ウィルスに立ち向かえ!人類を助ける特許たち

vol.4//

ウィルスに立ち向かえ!
人類を助ける特許たち

目次

INTRODUCTION

COVID-19(新型コロナウィルス感染症)の急速な拡大により、世界中の都市がロックダウンとなり日本でも緊急事態宣言が発令され、外出自粛等の対策が取られました。
さらに基本的なウィルス対策として手洗いウガイの予防だけでなく、マスクやアルコール消毒の製品による対策も当たり前になりつつあります。
そんな中、実はその他にもウィルスや菌から身を守るための様々な技術やアイディアグッズが数多く存在し、研究者や発明家は日々、人類とウィルスの戦に挑んでいます。

今回はそんなウィルスに立ち向かう特許たちに着目し、その一部を解説していきます。

※新型コロナウィルスへの効果を証明、解説する内容ではありません。

G-mist

人体フレンドリーに殺菌!

人体フレンドリーに殺菌!

2020年5月に入ってコロナウイルスの終息がやっと見え始めました。
今回の感染症の蔓延で、再び優秀な消毒液として脚光を浴びているのが、次亜塩素酸水溶液です。というのも次亜塩素酸水溶液は、高い殺菌力を有する上に、人体にも優しいという事で脚光を浴びています。しかし今までは限られた域内でのペット用品、ベビー用品、水道水、プールの殺菌等に使用されてきました。というのも次亜塩素酸は有機物や紫外線等に触れた瞬間に水に戻るという性質があり、人体には安全である反面、長期間安定して殺菌力を保つのが困難な消毒液でした。そこで次亜塩素酸液がより安定して殺菌力を保てるようにという事で「次亜塩素酸水溶液の製造又は調製方法及び装置」が発明されました。この発明のポイントは、次亜塩素酸水溶液の製造過程において、消毒力を低下させる要因となる金属イオンの除去率を大きく飛躍させた点です。この発明によって安全安心な消毒液が日本中の人の手に渡る日も近いでしょう。

■従来の課題

次亜塩素酸水溶液は、食品の殺菌洗浄、プールや医療用の消毒等を始め、幅広い分野に用いられている。

次亜塩素酸水溶液は優れた殺菌・消毒作用を有しているものの、長期安定性に劣る(時間経過および温度変化に伴い次亜塩素酸濃度が低下する)結果、製品を広範囲に流通させることが困難という課題があった。

■本発明の効果

本発明によれば、高い殺菌性を長期的に発揮することが可能な次亜塩素酸水溶液を提供することが可能であり、紙業及び繊維業等における漂白用、プール用、上下水道用、家庭用等の消毒・殺菌用など様々な用途に使用することができる。
特に本発明に係る次亜塩素酸水溶液は、衛生用(例えば、手洗い用)に適している。

■特許請求の範囲のポイント

本発明のポイントを下記に示す。

次亜塩素酸水溶液の製造又は調製方法であって、
・次亜塩素酸イオンを含む水溶液を供給する原液供給工程と、
・フィルターに負の電荷を付与する帯電工程と、
・電荷を付与された前記フィルターに前記水溶液を通過させるろ過工程を有し、
前記帯電工程として、圧電素子又はコイルによる片側昇圧工程を含むことを特徴とする、次亜塩素酸水溶液の製造又は調製方法

本発明の更なるポイントとして、原液供給工程に、水系の媒体(好ましくは脱イオン水や蒸留水等の純水)に次亜塩素酸塩を溶解する工程を含むことが挙げられる。

■全体構成

本発明に係る次亜塩素酸水溶液の製造装置(10)の一例を図1に示す。

【図1】本発明に係る次亜塩素酸水溶液の製造装置(10)の一例

・原液供給部(11):次亜塩素酸イオンを含む原液を供給する部分。原液を貯留するタンクと、ろ過部(12)へ原液を送出するポンプより構成される。
・ろ過部(12):原液供給部(11)から供給された次亜塩素酸イオンを含む原液が通過可能な流路を備えている。
・フィルター(12a):ろ過部内に設置され負に帯電しており、水溶液中の金属イオンを除去する。フィルター(12a)は帯電可能な材料であれば良く、無機材料でも有機材料でもよい。
・片側昇圧部(13):フィルター(12a)の一端と電気的に接続されており、片側昇圧(例えば、直流電源のマイナス側を圧電素子等により昇圧する)によって、フィルター(12a)に負の電荷を付与する。

また、本発明に係る次亜塩素酸水溶液の製造装置の別の形態を図2に示す。

【図2】本発明に係る次亜塩素酸水溶液の製造装置の別の形態

・図2の形態では、フィルター(12a)が細孔を有する円筒状となっている。当該円筒内部に水溶液が流下することにより、フィルタリングが行われる。
・ろ過部(12)は、次亜塩素酸水溶液が一定時間停留可能なように構成されている。

■細部

上述の装置を用いた次亜塩素酸水溶液の製造方法を以下に詳しく説明する。

<原液供給工程>

原液供給工程は、ろ過部まで原液を供給する工程である。
本発明に用いられる原液には、次亜塩素酸イオンを含む水溶液、具体的には、①次亜塩素酸塩の水溶液、または、②次亜塩素酸水溶液、が挙げられる。①の場合、次亜塩素酸塩が溶解した水溶液を原液供給部に供給してもよいし、原液供給部内にて、水系媒体(好ましくは脱イオン水や蒸留水等の純水)に次亜塩素酸塩を溶解させてもよい。次亜塩素酸塩の種類は特に限定されないが、例えば、次亜塩素酸ナトリウム、次亜塩素酸カリウム、次亜塩素酸カルシウム等が挙げられる。②の場合、市販品の次亜塩素酸水溶液を原液とする、または、食塩水を電気分解して次亜塩素酸水溶液を製造する工程などを別途設け、原液供給手段としてもよい。

<帯電工程>

帯電工程は、片側昇圧部(13)により、フィルター(12a)を負に帯電させる工程である。
片側昇圧の条件としては、フィルター(12a)が負に帯電する程度であればよく、フィルター(12a)の材質及び構造や、原液の供給速度や原液の濃度等に合わせ適宜変更することが可能である。

