電動歯ブラシは既に多くの愛用者を有する生活必需品のひとつです。もちろん、電動歯ブラシの前には手動の歯ブラシが存在しているわけですが、手動の歯ブラシと電動の歯ブラシの違いは、単に電動で高速に動く、ということ以外、何ら付加機能がないものが大半です(もちろん、ユーザが他の機能を求めていないということもあるでしょう)。
ところで、電動歯ブラシの多くは、ブラシ部分を超音波振動させることで効果的に汚れを落とす機能をもっています。このとき、ブラシを振動させて対象物(歯など)を磨くと同時に、ブラシからの振動に音声信号(楽曲信号)を含ませることで、対象物を振動させ、同時に可聴域の音を発生させるようにしました。
このような機能をもたせることで、歯を磨きなら同時に音楽を聞くことができるようになるのです。これにより、例えば小さな子どもが楽しく歯磨きを行うことができるといった効果を奏します。今回は、従来の歯ブラシの常識からは思いもよらない、ユニークな発明について、紹介していきます。
発明の背景
本発明は、ブラシに関します。掃除用のブラシも本発明の範囲内ですが、主に歯ブラシに関する発明です。
歯ブラシとしては、さまざまなタイプが販売されていますが、ブラッシング操作は面倒な作業であるため、楽にブラッシングするために、たとえば電動歯ブラシが利用されつつあります。
しかし、一般的に販売されている主な電動歯ブラシは、汎用されている手動の歯ブラシを単に電動にしただけの歯ブラシです。このような電動歯ブラシは、楽にブラッシングできる道具ですが、電動歯ブラシを使用しても、ブラッシングが単調な作業であるため楽しさがありません。
どんな発明?
発明の目的
上記のような問題点から、ブラッシング操作をおこなうユーザが楽しくブラッシングできる電動歯ブラシが要望されています。もし、ブラッシング中に音楽も楽しめる電動ハブラシがあれば、毎日のブラッシングが楽しくなると予想されます。
本発明は、このような問題点を解決できる新規な電動ブラシに関します。
発明の詳細
まず、概要を説明しますと、本発明のブラシは、ヘッド部およびボディ部を備えます。ヘッド部は、毛部、振動板、および、振動板にとりつけられた振動源を備えます。ヘッド部は、ボディ部に取り付けられています。ボディ部は、耳で聞こえる信号を含んだ供給信号をヘッド部へ伝えるための回路を備えます。
図1~図4は、各実施形態の歯ブラシの断面図です。図面ごとに縮尺を適宜変更しているため、すべての図において縮尺が必ずしも同じではありません。なお、歯ブラシ以外のブラシもあり得ます。
図1に示す構造例1を参照しつつ説明します。歯ブラシは、主に3つの部材で構成されています。1つ目の部材は、毛部を備えたヘッド部Hです。2つ目の部材は、持ち手の部分、つまり把柄部を備えたボディ部Bです。3つ目の部材は、乾電池で動く場合は不要ですが、充電可能なバッテリで動く場合に便利な充電台Dです。
ヘッド部Hは、毛部11、振動板12、圧電素子22、電極パッド23を備えます。
毛部11は、たとえば、直径が0.1~0.4mm程度のナイロン製の繊維集合体で構成されます。毛部11は、約30~40mmの長さの繊維を15~20本程度まとめて束にした後、束の真ん中で2つ折りにして、後述する振動板12の穴に挿入されています。すなわち、挿入後には、30~40本程度の繊維の束が1つの穴に入っています。挿入後の毛部11は、長さをそろえるためにカットされます。カット後において、振動板12から突出した毛部11の先端までの長さは、たとえば0.7mm~13mmです。平坦なカット面となるようにカットする場合、または、のこぎりの歯状のギザギザしたカット面となるようにカットする場合があります。
振動板12は、たとえばアクリルやポリカーボネート等のプラスチック素材で構成されます。振動板12の表面には、前述した毛部11を埋め込むために、直径1.3mm~2.1mm程度の穴が、おおよそ24個から36個程度設けられています。
この穴に上記の毛部11が押し込まれています。この振動板12において、たとえば、穴が設けられた面(穴側の面という)の縦の寸法(長さ)は、15~35mmです。横の寸法(幅)は、たとえば8~15mmです。振動板12の厚さは、圧電素子22も入れてたとえば2~10mmです。振動板12の内部には、圧電素子22が埋め込まれています。
