【コラム】アディダスがナイキを特許侵害で提訴

6月10日、adidasは自身が保有する9つの特許をNikeが侵害しているとして、米国テキサス州東部マーシャル支部の連邦裁判所に訴えを提起しました。なお、豆知識ですが、テキサス東部の連邦裁判所は、特許関連裁判において原告が勝利する確率が77%であることで有名な裁判所で、特許訴訟については全米1位の事件数を扱う連邦地裁です。特にマーシャル支部は原告勝訴率が高いとされ、世界各国の関係者が特許裁判をするならここ、という流れが常識となっており、人口25000人程度の田舎町ではあるものの、知財関係者の間では非常に有名な場所となっています。

今回は、adidas側が提出した訴えの書面から、Nikeのどのような製品・サービスが問題となっているか、みていきたいと思います。

adidas社の背景

社は世界最大規模のスポーツ用品およびアパレルメーカーの1つです。モバイルフィットネスやモバイル購入に関連するテクノロジーを開発し、また、アスリートにデータ分析を包括的に提供した業界初の企業とのことです。

1984年、adidasは、コンピュータが搭載された世界初のシューズを発表しました。adidas Micropacerと名付けられたこのシューズは、組み込まれたマイクロプロセッサを介したフィットネストラッキングを実現しました。

そして20年後の2004年、adidasは世界初のインテリジェントランニングシューズであるadidas_1を発表しました。このシューズは、履いているときの靴の快適さを検知し、自動的に調整を行うことを特徴としています。

一方、2015年に、adidasは公式アプリをリリースし、このアプリを利用することでユーザーは限定版の靴を予約して購入することができました。

Nikeが侵害しているとされるadidasの特許

訴えの書面によれば、以下9つの特許について侵害訴訟が提起されています。

1.米国特許第7805149号(2010年9月28日登録)
この特許は、runtasticGmbH社が独占的ライセンシーとなっています。発明のタイトルは「リアルタイムのインタラクティブ通信をサポートする位置認識フィットネス・トレーニングデバイス、メソッド、およびプログラム製品」です。

2.米国特許第7957752号(2011年6月7日登録)
この特許は、上記と同じタイトルがつけられています。「リアルタイムのインタラクティブ通信をサポートする位置認識フィットネス・トレーニングデバイス、メソッド、およびプログラム製品」です。

3.米国特許7480512号(2009年1月20日登録)
この特許は「ワイヤレスデバイス、プログラム製品、およびワイヤレスデバイスを使用してサービスを提供する方法」と題されています。

4.米国特許第8814755号(2014年8月26日登録)
この特許は「パフォーマンス情報共有システム及び方法」というタイトルです。

5.米国特許第8241184号(2012年8月14日登録)
この特許は「運動活動中にユーザーにオーディオパフォーマンスフィードバックを提供するための方法およびコンピュータープログラム製品」と題されています。

6.米国特許第9675842号(2017年6月13日登録)
この特許はruntasticGmbH社が独占的ライセンシーとなっており、タイトルは「ポータブルフィットネスモニタリング方法」です。

7.米国特許第10275823号(2019年4月30日登録)
この特許は米国adidas社が独占的ライセンシーとなっています。タイトルは「安全で認証されたオンライン予約のためのコンピュータ対応の地理的ターゲット製品予約のシステムと技術」です。

8.米国特許第8234798号(2012年8月7日登録)
この特許はadidasインターナショナルマーケティングBV社が保有するもので、adidas AG社が独占的ライセンシーです。タイトルは「インテリジェントフットウェアシステム」となっています。

9.米国特許第7188439号(2007年3月13日登録)
この特許はadidasインターナショナルマーケティングBV社が保有するもので、adidas AG社が独占的ライセンシーです。上記特許と同様、タイトルは「インテリジェントフットウェアシステム」です。

adidas側は、これらの特許に基づいて、Nikeが提供している『Nike Run Club』『Nike Training Club』『SNKRS』などのモバイルアプリ、そして、シューズのフィット感を自動調整する『Nike Adaptシステム』が、adidasの特許を侵害していると主張しています。