<ろ過工程>

ろ過工程は、負に帯電したフィルター(12a)に前述の水溶液を通過させることで、原液中の金属イオンを除去する工程である。
一般的に、次亜塩素酸水溶液はその製法上、次亜塩素酸イオンの濃度を高めると、金属イオンの濃度も同時に高くなる。その結果、液中の金属イオンに基づいて塩化物が形成され、相対的に液中の有効塩素濃度が低くなり、次亜塩素酸の長期安定性が失われる。
本発明のろ過方法によれば、液中の金属イオンを除去することができるため、次亜塩素酸の長期安定化が可能となる。 加えて本発明では、片側昇圧によりフィルター(12a)を帯電させた状態でろ過を行うため、原液中の金属イオンの除去能力が従来の方法よりも非常に優れている。

■実施例

1.原料液の調製

常温常圧下にて、含有量が12000ppmとなるように次亜塩素酸ナトリウム(NaClO)を純水に溶解させて、原料液を調製した。

2.ろ過工程

次に、上述の原料液を下記条件にてろ過した。
・フィルター: 目が0.01μ以下
・昇圧条件: 直流電源/-昇圧状態
・送液速度: 1~4L/min
・電源装置として圧電素子を用いて、-5000V以上となるように設定した。

3.次亜塩素酸水溶液の性状

得られた次亜塩素酸水溶液の性状を以下に示す。
 HClO濃度:10000ppm以上
 Na濃度:1000ppm以下
 pH:3.5~4.0

4.長期安定性の評価

得られた次亜塩素酸水溶液の長期安定性を評価した。
次亜塩素酸水溶液を、常温環境下及び40℃ 環境下の2つの条件下で保存し、経時的な有効塩素濃度を測定することで、次亜塩素酸水溶液の長期安定性の評価を行った。合わせて、同条件にて、別途食塩を添加した際の次亜塩素酸水溶液の長期安定性の評価を行った。評価結果を表1及び表2に示す。

【表1】次亜塩素酸水溶液の長期安定性の評価結果(40℃保存)

【表2】次亜塩素酸水溶液の長期安定性の評価結果(常温保存)

更に過酷環境として、50℃及び光照射環境下での長期安定性を測定した。

【表3】次亜塩素酸水溶液の長期安定性の評価結果(50℃及び光照射環境下)

上記結果より、本発明の次亜塩素酸水溶液は、長期保存安定性に非常に優れ、また過酷な環境下においても、ある程度の有効塩素濃度を保つことが可能である。

■展望、結語

本特許に記載の発明によれば、これまで課題とされていた時間経過および温度変化に伴う次亜塩素酸濃度の低下が起こりにくく、水溶液の長期保存が可能となる。現在、新型コロナウイルス感染拡大の影響で、さまざまな施設および医療現場にて次亜塩素酸水溶液の需要が増大しており、本発明が世の中に与える貢献は非常に大きいものと思われる。

■概要

出願国:日本 発明の名称:次亜塩素酸水溶液の製造又は調製方法及び装置
出願番号:特願2016-118383
特許番号:特許第6230079号
出願日:2016年6月14日
公開日:2017年12月21日
登録日:2017年10月27日
出願人:熊倉 淳一、監物 秀樹
経過情報:2017年に特許が登録され、現在も特許は維持されている
その他情報:本特許の出願国は日本のみである

<免責事由>
本解説は、主に発明の紹介を主たる目的とするもので、特許権の権利範囲(技術的範囲の解釈)に関する見解及び発明の要旨認定に関する見解を示すものではありません。自社製品がこれらの技術的範囲に属するか否かについては、当社は一切の責任を負いません。技術的範囲の解釈に関する見解及び発明の要旨認定に関する見解については、特許(知的財産)の専門家であるお近くの弁理士にご相談ください。

クレベリン

魔法のゲルが人類を救う?

魔法のゲルが人類を救う?

映画でも昨今のニュースにおいても、感染症や特にコロナウイルスへの危惧が度々特集されています。
こんな時に私たちの救世主となるのが、ウイルス等を退治してくれる殺菌剤です。その中でも二酸化塩素は特に、大気中ウイルスへの強い殺菌力があるものとして、殺菌剤や抗菌として重宝されてきました。しかし一方で、二酸化塩素はガス状と不安定であり、またその強い酸化力の人体への悪影響が懸念されてきました。そこで二酸化塩素を安定化させると共に、人体への安全も確保するものとして「純粋二酸化塩素液剤、これを含有するゲル状組成物及び発泡性 組成物」が発明されました。この発明のポイントは、気体である二酸化塩素を扱いやすいゲル状にした事、また気体である二酸化塩素を、濃度をほぼ一定に長期間に渡って保つ事ができる液体の製造を可能にした事です。この発明によって、ウイルスや感染症への心配から解放される日も近いかもせしれません。

二酸化塩素を利用した抗ウイルス・抗菌製剤、消臭製剤の製品に関して、2つの特許をご紹介します。
本技術に関する特許は、実は、同様の内容で2つ出願されています。第1特許および第2特許と称することにします。第1特許および第2特許は、それぞれ国際特許出願され、いったんはどちらも特許にできなかったものの、分割出願することによって、下記に紹介しますようにそれぞれ特許となっています。
最初に紹介する1番目の特許は、第1特許出願から分割出願されて、最終的には「ゲル状組成物」の内容で権利化されています。
一方、次に紹介する2番目の特許は、第2特許出願から分割出願されて、最終的には調整方法(製造方法)の内容で権利化されています。

まず、1番目の特許についてご紹介します。

■従来の課題

二酸化塩素は、酸化力を有する物質です。この酸化力によって、ウイルスや細菌を死滅させたり、嫌な臭いを消したりできます。しかし、濃度が高すぎると人体にも悪い影響を与える可能性があるため、低濃度で利用されなければなりません。