圧電素子22は、板状です。圧電素子22の一方の面(以下、第1面という)は、上記の振動板12の“穴側の面”と対向しています。そして、第1面の縦の寸法(長さ)は、たとえば、“穴側の面”の長さ(15~35mm)の約0.5倍~0.9倍です。圧電素子の第1面の幅は、たとえば、“穴側の面”の幅(5~15mm)の約0.5倍~0.9倍です。圧電素子の厚さは、約0.3~2.0mm程度です。
圧電素子22は、供給信号(電圧)が印加されると伸縮または屈曲(湾曲)する素子で構成されています。素子は、たとえばセラミック製や水晶製です。
圧電素子22は、まず、第1面側が縦方向に沿って伸びる一方で、第1面とは逆側の面が縮むことにより、厚さ方向に湾曲します。次に、第1面側が縦方向に縮む一方で、第1面と逆側の面が縦方向に伸びることにより、先ほどと逆側に湾曲します。これを繰り返すことによって振動を発生させます。
圧電素子22は、後述する供給信号に応じて湾曲します。そして、圧電素子22の湾曲に応じて、振動板12が湾曲するように振動します。これにより毛部11も振動してブラシとして機能します。
電極パッド23には、圧電素子22からのびる電極配線が接続されています。電極パッド23は、振動板12の端部(持ち手側)で、表面に露出しています。振動板12の端部(持ち手側)をボディ部B(後述)のなかに挿入したときに、電極パッド23は、ボディ部Bの電極パッド33と電気的に接続されます。
ボディ部Bは、たとえば、持ち手となる把柄部31、制御系やメモリ等を搭載した基板32、電極パッド33、キャップ部40、バッテリ35、および、操作部34で構成されています。
把柄部31は、たとえば筒状です。上述したように、把柄部31の内部に振動板12の端部(持ち手側)が挿入されるため、把柄部31は、ヘッド部Hを支持する機能を有します。また、把柄部31は、ユーザの手によって把持される柄の機能を有します。また、内部に基板32やバッテリ35等を収納する筐体としての機能を有します。把柄部31は、たとえば、プラスチック材料、アルミニウムやステンレス等の金属材料、強化ガラスなどで構成されます。把柄部31の長さは、たとえば10cm~25cm程度です。筒状の把柄部31の外径は、約1~3cm程度であり、内径は、約0.5~2cm程度です。ヘッド部Hの端部を収納した状態では、水の侵入を防ぐために、基板32等を収容している空間は外界と遮断され、密閉されます。たとえば、ヘッド部Hの端部の外径と、把柄部31の内径とを合わせるか、または、隙間を埋めるパッキン等を用いることで、防水性を有しています。
基板32は、防水された筒状の内部空間に収納されています。基板には、図5のブロック図で表される各機能部が搭載されます。たとえば、基板32は、信号生成部36、駆動アンプ37、メモリ38などを搭載します。
電極パッド33および電極パッド23等を通じて、圧電素子22に駆動信号が供給されます。駆動信号は、たとえば図7,図8のような周波数特性を有します。
操作部34は、ブラシのON・OFFを切り替える電源スイッチ(たとえばボタンスイッチ)、および、音量調整する調整スイッチ(たとえば+ボタン・-ボタン)を備えます。これらのスイッチは、把柄部31に配置されています。ユーザは、把柄部31の表面にある各スイッチを操作できます。たとえば、把柄部31の表面に防水シートが貼付され、防水シートの内側にスイッチが配置されます。
バッテリ35は、把柄部31の内部に収納されています。バッテリ35は、電極パッド43から供給される電力を蓄えることができ、また、操作部34でのユーザの操作に応じて基板32へ電力を供給できます。バッテリ35は、たとえば乾電池です。
キャップ部40は、把柄部31の端部(ヘッド部Hが挿入される側とは反対側)に取り付けられます。キャップ部40は、バッテリ35や基板32を収容している内部空間を密閉します。なお、キャップ部40の露出面(外側の面)には、電極パッド43が設けられています。
キャップ部40の電極パッド43は、充電時における電力線回路の一部であり、充電台Dの電極パッド53からの電力を、把柄部31内部のバッテリ35へと伝達します。また、電極パッド43は、供給信号や音楽データ等をメモリ38に書き込むための信号線回路の一部です。
充電台Dは、筐体51、基板52、電極パッド53、およびプラグ54を備えます。充電台Dの筐体51は、ボディ部Bを乗せることができる平板を備えます。平板の上に配置された電極パッド53は、充電時において、ボディ部Bの電極パッド43と電気的に接続されます。筐体51の内部には、基板52が収容されています。基板52は、プラグ54から供給された電力を交流から直流に変換し、また、直流となった電力の変圧機能を備えます。
