UVロボット
光が医療現場を救う!
私たちが病気にかかり、また大怪我をした時に真っ先に駆けつけるのが病院。
この私たちの生命線である病院も清潔を保ってこそ、本来の役割を果たすことができます。しかし病院の清潔さを保つのは、とても大変です。というのも病室や手術室の数だけ消毒液を用いて殺菌しており、数が膨大なのに加え、拭き残しの可能性もあります。そこでより効率よく、より確実に消毒作業をということで、紫外線殺菌ロボットが発明されました。従来から紫外線を用いた殺菌の研究は行われていましたが、隅々まで消毒するのに1度に高い電力を必要とすること、携帯性、そして焼き付きの防止の3要素を同時に実現することが困難でした。本発明では、トリガ電圧回路構成、電源回路構成と占有センサを工夫することで、従来の懸念点をクリアすることができました。医療従事者の負担が軽減し、医療の現場がより安全で安心できる場となる日もすぐそこでしょう。
■従来の課題
本件発明は、病室などの閉鎖空間を紫外光で殺菌・消毒する光消毒装置、およびその方法に関するものです。
従来、パルス紫外光(以下、「パルスUV光」という。)を生成するパルス光源は様々な用途で使用されています。例えば、UV硬化樹脂などポリマーの硬化、食品の滅菌、廃水などの流体物の消毒、室内などの所定領域内の汚染除去などです。特に、パルスUV光は短時間で病原性微生物の数を大幅に低減することが知られているため、手術室や病室などの医療機関を代表とする所定領域内の消毒の用途に関心が高まっています。
一般的に微生物に対する殺菌効力は紫外電磁放射サブタイプC光(以下、「UVC光」という。)の線量に左右され、UVC光の線量はパルス電力とパルス周波数の影響を受けます。パルス電力とパルス周波数は逆相関関係(パルス電力が高いときにはパルス周波数が低く、パルス電力が低いときにはパルス周波数が高くなる)にあるため、パルス電力とパルス周波数を用途に応じて変化させることがされてきました。例えば、食品の滅菌を用途としてパルスUV光を使用する場合、食品表面には裂け目や孔があるため、裂け目や孔にUV光を侵入させるためにUVC光の線量を最大化します。UVC光の線量を最大化するためには、パルスあたりに比較的高いレベルの電力を使用します。一方、廃水の消毒など微生物を不活性化する用途でパルスUV光を使用する場合には、比較的低いレベルの電力が使用できますが、パルス周波数は高くなります。このように、パルスUV光の用途に応じてパルス電力とパルス周波数を変化させることで最適化しています。
しかし、手術室や病室などの所定領域内の消毒にパルスUV光を使用する場合は様々な制限を受けます。例えば、手術室や病室などの所定領域の隅々までUV光を伝送するためには比較的高レベルの電力を使用しなければならない一方で、実際の使用に際しては複数の部屋を移動して消毒作業をすることが想定されるため、領域消毒デバイスには携帯性が要求されます。従って領域消毒デバイスに使用されるパルスランプや電源のサイズが制限され、サイズの制限に伴い1パルスに対して生成できる電力レベルが低下します。また、一般的にパルスUV光を利用する場合3~60Hzで焼付きが誘発される虞があります。よってパルス光の暴露から部屋を守るため、室の遮断窓、または室分割器の防御ギャップが使用されることが多くありますが、完全には光を遮蔽することはできないため、安全性を考慮してパルス周波数を2Hz以下に制限することがあります。
■本発明の効果
本件発明は、前述したように手術室や病室などの所定領域内をUV光で消毒する装置が制限を受けることから、光消毒装置の効率及び効力を増大させることを目的としたものです。
■特許請求の範囲のポイント
本件発明は、殺菌性パルス光源を用いた消毒装置、及び病室など人が占有する閉鎖空間を殺菌・消毒する方法に関する発明です。消毒装置は、殺菌性パルス光源が20(+/-5%)Hz超の設定された周波数で光のパルスを生成し、消毒装置から少なくとも1.0メートルの閉鎖空間内の表面に、200nm~320nmの波長範囲の紫外光のエネルギ束が20(+/-5%)J/m2~1000(+/-5%)J/m2となるように設定された時間量において、設定された量の貯蔵されたエネルギが放出されるよう構成した点をポイントとしています。また、消毒装置は人の存在を検出する占有センサをさらに有し、占有センサが人の存在を検出すると、すぐに殺菌性パルス光源からの光の生成を阻害または終了することが可能な点もポイントとなっています。
■全体構成
本件発明の消毒装置を図1に示します。本件発明の殺菌性パルス光源22、従来の光消毒装置から生成される光のパルスより大幅に低い電力束となる20Hz超の周波数の紫外光パルスを生成するよう構成されます。このような殺菌性パルス光源22の機能を実現するため、消毒装置は更に、殺菌性パルス光源22にトリガ電圧を印加するトリガ電圧回路構成28と、電源回路構成30と、電源回路構成30および殺菌性パルス光源22に連結された1つまたは複数のエネルギ貯蔵要素26と、エネルギ貯蔵要素26と殺菌性パルス光源22との間に連結されたパルス幅回路構成32と、プロセッサと、プログラム命令とを備えた基部24を有します。さらに消毒装置は、リモートインターフェース40、電源コード42、ホイール44、占有センサなどを備えることができます。これらの構成は互いに有線または無線接続によって電気的に接続されて消毒装置20に設けられています。以下に細部について説明します。