二酸化塩素は、本来ガス状であり、取り扱いが難しい物質です。ところが、水に溶けて水溶液の状態になることもできるため、水に溶かした方が取り扱いやすいといえます。
ただし、二酸化塩素の単なる水溶液は、空気に触れると過剰に二酸化塩素ガスを発生させるため、人体への安全性が心配されます。
これに対して、従来、様々な工夫が提案されています。1つの案として、二酸化塩素を急激でなく安定的に空気中へ放出させるために、二酸化塩素の水溶液に、亜塩素酸塩およびクエン酸を加えることが提案されています。
提案されたこの方法によって、急激なガス放出を抑えることができます。また、二酸化塩素ガスが少しずつ放出されても、水溶液中の二酸化塩素の濃度を長期間一定に保つことができます。しかし、このような保存安定性の効果は必ずしも十分ではなく、改善の余地が残っていました。

上記の課題に鑑みて、本発明は、二酸化塩素の保存安定性が十分に発揮されるゲル状組成物を提供すること、すなわち、長期間にわたって二酸化塩素の濃度をほぼ一定の範囲内に保つことができるゲル状組成物を提供することを目的とします。

■本発明の効果

本発明によれば、多くの二酸化塩素をゲル状組成物に含有させることができます。しかも、ほぼ一定濃度の二酸化塩素ガスを少しずつ長時間継続して放出させることができます。
このような特徴を活かせば、空気中に二酸化塩素を長期間にわたって少しずつ放出させることができます。二酸化塩素は、ウイルス、細菌、カビなどを死滅させる性質や臭いを消す酸化力を持っていますから、空気中へ放出させることによって、ウイルスや細菌の感染を予防する効果が期待できます。一方で、二酸化塩素の酸化力は人体への影響も心配されますが、低濃度で放出するように設計すれば、安全性の点でも安心できそうです。
このように、本発明のゲル状組成物を利用した製品は、効果的に、抗菌・除菌剤、抗ウイルス剤、除カビ・防カビ剤、及び消臭・防臭剤として使用することができます。

■化学は苦手・・・という人向けに

少し難しいお話をしましたが、より単純に説明します。二酸化塩素は強力な作用を持っているので、ウイルスや細菌を死滅させることができますが、人体への影響も少し心配される物質です。“諸刃(もろは)の剣(つるぎ)”となる二酸化塩素をうまく利用するための工夫が、今回の特許となります。
簡単に説明しますと、水に二酸化塩素を溶かし、特定の2種類の成分を加えて少し酸性にします。そうすると、上述したように、二酸化塩素を長期間にわたって少しずつ空気中へ放出させることができます。これによって、人体への悪影響を抑えつつ、ウイルスや細菌をやっつけることが期待できます。

■特許請求の範囲のポイント

本発明は、酸化力によってウイルスや細菌を死滅させることができる二酸化塩素を含んだゲル状組成物に関します。
特徴的な点を説明しますと、ゲル状組成物は、多くの二酸化塩素を含んでいても、ガス状の二酸化塩素を一気に空気中へ放出させず、徐々に少しずつ放出させることができます。酸化力を有する二酸化塩素は、多量に(高濃度で)空気中へ放出されると、人体への影響が心配されますが、本発明のゲル状組成物は、この安全性の点で工夫されています。また、ガス状の二酸化塩素が少しずつ長期間にわたって放出されるため、ウイルスを死滅させる等の効果が長持ちします。

このような本発明のゲル状組成物は、下記のような構成をしています。

■全体構成

本発明のゲル状組成物の概要を説明しますと、ゲル状組成物は、二酸化塩素と、亜塩素酸塩と、pH調整剤と(ここまでが二酸化塩素の液剤)、高吸水性樹脂と、を含みます。
上記のpH調整剤は、リン酸またはその塩(例えばリン酸二水素ナトリウム)であり、二酸化塩素の液剤のpHが4.5~6.5の範囲であることを特徴とします。

さらに詳しく説明しますと、二酸化塩素の化学式は「ClO2」で表され、亜塩素酸塩(例えば亜塩素酸ナトリウム)は「NaClO2」で表されます。
のちほど詳しく説明いたしますが、亜塩素酸ナトリウム等の亜塩素酸塩と、リン酸二水素ナトリウム「NaH2PO4」等のpH調整剤とを組み合わせたことが最大の工夫であり、これによって本発明の主な効果が発揮されるといえます。
また、高吸水性樹脂を添加する前の液剤のpHが4.5~6.5の範囲(弱酸性)であることによって、長期にわたる保存安定性に優れ、ゲル状組成物のpHが変わりやすくなることを抑制できます(pHとは、酸性~アルカリ性を表す数値です)。
なお、高吸水性樹脂は、例えばデンプン系吸水性樹脂、セルロース系吸水性樹脂、または合成ポリマー系吸水性樹脂です。高吸水性樹脂によってゲル化(ゼリー状)されていると、こぼれる心配も少なくなります。

■細部

少し難しい専門的な内容になりますが、もともとガス状の二酸化塩素「ClO2」を水に溶かすと、式(2)に示されるように、亜塩素酸「HClO2」が水中で生じます。なお、塩素酸「HClO3」も同時に生じます。
式(2)は、化学平衡式といわれ、矢印の左側と右側とでバランスをとっている様子を表現しています。少しバランスが崩れると、左側への反応が多くなったり、逆に右側への反応が多くなったりします。

ところで、「HClO2」で表される亜塩素酸は、式(4)で示されるように、亜塩素酸ナトリウム「NaClO2」が水に溶けたときにも生じます。上述しました式(2)において亜塩素酸「HClO2」が増えると、増えた「HClO2」を打ち消すように反応が左側へ傾きます。そうすると、二酸化塩素「ClO2」が増えることになります。増えた二酸化塩素「ClO2」は、まさしく本発明の肝となる成分です。本発明は、この現象を利用しているのです。
少し見方を変えますと、二酸化塩素「ClO2」が空気中へ放出されると、当然、組成物中の「ClO2」が減ります。これに伴って、減った「ClO2」を補充しようというはたらきによって、式(2)において反応が左側へ傾きます。あらかじめ水に溶かしておいた亜塩素酸ナトリウム「NaClO2」からは「HClO2」が生じているため、式(2)の反応が左側へ傾くと、「HClO2」を元にして二酸化塩素「ClO2」を次々と補給するような現象が起きます。
また、pH調整剤として、リン酸二水素ナトリウム等を使用することによって、上記のごとく「NaClO2」から「HClO2」を経て、さらに二酸化塩素「ClO2」を生じさせる反応を、ほどよく抑えることができます。よって、肝となる二酸化塩素「ClO2」が過剰に放出されることもなく、二酸化塩素「ClO2」が徐々に空気中へ放出されます。