なお、ヘッド部Hの毛部11が摩耗や劣化して、交換が必要となったときには、新しいヘッド部Hだけを購入して、新たなヘッド部Hを使用することができます。
次に、図2を参照しながら構造例2を説明します。特に図1との変更点を中心に説明します。図1の構造例1と異なる構造は、特にヘッド部Hの構造です。
構造例2のヘッド部Hは、毛部11および振動板12で構成される第1パーツを備えます。また、構造例2のヘッド部Hは、筐体21、圧電素子22、電極パッド23、および配線等を有する第2パーツを備えます。
第1パーツと第2パーツとは接着部材13によって接合されています。接着部材13は、たとえば熱硬化性接着剤、UV硬化性接着剤、または、両面テープ等です。
第2パーツの筐体21は、内部に空間Sが形成されています。詳しくは、第2パーツの筐体21には、凹部があります。また、凹部を密閉する蓋部材があります。蓋部材の内側面には、接着部材13が貼り付けられ、この接着部材13に圧電素子22が取り付けられています。つまり、第2パーツの筐体21の凹部内には、圧電素子22が収納されています。凹部内に空間があるため、圧電素子22の湾曲が阻害されないように設計されています。すなわち、凹部の深さは、圧電素子22の湾曲時の最大振幅、圧電素子22の厚さ、接着部材13の厚さや収縮率を計算して設計されています。
なお、接着部材の代わりに、熱溶着や超音波溶着によって接着する場合もあります。
第2の構造例では、ヘッド部Hが、第1パーツと第2パーツとに分かれています。そのため、たとえば、毛部11が劣化や摩耗によって交換されるときに、ヘッド部Hの第1パーツだけを交換すればよく、摩耗した第1パーツとともに第2パーツを廃棄する必要はありません。そのため、環境に優しいブラシを提供できます。
構造例3は、毛部11、振動板12、接着部材13、筐体21、圧電素子22、電極パッド23などで構成されます。圧電素子22は、接着部材13によって振動板12に接合されています。特徴としては、振動板12は、毛部11の支持部材である一方で、圧電素子の支持部材でもあり、また、筐体21の蓋部材でもあります。このような構成であるため、圧電素子22が振動板12を直に湾曲させるため、構造例3は、図2の構造例よりも強い振動が得られます。ただし、構造例3は、図2のように2つのパーツに分かれていないため、メンテナンス性の点では、図2の構造例の方が優れています。図2の例と同様に、筐体21の凹部の深さは、圧電素子22の湾曲時の最大振幅、圧電素子22の厚さ、接着部材13の厚さや収縮率を計算して、湾曲を干渉しない空間Sとなるように設計されています。
さらに、図4を参照しながら構造例4を説明します。図4に示す2つの例では、図1,図2,図3の板状の圧電素子とは異なり、(平板状でなく)厚さを有する圧電素子22,または、22L,22Rを用いています。これらの圧電素子22,22L,22Rは、たとえば一辺の長さが1mm~10mmの四角形のセラミック層を厚さ方向に積層した焼結体(たとえば0.5mm~5mm厚さ)で構成されます。上述した圧電素子とは異なり、構造例4の圧電素子22,22L,22Rは、電圧の印加によって、厚さ方向に伸縮を繰り返します。図4の上側に示す例では、筐体21の空間内に配置された圧電素子22が厚さ方向に伸縮します(両矢印で示す)。この伸縮運動に対応して、振動板12が湾曲する振動をします。これを繰り返して、毛部11を振動させることができます。
また、図4の下側に示す例では、たとえば2つの圧電素子(右の圧電素子22Rおよび左の圧電素子22L)を用いています。両者が同じ動きをするように電圧を印加して、振動板12を厚さ方向に往復運動させる場合もあります。これを繰り返して、毛部11を振動させることができます。
一方、右の圧電素子22Rと左の圧電素子Lとに逆の電圧を印加する場合もあります。この場合、最初、一方の圧電素子22Rが厚さ方向に伸びたときに、他方の圧電素子L22Lが縮むことになります。これにより振動板12は、右側が上がり、左側が下がることになります。また、次の瞬間には、矢印で示すように、圧電素子22Rが縮むときに圧電素子L22Lが伸びることになります。よって、右側が下がり、左側が上がります。これを繰り返して、毛部11を振動させることができます。なお、図4のいずれの場合でも、振動と同時に音声を再生できます。