各特許の簡単な内容について

では、上述の9つの特許について、その内容をごく簡単に紹介します。adidasの出訴書類には、1つ1つの特許について、どのような審査がされたか、審査官が何を引例に拒絶したか、そしてそれをどのようにして克服し特許にしたかが詳細に記載されており、adidasの特許の正当性・有効性が主張されています。

1.2.の2つの特許は「ルート追跡特許」といえます。フィットネス活動のルートを追跡するためのシステムと方法に関するものです。ルート追跡特許の仕様は、「位置認識電子デバイス、特に、屋外活動のルーティング、スケジューリング、およびリアルタイム監視を容易にする装置、方法、およびプログラム」について開示されています。

3.の特許は、ルート追跡特許の関連特許です。トレーニング計画には、身体活動を説明する複数のトレーニングが含まれ、複数のユーザーがトレーニングプランを選択できるようになっており、このトレーニングを説明するデータがクライアントデバイスに電子的に送信されることが開示されています。

4.の特許は、フィットネス追跡に関する機能と改善点が開示されています。この特許の明細書には次のような説明があります。「個々のポータブルデバイスモジュールをさまざまな方法で組み合わせて、無限の多様な機能を提供できるシステムです。単一のコンポーネントを追加または交換するだけで新しい機能を追加できるポータブルシステムが必要です。新しいソフトウェアやその他のパラメータをダウンロードするだけで機能を変更できるポータブルシステムが必要です。さまざまな用途の機能を簡単に組み合わせることができるシステムが必要です。また、複数の使用分野にわたるデバイスの構築の規模の経済と範囲を使用して、すべての使用分野のデバイスのユーザーに利益をもたらすことができるシステムが必要です。」
このような課題に基づき、本発明では、1つまたは複数の主要機能を有する複数の個別ネットワークコンポーネント(INC)をワイヤレスパーソナルネットワークで使用できるようにし、INCをモジュール式に追加および削除して機能を追加または削除できるシステムについて開示されています。

5.6.の特許は、「オーディオフィードバック特許」です。ポータブルフィットネスモニタリングに関連する機能についての共通の仕様を共有しています。実施形態として、運動活動中にユーザに音声フィードバックを提供する携帯型フィットネスモニタリングデバイスが開示されています。

7.の特許は「製品発売特許」です。安全なオンラインコマースに関する機能について開示されています。小売店に物理的に出向かなくても、小売商品をリモートで予約するための安全なメカニズムをユーザに提供し、近くの小売店舗の在庫にある製品の在庫状況を即座に確認できる顧客モバイルアプリケーションが具体例として挙げられています。

8.9.の特許は、シューズを管理するためのシステムと方法に関するものです(シューズ自体の調整方法とシステム)。従来のシューズは、ユーザーの異なる目的に合わせて異なるシューズを選択しなければなりませんでした。例えばランニングであれば高いクッション性が必要ですし、バスケットボールであれば横方向の動きのサポートに高い剛性が必要だったりしたわけですが、そのようなシューズの性能特性を自動的に調整するシステムが開示されています。

adidasは、これらの特許技術について、Nikeが十分に把握しており、Nikeの侵害行為は故意であることを主張しています。なぜなら、Nikeが保有する特許にadidasの上記特許のいくつかが引用されているからです。また、adidasは同様の訴訟を2014年にUnderArmour社に対して提起しており、その訴訟は一般の報道機関やスポーツ用品業界で広く報道されたことも根拠としています。

adidasの要求事項

adidasは上記9つの特許侵害により多くの損害を被っていると主張しており、Nikeの提供する『Nike Run Club』『Nike Training Club』『SNKRS』などのモバイルアプリ、そして、『Nike Adaptシステム』の恒久的な差止命令を裁判所に要求しました。
同時に、弁護士費用を含む裁判諸費用に加えてadidasが被った損害賠償を求めています。

また、adidasは、自らの正当性を示すため、陪審裁判を要求しています。陪審裁判ではいわゆる職業裁判官ではなく、一般国民から選ばれた陪審員が判断を行いますので、常識的かつ健全な判断がされるといわれています。adidasのような一般向けスポーツ用品ベンダーにとっては、陪審裁判が有利と考えていると思われます。

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