このような現象が実験によって確認されていますので、以下に説明します。

■実施例

実験用の2つの液剤を作り、その性能を比較しています。

(実施例1)

二酸化塩素ガスが2000ppm溶けている水溶液250mLに、水680mlを加えた。次に、25%濃度の亜塩素酸ナトリウム溶液80mLを加えて撹拌した。続いて、pHが5.5~6.0となるようにリン酸二水素ナトリウムを加えた。このようにして、二酸化塩素「ClO2」、亜塩素酸ナトリウム「NaClO2」、および、リン酸二水素ナトリウム「NaH2PO4」を含む二酸化塩素の液剤1000mLを作った。

(比較例1)

リン酸二水素ナトリウムの代わりに、クエン酸を使用した点以外、実施例1と同様にして、比較対照用の二酸化塩素の液剤を作った。

<安定化試験>

実施例1及び比較例1のpH調整剤(リン酸二水素ナトリウムまたはクエン酸)の濃度を、それぞれ100ppm濃度、500ppm濃度に調整した。
これら液剤の保存安定性を調べるために、溶けている二酸化塩素ガスの濃度(ppm)を、時間を追って測定した。なお、試験日数を短縮するため、加速試験(測定温度:54℃。14日間が常温の1年に相当する)を実施した。結果を[図1]および[図2]に示す。

図1および図2からわかるように、本発明に相当する実施例1の方が、比較例1よりも、液剤に含まれる二酸化塩素の濃度が安定的でした。具体的には、実施例1では、時間が経過しても液中の二酸化塩素の濃度がほぼ一定となった。
この結果からわかるように、実施例1の方が、長期間にわたって二酸化塩素の濃度がほぼ一定になります。よって、空気中に放出される二酸化塩素ガスの量も長期間にわたってほぼ一定となります。従って、二酸化塩素ガスは、長期間にわたって少しずつ徐々に空気中に放出されることになります。

【図1】

【図2】

以上が1番目の特許のご紹介です。
本特許は、親出願である第1特許出願(国際特許出願)から分割されて特許となったものですが、第1特許出願から分割された出願は他にも2つあり、それぞれ「調製方法」、「維持方法」の内容で特許となっています。

次に、2番目の特許のご紹介をいたします。
2番目の特許の技術的思想は、基本的に1番目の特許と同じです。2番目の特許では、1番目の特許の「組成物」を作るための調製方法(製造方法)が権利化されています。

従来の課題、本発明の効果、実験によって示された結果などは、1番目の特許と同じですので、割愛させていただきます。  本発明は、「方法」の発明です。1番目とは異なる本発明のポイントについて、以下に説明いたします。

■特許請求の範囲のポイントなど

本発明は、二酸化塩素を含む液剤を調製(製造)するための方法です。
詳しくは、1番目の特許と同様に、長期間にわたって二酸化塩素の濃度がほぼ一定になる液剤を作るための方法です。この方法によって製造した液剤は、長期間にわたって徐々に少しずつ二酸化塩素ガスを空気中に放出させることができます。
このような液剤は、具体的には下記のような方法によって製造されます。

■全体構成

(1)下記溶液(A)および溶液(B)をそれぞれ作る工程を実施し、
  溶液(A):二酸化塩素ガスを溶存させた溶液、
  溶液(B):亜塩素酸塩を含む溶液、
(2)溶液(A)と溶液(B)を混合する工程を実施し、さらに、
(3)(2)で得られた混合溶液に、pH調整剤としてリン酸またはその塩を加え、pHを4.5~6.5に調整する工程を実施する。

■細部

より詳しく説明しますと、二酸化塩素ガスを水に溶解させた溶液(A)を用意し、一方で、例えば亜塩素酸ナトリウム「NaClO2」を水に溶解させた溶液(B)を用意します。
次に、この2つの溶液を混ぜ合わせます。
続いて、混ぜ合わせた溶液に、例えばリン酸二水素ナトリウム「NaH2PO4」を加えて、pHを4.5~6.5とします。液剤のpHを4.5~6.5に調整する点が重要であることは、1番目の特許でもご説明した通りです。
このようにして作った液剤は、上述したように例えば高吸水性樹脂を加えて、ゲル状組成物にすることができます。

そして、上記のごとく作った液剤やゲル状組成物は、図1および図2の実験結果からもわかるように、時間が経過しても、含まれている二酸化塩素の濃度がほぼ一定となります。よって、二酸化塩素は、長期間にわたって空気中に徐々に少しずつ放出されることとなります。

■展望、結語

以上ご説明しましたように、本発明のゲル状組成物、および、その組成物を製造する方法によって、二酸化塩素を長期間にわたって少しずつ放出させることができます。このような工夫が詰め込まれた二酸化塩素を有効成分とする製品は、ウイルスや細菌を死滅させるため、また、嫌な臭いを消すために利用できる、注目できる発明です。

■概要1

出願国:日本 発明の名称:純粋二酸化塩素液剤、これを含有するゲル状組成物及び発泡性組成物
出願番号:特願2013-119224
特許番号:特許第5593423号
出願日:2013年6月5日
公開日:2013年11月14日
登録日:2014年8月8日
出願人:大幸薬品株式会社
経過情報:本権利は抹消されていません。存続期間満了日は2028年2月15日です。
その他情報:国際特許出願されて日本国に移行してきた親出願は特許にできず、分割された本出願が特許となっています。特許となった分割出願は、合わせて3出願あります。
IPC:C01B