引き続いて、図5を示しつつ、回路構成等の電気的な接続関係を説明します。
充電台Dは、たとえば100V、1.5A、50/60Hzの商用電源に接続されるプラグ54を備えます。プラグ54から供給される電力は、基板52に搭載されたAD変換機および変圧器を通して、適切な電圧、たとえば5V~20V、1A~5Aの直流電流に変換されます。
基板52から供給される直流電力は、電極パッド53,43を通って、バッテリ35に蓄積されます。
ボディ部Bは、電極パッド43、操作部34、バッテリ35、メモリ38、信号生成部36、駆動アンプ37、電極パッド33等で構成されています。
操作部34は、たとえば、ブラシのON・OFF切り替えスイッチ回路、および、音量調整回路を備えます。さらには、楽曲を選択するためのスイッチ回路を備えます。
バッテリ35は、充電回路、過充電防止回路などを備える場合があります。
ボディ部Bのメモリ38は、圧電素子を駆動するための信号を記憶します。具体的には、可聴域において所定の周波数帯域からなる信号、すなわち可聴域の周波数において“連続的な広がりを有する信号”を記憶します。“連続的な広がりを有する信号”は、たとえばアナログやデジタルの音声信号です。音声信号は、楽曲信号や人間の会話データ、歌声等です。
メモリに記憶される信号は、たとえば20,000Hz超から100,000Hzまでの周波数に対応する超音波信号をさらに含む場合があります。
これらの信号を記憶するためのメモリ38は、不揮発性メモリです。たとえば、キャップ34を取り外して、外部へ持ち出し可能なメモリは、SDメモリカード(SDHC,SDXC、、、、)等です。SDメモリカードであれば、パーソナルコンピュータやスマートフォンを利用してユーザが楽曲を書き込むことができるため、歯ブラシによって、好みの楽曲を再生することができます。
ボディ部Bの信号生成部36は、メモリ38に記録された信号を、圧電素子22に供給するための供給信号に変換します。ただし、変換不要な場合もあります。そして、所定の周波数帯の強化等が行われたのち、駆動アンプ37、電極パッド33,23等を経て、供給信号が圧電素子22へと供給されます。
ここで、圧電素子22に供給する信号(供給信号)について詳しく説明します。
図6は、特定の周波数帯において強調補正をした場合、および、しない場合の、信号処理補正特性を示します。
たとえば図6に示す供給信号のうち、基本信号S1(点線)は、低音の40Hzから高音の20,000Hzまでの平坦な周波数特性を有する信号です。この基本信号S1と比べたときに、低周波数帯(振動に適した周波数帯)だけを強化した強化信号S2を圧電素子22に供給します。この場合、たとえば100Hzから500Hzまでの周波数特性を約20dBだけ強化した強化信号S2を供給します。このように、低周波数帯の信号パワーを局所的に上げることにより、ブラッシング効果を向上できます。
具体的には、メモリ38から出力された基本信号S1を、駆動アンプ37にかける際に、強化したい周波数帯域をイコライザにて強める補正を行ったうえで(信号生成プロセス)、補正された強化信号S2を圧電素子22に供給することができます。もちろん、強化信号S2自体を最初からメモリに記憶することもできます。
次に、図7を用いて、歯ブラシから楽曲を出力させる場合の供給信号について説明します。図7は、特定の周波数帯において強調補正をした場合と、しない場合とにおける、周波数特性を示します。
信号は、たとえば楽曲の基本信号S3です。楽曲の基本信号S3に従って、圧電素子22は、湾曲振動を生じます。圧電素子22の湾曲によって(たとえば図1~図3に示す)振動板12も湾曲します。このような湾曲を供給信号に従って繰り返すことで、楽曲が再生されます。楽曲の再生のためには、たとえば楽曲の基本信号S3と比べて、低周波帯(振動に適した周波数帯)だけを強化した強化信号S4を圧電素子22に供給します。この場合、たとえば200Hz付近から500Hz付近までの周波数特性を約20dBだけ強化した強化信号S4を供給します。このように、低周波数帯(振動に適した周波数帯)の信号パワーを上げることにより、ブラッシング効果を向上できます。
具体的には、メモリ38から出力された楽曲の基本信号S3を、駆動アンプ37にかける際に、強化したい周波数帯域をイコライザにて強める補正を行ったうえで(信号生成プロセス)、強化信号S4を圧電素子22に供給します。もちろん、強化信号S4自体を最初からメモリに記憶しておくこともできます。