【図1】
■細部
まず、殺菌性パルス光源22について図2を用いて説明します。殺菌性パルス光源22とは、病原菌を殺菌できる反復性パルス光を生成できるよう設計された光源であり、放電ランプ、発光ダイオード、ソリッドステートデバイス、エキシマレーザなどがあります。殺菌性パルス光源22から生成された殺菌光が消毒装置の外側へと投射されるよう、光源の一端を支持構造体の水平面に対して略垂直に配設することができます。また、殺菌性パルス光源22は、透過性の材料で作製された周辺障壁50の内側に配置され、周辺障壁50の一端には空気流入口52が、他端には空気流出口54が形成され、空気流入口52の近傍に配置された空気移動デバイス56が作動すると、殺菌性パルス光源22の周りにプレナム58が形成されるようになっています。殺菌性パルス光源22は作動時に相当な熱を生成するため、このように構成することで装置を冷却することができます。
【図2】
次に、殺菌性パルス光源22からのパルス光の生成を実現するため、基部24に設けられた各構成部品について説明します。
まず、消毒装置20が生成する紫外光パルスの周波数はトリガ電圧回路構成28によって管理されます。トリガ電圧回路構成28は、20Hz超の周波数の紫外光パルスを生成する際には、対応するトリガ電圧を殺菌性パルス光源22に印加します。好ましい実施形態としては、焼付きを誘発する安全閾値である60Hzを超える周波数となるようトリガ電圧を印加することができ、更には、コンセントから得られる交流電圧が変動することから、安全性を鑑み、焼付き誘発閾値をわずかに超える周波数である65Hz以上のトリガ電圧を殺菌性パルス光源22に印加することが可能です。別の好ましい実施形態として、光がヒトの眼には連続しているように見える周波数において、殺菌性パルス光源22にトリガ電圧を印加することもできます。
消毒装置20には更に、予め設定された時間量において設定された量の貯蔵されたエネルギを殺菌性パルス光源22へと放出する1つ又は複数のエネルギ貯蔵要素26およびパルス幅回路構成を有します。エネルギ貯蔵要素26はキャパシタを含み、パルス幅回路構成32はインダクタを含みます。例えば殺菌性パルス光源22がフラッシュランプの場合、フラッシュランプのトリガ電圧は、フラッシュランプ内にガスをイオン化し、キャパシタに蓄積したエネルギをインダクタによって管理された期間にわたってガスに向かって放出する役割を果たします。トリガ電圧回路構成28及びパルス幅回路構成32に印加される電圧レベル、並びに電荷を蓄積するために1つ又は複数のエネルギ貯蔵要素26に印加される電圧レベルは図6に示すとおりです。
【図6】
消毒装置20は上記1つ又は複数の構成部品に電力を供給するため、電源回路構成30に接続されたバッテリ38を有します。これにより、電力要件が非常に低い連続殺菌性光源を用いる場合にはバッテリより給電することが可能となります。なお、消毒装置20の電力要件が大きい場合には、消毒装置20に配設された電源コード42を用いて建物の商用交流電源から給電することもできます。
以上ご説明しましたとおり、本発明の消毒装置は殺菌性パルス光を用いて閉鎖空間内を隅々まで消毒することができるため、ヒトの手で清掃する場合に比べて拭き残しなどの心配がなく、病室などの清潔を保つことができるものです。
■概要
出願国:日本 発明の名称:調電力束を有するパルス光と、パルス間の可視光補償を伴う光システムとを利用した、室及び領域の消毒
出願番号:特願2017-515791
特許番号:特許第5593423号
出願日:特許第6313523号
公開日:2015年9月18日
公表日:2017年10月19日
優先権主張番号:US62/052,036
優先日:2014年9月18日
登録日:2018年3月30日
出願人:ゼネックス・ディスインフェクション・サービシィズ・エルエルシイ
経過情報:2018年3月30日に特許登録がなされ、現在も登録は維持されています。特許存続期間の満了日は2035年9月18日となっています。
その他情報:2014年9月18日の米国特許出願を基礎として国際出願がされたものです。日本のほか、米国、欧州、韓国、豪州、加国、英国で特許登録となっています。
IPC:A61L
発明の実施品に関する記事:日経経済新聞
■関連特許
その他、本件発明の消毒装置に関連する発明として以下の発明が出願されています。
これら複数の先進的な発明によって、本件発明の消毒装置はより信頼性の高い殺菌消毒を実現することができます。
関連特許1
関連特許2
関連特許3
関連特許4
関連特許5
関連特許6
<免責事由>
本解説は、主に発明の紹介を主たる目的とするもので、特許権の権利範囲(技術的範囲の解釈)に関する見解及び発明の要旨認定に関する見解を示すものではありません。自社製品がこれらの技術的範囲に属するか否かについては、当社は一切の責任を負いません。技術的範囲の解釈に関する見解及び発明の要旨認定に関する見解については、特許(知的財産)の専門家であるお近くの弁理士にご相談ください。