■概要2

出願国:日本 発明の名称:二酸化塩素用の安定化組成物
出願番号:特願2013-119228
特許番号:特許第5757975号
出願日:2013年6月5日
公開日:2013年10月24日
登録日:2015年6月12日
出願人:大幸薬品株式会社
経過情報:本権利は抹消されていません。存続期間満了日は2028年2月15日です。
その他情報:国際特許出願されて日本国に移行してきた親出願は特許にできず、分割された本出願が特許となっています。
IPC:C01B

<免責事由>
本解説は、主に発明の紹介を主たる目的とするもので、特許権の権利範囲(技術的範囲の解釈)に関する見解及び発明の要旨認定に関する見解を示すものではありません。自社製品がこれらの技術的範囲に属するか否かについては、当社は一切の責任を負いません。技術的範囲の解釈に関する見解及び発明の要旨認定に関する見解については、特許(知的財産)の専門家であるお近くの弁理士にご相談ください。

UVロボット

光が医療現場を救う!

光が医療現場を救う!

私たちが病気にかかり、また大怪我をした時に真っ先に駆けつけるのが病院。
この私たちの生命線である病院も清潔を保ってこそ、本来の役割を果たすことができます。しかし病院の清潔さを保つのは、とても大変です。というのも病室や手術室の数だけ消毒液を用いて殺菌しており、数が膨大なのに加え、拭き残しの可能性もあります。そこでより効率よく、より確実に消毒作業をということで、紫外線殺菌ロボットが発明されました。従来から紫外線を用いた殺菌の研究は行われていましたが、隅々まで消毒するのに1度に高い電力を必要とすること、携帯性、そして焼き付きの防止の3要素を同時に実現することが困難でした。本発明では、トリガ電圧回路構成、電源回路構成と占有センサを工夫することで、従来の懸念点をクリアすることができました。医療従事者の負担が軽減し、医療の現場がより安全で安心できる場となる日もすぐそこでしょう。

■従来の課題

本件発明は、病室などの閉鎖空間を紫外光で殺菌・消毒する光消毒装置、およびその方法に関するものです。

従来、パルス紫外光(以下、「パルスUV光」という。)を生成するパルス光源は様々な用途で使用されています。例えば、UV硬化樹脂などポリマーの硬化、食品の滅菌、廃水などの流体物の消毒、室内などの所定領域内の汚染除去などです。特に、パルスUV光は短時間で病原性微生物の数を大幅に低減することが知られているため、手術室や病室などの医療機関を代表とする所定領域内の消毒の用途に関心が高まっています。
一般的に微生物に対する殺菌効力は紫外電磁放射サブタイプC光(以下、「UVC光」という。)の線量に左右され、UVC光の線量はパルス電力とパルス周波数の影響を受けます。パルス電力とパルス周波数は逆相関関係(パルス電力が高いときにはパルス周波数が低く、パルス電力が低いときにはパルス周波数が高くなる)にあるため、パルス電力とパルス周波数を用途に応じて変化させることがされてきました。例えば、食品の滅菌を用途としてパルスUV光を使用する場合、食品表面には裂け目や孔があるため、裂け目や孔にUV光を侵入させるためにUVC光の線量を最大化します。UVC光の線量を最大化するためには、パルスあたりに比較的高いレベルの電力を使用します。一方、廃水の消毒など微生物を不活性化する用途でパルスUV光を使用する場合には、比較的低いレベルの電力が使用できますが、パルス周波数は高くなります。このように、パルスUV光の用途に応じてパルス電力とパルス周波数を変化させることで最適化しています。

しかし、手術室や病室などの所定領域内の消毒にパルスUV光を使用する場合は様々な制限を受けます。例えば、手術室や病室などの所定領域の隅々までUV光を伝送するためには比較的高レベルの電力を使用しなければならない一方で、実際の使用に際しては複数の部屋を移動して消毒作業をすることが想定されるため、領域消毒デバイスには携帯性が要求されます。従って領域消毒デバイスに使用されるパルスランプや電源のサイズが制限され、サイズの制限に伴い1パルスに対して生成できる電力レベルが低下します。また、一般的にパルスUV光を利用する場合3~60Hzで焼付きが誘発される虞があります。よってパルス光の暴露から部屋を守るため、室の遮断窓、または室分割器の防御ギャップが使用されることが多くありますが、完全には光を遮蔽することはできないため、安全性を考慮してパルス周波数を2Hz以下に制限することがあります。

■本発明の効果

本件発明は、前述したように手術室や病室などの所定領域内をUV光で消毒する装置が制限を受けることから、光消毒装置の効率及び効力を増大させることを目的としたものです。

■特許請求の範囲のポイント

本件発明は、殺菌性パルス光源を用いた消毒装置、及び病室など人が占有する閉鎖空間を殺菌・消毒する方法に関する発明です。消毒装置は、殺菌性パルス光源が20(+/-5%)Hz超の設定された周波数で光のパルスを生成し、消毒装置から少なくとも1.0メートルの閉鎖空間内の表面に、200nm~320nmの波長範囲の紫外光のエネルギ束が20(+/-5%)J/m2~1000(+/-5%)J/m2となるように設定された時間量において、設定された量の貯蔵されたエネルギが放出されるよう構成した点をポイントとしています。また、消毒装置は人の存在を検出する占有センサをさらに有し、占有センサが人の存在を検出すると、すぐに殺菌性パルス光源からの光の生成を阻害または終了することが可能な点もポイントとなっています。

■全体構成

本件発明の消毒装置を図1に示します。本件発明の殺菌性パルス光源22、従来の光消毒装置から生成される光のパルスより大幅に低い電力束となる20Hz超の周波数の紫外光パルスを生成するよう構成されます。このような殺菌性パルス光源22の機能を実現するため、消毒装置は更に、殺菌性パルス光源22にトリガ電圧を印加するトリガ電圧回路構成28と、電源回路構成30と、電源回路構成30および殺菌性パルス光源22に連結された1つまたは複数のエネルギ貯蔵要素26と、エネルギ貯蔵要素26と殺菌性パルス光源22との間に連結されたパルス幅回路構成32と、プロセッサと、プログラム命令とを備えた基部24を有します。さらに消毒装置は、リモートインターフェース40、電源コード42、ホイール44、占有センサなどを備えることができます。これらの構成は互いに有線または無線接続によって電気的に接続されて消毒装置20に設けられています。以下に細部について説明します。