また、操作部34の音量調整スイッチのモードを切り替えることが可能です。たとえば電源スイッチの長押しおよび短押しによって、モードの切り替えを行います。具体的には、音量調整モード、および、ブラッシングの強度調整モードに相互に切り替えが可能です。たとえば、音量調整モードのときに、音量調整スイッチが操作されると、特定の周波数に関係なく、圧電素子22に供給するパワーの大小が変更されて、楽曲全体のボリュームが上下します。一方、ブラッシングの強度調整モードのときは、特定の周波数帯(特に、低周波数帯)に対してだけ、圧電素子22に供給するパワーの大小が変更されて、ブラッシングの強度が上下します。
図6、図7に示したように、圧電素子22には、可聴域(低音の10Hzから高温の20,000Hzまで)の所定の周波数特性の範囲において、連続的な信号が供給されます。これにより、たとえば可聴域の様々な周波数の振動を含む楽曲が供給信号となって、ユーザに音楽を聞かせることができます。また、曲を様々に変更することで、様々な周波数帯域の振動を得ることもできます。よって、好みの音楽を聴きながら歯ブラシ操作が可能です。
図8は、可聴域の周波数帯と、超音波域周波数帯において動作するように設定された供給信号の周波数特性を表します。
圧電素子22は、可聴域(低音の10Hz~高温の20,000Hz)に加えて、超音波帯(20,000Hz以上)でも振動させることもできます。たとえば図8に示すように、可聴域(低音の10Hz~高温の20,000Hz)の連続的な振動に加え、50,000Hz付近で振動させることも可能です。この場合、超音波振動によるブラッシングが可能です。
次に、図1から図3の各構造例1,2,3に対応する周波数特性のグラフを例として示しつつ、各構造例の動作などを説明します。図9は、各構造例における周波数特性対フォースレベルを示すグラフです。
図9に示すように、いずれも歯ブラシをしながら音楽を聴くために十分な振動が振動板12において生じていることがわかります。
図1の構造例1では、圧電素子22が振動板12に埋め込まれているため、圧電素子22が湾曲すると、振動板12も湾曲します。この湾曲を周波数に応じて交互に繰り返すことで、振動板12が振動して歯ブラシとして使用されることとなります。同時に周波数に対応する音も発生するため、曲や声を聴かせることもできます。
図2の構造例2では、筐体12の蓋部材に接着部材13により圧電素子22が取り付けられているため、圧電素子22が湾曲すると、この筐体21の蓋部材も湾曲します。蓋部材は、接着部材13によって振動板12に貼り付けられているため、結果として、圧電素子22が湾曲すると、振動板12が湾曲します。このような圧電素子22の湾曲を交互に繰り返すことで、振動板12も交互に湾曲するように振動するため、歯ブラシとして使用可能となります。振動と同時に、周波数に対応する音も発生するため、曲や声を聴かせることもできます。また、振動板12を有する第1パーツ、および、筐体21を有する第2パーツが分離できるため、メンテナンス性に優れています。
図3の構造例3では、圧電素子22が接着部材13によって振動板12に貼り付けられているため、圧電素子22が湾曲すると、振動板12も湾曲します。このような湾曲を周波数に応じて交互に繰り返すことで、振動板12が振動して毛部11が振動し、歯ブラシとして使用可能となります。振動と同時に対応する音声も発生するため、曲や声を聴かせることもできます。構造例3では、構造例2よりも振動が強く出やすいというメリットがあります。
本発明では、ボディ部Bではなく、ヘッド部Hに圧電素子等の振動源を配置して振動板を湾曲させているため、ユーザは、歯にブラシを当てたときに歯の振動に起因する音(歯における骨伝導音)を聴くことができます。つまり、歯にブラシの毛部を当てた場合、当てない場合よりも、ユーザに聴こえる音が大きくなります。そのため、たとえば音を聞きたいという幼児の好奇心を、歯にブラシを当てたいという気持ちへ変えることができます。
以上の例では、具体例として歯ブラシを挙げましたが、たとえば鍋等の調理器具を洗うためのブラシやデッキブラシ等も本発明の範囲内です。このような場合、圧電素子やその他の構造部品を用途に合わせて大型化すれば、上述した基本構造を変える必要はありません。ブラシの毛部が鍋などにきちんと当たれば、鍋などが振動して音が聞こえるため、家事が楽しくなります。
ここがポイント!
