
トリガモジュールとは、事前設定仮想コンポーネントが配置されたエリア内に事前設定した時間よりも長い間滞留する場合に、ターゲット・サービスをトリガするように構成されたモジュールです。
FIG.3は、サービス検証デバイスをもつVR端末のハードウェア構造図です。
VRシーンベースのサービス検証デバイス(20)をもつVR端末機器は、一般に、ハードウェアおよびソフトウェアを組み合わせた論理デバイスとみなすことが可能です。
ハードウェアには、例えばCPU、メモリ、不揮発性ストレージ、ネットワーク・インターフェース、内部パスなどが挙げられます
ここがポイント!
本発明では、単一の眼生理的特徴ではなく、複数の眼生理的特徴を判断材料にするため、セキュリティ検証を迅速かつ正確に行なえるようになります。
不用意にサービスが実行されてしまうリスクを抑えるのはもちろん、実行したいサービスが思うように利用できないという不便さが解消できるという点が、本発明のポイントだといえるでしょう。
未来予想
本発明によってVR空間におけるセキュリティ検証の迅速化・堅実化を実現することで、より多様で大規模な経済活動がVR空間上で行なわれるようになるでしょう。
例えば、ビジネスにおけるより重大な意思決定や、NFTを活用した巨額の取引などが、VR空間上でさらに活発に行なわれやすくなると考えられます。
もしかすると、国家間の取引においても、VR技術の活用が進むかもしれません。
このように本発明は、1ユーザのセキュリティー検証にとどまらず、世界規模での経済活動活性化にもつながりうるイノベーションだといえます。
特許の概要
発明の名称 |
仮想現実シーンベースのビジネス検証方法およびデバイス |
出願番号 |
特願2019-545980(P2019-545980) |
公開番号 |
特表2020-515945(P2020-515945A) |
特許番号 |
特許第6880214号(P6880214) |
出願日 |
平成30年2月12日(2018.2.12) |
公開日 |
平成30年8月30日(2018.8.30) |
登録日 |
令和3年5月7日(2021.5.7) |
審査請求日 |
令和1年10月21日(2019.10.21) |
出願人 |
アリババ・グループ・ホールディング・リミテッド |
発明者 |
ウー チュン |
国際特許分類 |
G06F 21/32 (2013.01) |
経過情報 |
・中国特許庁(中国国家知識産権局)を受理官庁として国際出願された後、日本国内へ移行され、日本特許庁で審査された。その後、拒絶理由通知がされたものの、誤訳訂正書と意見書を提出し、特許査定となった |