【図1】

■細部

まず、殺菌性パルス光源22について図2を用いて説明します。殺菌性パルス光源22とは、病原菌を殺菌できる反復性パルス光を生成できるよう設計された光源であり、放電ランプ、発光ダイオード、ソリッドステートデバイス、エキシマレーザなどがあります。殺菌性パルス光源22から生成された殺菌光が消毒装置の外側へと投射されるよう、光源の一端を支持構造体の水平面に対して略垂直に配設することができます。また、殺菌性パルス光源22は、透過性の材料で作製された周辺障壁50の内側に配置され、周辺障壁50の一端には空気流入口52が、他端には空気流出口54が形成され、空気流入口52の近傍に配置された空気移動デバイス56が作動すると、殺菌性パルス光源22の周りにプレナム58が形成されるようになっています。殺菌性パルス光源22は作動時に相当な熱を生成するため、このように構成することで装置を冷却することができます。

【図2】

次に、殺菌性パルス光源22からのパルス光の生成を実現するため、基部24に設けられた各構成部品について説明します。

まず、消毒装置20が生成する紫外光パルスの周波数はトリガ電圧回路構成28によって管理されます。トリガ電圧回路構成28は、20Hz超の周波数の紫外光パルスを生成する際には、対応するトリガ電圧を殺菌性パルス光源22に印加します。好ましい実施形態としては、焼付きを誘発する安全閾値である60Hzを超える周波数となるようトリガ電圧を印加することができ、更には、コンセントから得られる交流電圧が変動することから、安全性を鑑み、焼付き誘発閾値をわずかに超える周波数である65Hz以上のトリガ電圧を殺菌性パルス光源22に印加することが可能です。別の好ましい実施形態として、光がヒトの眼には連続しているように見える周波数において、殺菌性パルス光源22にトリガ電圧を印加することもできます。
消毒装置20には更に、予め設定された時間量において設定された量の貯蔵されたエネルギを殺菌性パルス光源22へと放出する1つ又は複数のエネルギ貯蔵要素26およびパルス幅回路構成を有します。エネルギ貯蔵要素26はキャパシタを含み、パルス幅回路構成32はインダクタを含みます。例えば殺菌性パルス光源22がフラッシュランプの場合、フラッシュランプのトリガ電圧は、フラッシュランプ内にガスをイオン化し、キャパシタに蓄積したエネルギをインダクタによって管理された期間にわたってガスに向かって放出する役割を果たします。トリガ電圧回路構成28及びパルス幅回路構成32に印加される電圧レベル、並びに電荷を蓄積するために1つ又は複数のエネルギ貯蔵要素26に印加される電圧レベルは図6に示すとおりです。

【図6】

消毒装置20は上記1つ又は複数の構成部品に電力を供給するため、電源回路構成30に接続されたバッテリ38を有します。これにより、電力要件が非常に低い連続殺菌性光源を用いる場合にはバッテリより給電することが可能となります。なお、消毒装置20の電力要件が大きい場合には、消毒装置20に配設された電源コード42を用いて建物の商用交流電源から給電することもできます。

以上ご説明しましたとおり、本発明の消毒装置は殺菌性パルス光を用いて閉鎖空間内を隅々まで消毒することができるため、ヒトの手で清掃する場合に比べて拭き残しなどの心配がなく、病室などの清潔を保つことができるものです。

■概要

出願国:日本 発明の名称:調電力束を有するパルス光と、パルス間の可視光補償を伴う光システムとを利用した、室及び領域の消毒
出願番号:特願2017-515791
特許番号:特許第5593423号
出願日:特許第6313523号
公開日:2015年9月18日
公表日:2017年10月19日
優先権主張番号:US62/052,036
優先日:2014年9月18日
登録日:2018年3月30日
出願人:ゼネックス・ディスインフェクション・サービシィズ・エルエルシイ
経過情報:2018年3月30日に特許登録がなされ、現在も登録は維持されています。特許存続期間の満了日は2035年9月18日となっています。
その他情報:2014年9月18日の米国特許出願を基礎として国際出願がされたものです。日本のほか、米国、欧州、韓国、豪州、加国、英国で特許登録となっています。
IPC:A61L
発明の実施品に関する記事:日経経済新聞

■関連特許

その他、本件発明の消毒装置に関連する発明として以下の発明が出願されています。
これら複数の先進的な発明によって、本件発明の消毒装置はより信頼性の高い殺菌消毒を実現することができます。

関連特許1
関連特許2
関連特許3
関連特許4
関連特許5
関連特許6

<免責事由>
本解説は、主に発明の紹介を主たる目的とするもので、特許権の権利範囲(技術的範囲の解釈)に関する見解及び発明の要旨認定に関する見解を示すものではありません。自社製品がこれらの技術的範囲に属するか否かについては、当社は一切の責任を負いません。技術的範囲の解釈に関する見解及び発明の要旨認定に関する見解については、特許(知的財産)の専門家であるお近くの弁理士にご相談ください。