上記の通り、本発明は、たとえば、ブラッシングしながら音楽を楽しめる電動歯ブラシを提供します。
本出願で特許となった本発明のポイントを解説しますと、ブラシを歯に当てると、骨伝導によって大きな音として聴こえる音楽などを楽しめる点に特徴があります。
本発明を要約しますと、本発明のブラシは、ヘッド部およびボディ部を備えます。ヘッド部は、毛部、振動板、振動板にとりつけられた振動源を備え、ボディ部に取り付けられています。ボディ部は、振動源に供給信号を供給する回路を備えます。供給信号は、耳で聞こえる周波数の信号(楽曲信号)を含みます。供給信号を振動源に供給するときに、200Hz~500Hz付近の周波数特性を少なくとも20デシベル(dB)強化した強化信号(楽曲信号)だけでなく、20,000Hz以上の超音波帯域の信号も含めた超音波信号も、振動源に供給します。
そして、振動源が振動して、毛部が振動するとともに、振動板から楽曲信号に基づく楽曲の音声が発生します。なお、ユーザが操作部を操作することで、強化信号の大小の調整が可能です。
本発明のもう1つは、ブラシの使用方法です。
本発明のブラシの使用方法では、上記のブラシを使用します。ブラシの毛部を振動させて対象物(歯や汚れた調理器具など)を磨くと同時に、ブラシの毛部から伝達された振動によって、対象物を振動させます。対象物の振動により楽曲信号に基づく楽曲の音声を発生させます。
未来予想
本特許は、京セラから出願されたものです。本来は、個人用製品(パーソナル製品)よりも産業用製品(ビジネス製品)に強みを持っている会社です。身近な個人用製品としては、携帯電話(ガラケーやスマホ)がありますが、意外な個人用製品もあるようです。本発明は、歯を通じた骨伝導で音楽を聞かせながら、子供の仕上げブラッシングを楽しく実施できる「Possi(ポッシ)」という商品に利用されていると考えられます。
本特許の発明は、個人用製品のなかでもオーラルケア製品に関するものです。家庭内でブラシを使った動作(特に歯のブラッシング)を楽しくおこなうために考え出されたアイデアであると思われます。様々な分野にすでに挑戦している会社ですが、ヘルスケア産業の分野にさらに挑戦しようという意図があるようです。
特許の概要
発明の名称 |
ブラシ及び交換部材 |
出願番号 |
特願2021-096781 |
公開番号 |
特開2021-137618 |
特許番号 |
特許第7084529号 |
出願日 |
令和3年6月9日 (2021/6/9) |
公開日 |
令和3年9月16日 (2021/9/16) |
登録日 |
令和4年6月6日 (2022/6/6) |
審査請求日 |
令和3年6月9日 (2021/6/9) 早期審査 |
出願人 |
京セラ株式会社 |
発明者 |
稲垣 智裕、日高 瑞穂 |
国際特許分類 |
A61C 17/34K |
経過情報 |
・本願は拒絶理由通知を2回受けた後に特許となりました。 ・本願は分割された子出願です。親出願も特許となっています。 |