INTERVIEW

ライター

松野泰明


1976年宮城県生まれ
一般社団法人 発明学会 事務局長、『発明ライフ』編集長、発明アドバイザー
南米ブラジル、アマゾン川まで足を伸ばす釣りバカ。ブラックバスやライギョのほか、カツオ、マグロまで釣りのターゲットは多種多彩。学生時代に発明した釣り具のアイデアが、釣り雑誌に掲載、受賞したことがきっかけで、発明・アイデアに興味を持ち、発明・知的財産権の世界へ。
以来、約1万件以上の発明相談経験を通し、商品化を目指す発明家と、アイデアを求める企業との懸け橋として多くの発明成功に携わり、有名発明家やアイデアを採用する企業担当者との交流を持つ。
東京バイオテクノロジー専門学校、東京医薬専門学校、大阪ハイテクノロジー専門学校等の非常勤講師、特別講義の講師の他、全国各地の発明サークル「日曜発明学校」や、カルチャーセミナー等で、「発明・アイデア」に関する講演経験多数。
発明・アイデア、知的財産権アドバイザーとして、アイデア発想法や出願書類の書き方、アイデアの売り込み方、発明商品化の発明相談、セミナー講師等を通して、大衆発明家の育成に努めるほか、自身のライフワークである「釣り」を通して発明した、オリジナルの釣り具の販売なども行う予定。

≪主な著書≫
『ネーミング発想・商標出願かんたん教科書(中央経済社)』
『発明・アイデアの教科書(C&R研究所)』
『特許の手続きの教科書(C&R研究所)』。

——特許の概要 (商品説明、特許の活用方法など)をお聞かせください。

私が発明の世界にはいるきっかけとなったのが、上記の発明品です。
≪構造の説明≫ 略楕円形状の本体の一端に、ハリス止めを埋設し、残る一端に、プロペラをネジとカップワッシャーで固定した糸ヨレ解消具。

——アイデアのきっかけとなったエピソードなどはありますか?

私は大の釣り好きなのですが、「スピニングリール」というタイプのリールは、どのメーカーのリールも、ルアーに向かって「左回転方向」に糸ヨレが付いてしまいます。この糸ヨレが蓄積すると、ある時突然ドバっと糸がよじれて、絡んでしまい、釣りができなくなってしまいます。
そこで私は「投げて、巻いてくると、強制的に糸ヨレを戻す、右回転方向に自転する道具」を作ったらいいに違いない!と思いました。そして考えたのが、糸ヨレ解消具です。 ≪使い方≫
ヨレたラインにコブを作って、ハリス止めに引っ掛けたら、ルアーを投げる要領で投げ、まいてくるだけです。すると、糸ヨレ解消具は右回転し、左回転方向に付けられた糸ヨレが解消します。このような工夫は、釣り雑誌に投稿していたところ、なんと誌面で紹介され、金券といっしょに、編集長から嬉しい手紙をもらいました。これがきっかけで、発明と知的財産権に興味を持ち、現在に至っています。


——日頃の考え方やモノゴトに取り組む姿勢など、自分のどのような部分がアイデア発案につながったと思われますか?

趣味でも、家事や育児の日常生活や、仕事などで、「使いにくい、不便」などの課題に対し、「もっとこうしたら便利になるはず」と思ったら、試作品を作って実験をして、趣味や家事、育児を楽しみながら、繰り返し改良をしていけたことが、発案につながったと思います。
「不便・不満」に対して、「そういうものだ」と決めつけ、それら課題に耐え忍ぶ「おしん」のような人には、アイデアは出ないと思います。
「不便・不満」に対して、試作品を実際に作って問題を解決しようと、前向きに取り組み、行動に移せる人が、発明家に向いていると思います。

——アイデアの実現(開発)に関して、一番大変だったことはどんなことですか?どうやって乗り越えていったかなどエピソードもお聞かせください。

私の発明品「糸ヨレ取り具」は、約2年ぐらいあれこれ改良しながら完成させていきました。でも趣味の釣りの一部であり、苦労だとは思わず、楽しみながら改良していたのを覚えています。もし、これが仕事であり、給料をもらうための活動であれば、上司から、一日も早い完成を求められ、すごいプレッシャーになったでしょう。
私が今所属している発明学会の会員の方々は、私と同じように、趣味や家事の延長で発明くふうを楽しんでいるので、楽しみながら発明を楽しめると思います。

——新しいモノゴトを生みだすためのアドバイスをするとしたら、一番大切なことはどのようなことだと伝えますか?

自分の身の回りにある、実体験で感じた「不便・不満」に着目するとよいと思います。アイデアを求める企業の社長さんは、「消費者目線のアイデア」を求めています。実際に困っている現実から生まれた、アイデアは、リアリティがあり、使い込まれた試作品によって、その必要性が社長に伝わり、商品化されやすいです。
ポイントは、「自分が専門家でいられる分野」で、取り組むことです。 発明学会の会員は、これまでたくさんの商品化採用例を出してきました。そのすべてが、実体験から生まれたものです。
例えば主婦発明家が採用されるのは、ほとんどが「家庭用品」の分野です。台所や掃除、洗濯、フィットネスなど、自分が必要であり、当事者であるからこそ生まれた発明品ばかりです。

——企画のスタートから特許取得に至るまで、どれくらいの期間がかかると想定されていましたか?また、実際にはどれくらいの期間が必要でしたか?

私の「糸ヨレ取り具」は雑誌に投稿後、出願はもちろん、商品化をすることもしませんでした。でも、試作品そのままの形を出願しないでよかったと思います。
実は、その後、他の釣り具メーカーから、写真のような糸ヨレ取り具が発売されました。 私の発明品も、この商品も、どちらも投げて巻けば、右回転方向にぐるぐる回ってくるので、「右回転方向に自転させて糸ヨレを取る」という理論・効果・使い方は全く同じです。 しかし、唯一、構造が、私の発明品よりも圧倒的にシンプルで、量産性や操作性など、あらゆる点で優れています。
発明学会の会員相談で、実際に相談をしているときにいつも思うのが、皆さんは「第一次試作品」で満足して、その形で特許出願しようとする点です。
私は出願しませんでしたが、たとえば、もし出願するとした場合、試作品のそのままの形である、「略楕円形状の本体の一端に、ハリス止めを埋設し、残る一端に、プロペラをネジとカップワッシャーで固定した糸ヨレ取り具」として権利範囲を書いてしまうんです。 でも、これではだめです。部品点数が多いからコスト高になるし、取り付け作業が多いから、量産性にもすぐれません。 右回転すればいいのですから、「プロペラ」と限定したら、ダメ。 一体成型で作れる「本体に右回転方向に自転するように、溝を切ったもの」など、もっと量産性やコストの面にも目を向けないといけません。 特許出願をする際は、発明の効果だけでなく、モノづくりの現場を知り、日々コストダウンと収益性アップのことを考えている社長さんや開発課部長さんの立場に立って、量産性やコストの問題まで考えた特許請求の範囲にしなければいけないと思います。
でも、発明家は、最初に試作品を作ったものが頭にあるので、それ以外の「右回転方向に回転させる手段」まで、頭がまわらない結果、抜け道だらけの権利になってしまいがちです。 企業にアイデアが採用される際は、必ずと言っていいほど、構造が変わります。つまり、量産性に優れた構造に変更されたり、プラスチック製品の場合、より安い費用でプラスチック成型に必要な金型を作れる形状に、変更されるのです。 ですから、理想は、「出願してから売り込む」よりも、「まず売り込んで、企業に気に入ってもらい、企業が商品化する形状が決定したら、図面一式をもらい出願する」方法が、一番無駄がなく良いと思います。 発明者側で、製造の知識や金型の知識なんてありませんから、法律論で権利化することと、モノ作りの現場で、実際に機械を動かして製品を作っていくことを逆にしてしまうと、ムダが多いんです。 特許出願費用も、自分で書類を作ったとしても一件14,000円もかかるわけですから、一般の人には費用もあまりかけられないはず。それよりも企業と一緒に共同開発していくことが必要。そのためには、発明家と企業との接点を持つことができないと、商品化採用はなかなか難しいと思います。

——特許取得に至るまで、どれくらいのコスト(開発・特許申請の金銭面、労力面)が必要でしたか?
私は特許出願はしませんでしたので、出願に関する費用は掛かっていませんが、試作品作成やテスト釣行などにはお金がかかっています。 趣味の延長ですから、いくらお金がかかったかは覚えていません。 町の発明家が商品化採用を目指す際は、どうせお金をかけるのであれば、「出願」にお金をかけるより「試作」にお金をかけてほしいと思います。 試作品がない発明品は、ほぼ採用されません。また、実際に効果が確かめられないものも、採用は難しいでしょう。  たとえ見た目が悪くても、発明の効果さえ確かめることができれば十分です。試作品を見た企業の社長さんに、興味を持ってもらうためにも、試作品と実験は頑張っていただきたいと思います。

——特許取得に関して、一番大変なことはどんなことだと思いますか?
これも、私は特許出願はしていないので、発明学会の発明事業化の経験からお話しします。
特許取得よりも、売り込みをして、企業の社長の心を動かすことのほうが大変です。 そして、その商品を販売するために、マスコミを利用したりと、世の中に拡販していくことももっと大変です。 権利対策は、企業の社長の心を動かし、実際にその会社で採用する形が決まったら、その時に、その図面を使って出願すればよいだけですから、ある意味一番カンタンと言えるかもしれませんね。

——特許取得による結果どのように展開することができるかをお聞かせください。
これも、私は特許出願はしていないので、発明学会の発明事業化の経験からお話しします。
下記3つのパズルの発明品があります。
これはすべて異なる3社から商品化契約された、当会会員の発明品ですが、なんと一つの特許権から、3件もの実施料契約を結んでいます。特許権のライセンスは、特許権をただ売ることではありません。購買ターゲットに合わせた新事業を提案することであり、ある会社には「幼児用知育玩具」として、またある会社には「幼稚園小学校低学年向けパズル」として、そして最後は「大人用超難解頭の体操用パズル」として売るなど、顧客層の違いごとに契約を結ぶことができるわけです。 こうなると、一件の特許から、3倍の実施料を得ることができます。売り込みの際は、ここも見据えてプレゼンする必要があり、これを可能にする契約方法などもアドバイスしています。

——今後の特許の未来への展開・発展、もしくは、新たな企画の方向性など、これからの活動について、公開できる範囲でお聞かせください。
発明学会と、私松野のこれからの目標としてお答えいたします。
発明学会としては、発明家のアイデアに対し、「発想が面白い!ぜひわが社で商品化したい!」という会社と出会う機会を増やすことが、無駄なく商品化を目指す近道だと思っています。 そこで発明学会では、「身近なヒント発明展」「ミニコンクール」という、「アイデアを求める企業」が協賛する、発明コンクールを開催し、「企業」と「発明家」の接点を作っています。 プレスの歯が入らない。金型が作れないという問題は、発明家にはもちろん、我々だってわからないことがあります。 でも、身近な生活の中でひらめいたくふうが、大ヒット発明に化けるかもしれない。それをめざして、ひらめいたアイデアを特許出願していなくても応募ができるようにして、企業側に見てもらう機会を作っています。
発明学会は面白い商品がたくさん取材できるとあって、昔から交流のあるテレビ局があります。このマスコミを利用した試みも行っています。 当会では、商品化採用が決まったら、100名近い発明画家が参加する東京発明学校というイベントの中で、「公開契約調印式」を開催しています。 このイベント開催情報をマスコミに流すと、取材に来てくれるのです。 テレビで新商品が紹介されると、注文が殺到し、発売前に初速がついて企業は喜ぶし、発明家はテレビに出られて大喜び。発明学会も「町の発明家を応援する公益法人」としての名をアピールできてうれしいわけです。
私自身としては、試作品段階の相談から、出願書類のアドバイス、良さそうな企業の紹介から、商品化契約、マスコミ出演支援まで、新商品が誕生するすべてに携わる事ができて、とても楽しい毎日を送っています。 元々、工夫が好きで、釣りにものめり込んでいったわけですが、今、釣り具の発明に着手中です。ジュラルミンをマシニングで切削し、趣味のライギョ釣りで実釣による実験の最中です。 試作の段階で釣り具屋にも営業を行い、販売手数料の交渉も無事終わり、商品化された際は取り扱いも決まっています。 ぜひ今年中には、商品化させ、自分のアイデア商品を世の中に出していきたいです。

取材協力:一般社団法人 発明学会 https://www.hatsumei.or.jp/