多彩なアイデアを生む―転売抑止と話し方解析、2つのAIシステムー

今回のインタビューでは、株式会社エフィシエント様が2022年に開発した2つのAI改正システムを、同社の知財分野を自ら産み育ててきた代表取締役社長 脇坂健一郎氏に説明していただきました。

技術内容はもちろん、そのアイデアをどこから生み出すのか、そもそも特許を取得するということをどう認識しているのか、生み出す人の思考の神髄に迫ります。

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転売を抑止するAI画像解析技術

もともと機械からデータを取り出し活用するIOT分野の営業責任者を務めていた脇坂氏が、現在の株式会社エフィシエントを創業したのは2019年の4月。当時はまだ会社勤めをしながら自分の事業を構えていたところから、自社メンバーでプロダクトを作ってみよう、という上場に向けた動きの中で、2020年の3月に独立を決意した。

横浜に拠点を置きプロダクト開発を進める同社から、昨年2つの特許技術が発表された。1つがAI画像解析システムを用い、川崎フロンターレと共同取得した「ユニフォーム転売抑止システム」。もう1つが人の話し方を解析してAIがフィードバックを作り出すシステムだ。

川崎フロンターレとの取り組みは、神奈川県が行っていたアクセラレータプログラムでの出会いがきっかけだったそうだ。

「フロンターレさんはファンをとても大事にしているチームで、普段ファンにはなかなか会えないからと選手のみなさんがユニフォームにサインを書いてランダムに会員の方にプレゼントをするという企画を行っておられたんですが、ファンにとっては嬉しい品物であるがゆえに高額転売が横行してしまっていたんです。それをどうにかしたいのだけれど、ということで転売を抑止するシステム開発を担えるところを探される中で、弊社にもお声かけがありました。ユニフォームのサインと、転売されているものの画像情報を突き合わせることができる企業がなかなかみつからなかったそうなのですが、お話を聞く中で、できないということはないぞ、工夫次第だなと思って手をあげました。」

ちょうど同時期に建築現場の外観検索の自動化などを提案していたこともあり、プランが描けた脇坂氏は早速システムの構想を練った。概要はチームのファンクラブのデータベースを抑止エンジンに組み込み、プレゼントを管理した上で、サポーターの方からの通報などの情報を受けたネット上の画像に対してAIが画像データベースと突き合わせることで、転売元の会員を特定できるようにするというものだ。

システムは2段階で動いている。

「1つめはサインが入っている画像箇所を切り出して特徴度をはかる箇所を指定する、サイン切り出しエンジンです。その後に類似度の検出をする、類似度検索エンジンがあり、WEBの画像を読み込んで類似度を表示してくれます。斜めに撮影されていたり、画像に見切れがあったりしても高精度で判断をしてくます。特許において新規性がより認められたのは1つめの『切り出す』というとことですね。文字とかサインを解析する技術の特許はすでに多数出されていたので当初は難しいと弁理士の方にも言われました。そこで発想を切り替えて、元々印刷されているロゴを基準にして、サインが入っている位置座標を比較することで、同一のものなのか判断できる、という部分に新規性を見出しました。柄や文字など、座標の基準となるものがあればなんでもいけます。逆に、まったくの空白にサインすると特許の範囲外となりますね」

この仕組みが存在していること自体で、ファンを思って送り出したものが意図せぬ形で転売をされるという悲しい行為の抑止力になるのである。厚意での譲渡や年月が経過してからの適切な範囲での有償譲渡などまでを取り締まる目的ではなく、高額で意図せぬ転売が行われ、正しく応援をしているファンに嫌な思いをさせる状況に歯止めをかけたい、というチームとエフィエントの想いは一つだ。

「他競技なども含め、プレミアがつくことを良し、とする文化もあるかとは思います。一方で悪質な転売については同じような課題を感じている組織もありますが、プレゼントのデータベース管理が手間だ、という反応も正直ありますし、トレーサビリティの意識がまだ浸透していなかったり、単純に労力がかけにくい部分なのかもしれません。」と、同技術の活用については慎重な検討を進めている。

話し方分析の可能性

構想から着地まで約3カ月という短期間で駆け抜けた画像解析の新技術であるが、特許自体に元々興味があったというわけではないそうで、関心を持つきっかけになったというもう1つの特許についても紹介してくれた。それがAIによる「話し方分析」の技術だ。

人が話して様子の動画に対し、視聴者が瞬間瞬間の評価や感想を反映できるこの技術は、一見既存の「いいね」や「お気に入り」の機能に似ているようにも感じるが、それらが動画全体への総評であるのに対して、特定の瞬間の良し悪しの声を拾い、時系列にフィードバックできるというのがこの技術の特徴である。そうして人の話し方を評価して可視化できる仕組みは、すでに広範な活用の可能性を検討している段階だそうだ。

「いいね、悪いね、という反応のタグづけでななく、瞬間ごとの評価をグラフ化し、それを押すと指定の時間に飛ぶ機能なども実装しています。グラフで全体のどの部分に人が注目しているのかがわかれば、そこにニーズやマーケットを見出してスポットを当てたものづくりができます。さらにそこから評価の良い箇所にすぐリンクできれば、たとえばe-learningにおいて、視聴者は答えとなる部分や繰り返し復習されている箇所にピンポイントにアクセスすることが可能になります。作り手としても、『ここがわかりにくいんだな』というフィードバックを得ることができます。」

現在は特に、面接場面でのバイアスをなくすための動画の記録・評価という活用に注目しているそうだが、「話し方評価」は考えるほどに活用の市場が広く、人が話す場であれば広く適用できる魅力がある。

「この特許を取ったときに、特許って面白いんだなって思ったんです。技術があって、そこからの展開があって…。これがきっかけで関心を持ちました。」

今後の特許技術の活用について

現在は、1つめの画像解析のエンジンを使った、遺言状の偽造防止のシステムを含む資産管理のソリューション構築に取り組んでいると語る脇坂氏。

「グッズの転売と遺言状となるとまったく違う分野だと言われるかもしれませんが、根本がデータの取り扱いですから、そのデータの組み合わせで何を生み出すのかという話だと思っています」と伸びやかに話すその発想力はどこから来るのか尋ねてみると「日々の妄想ですね」と、朗らかに頷く。

「技術が何に使えるかなという妄想を毎日繰り広げています。1人だけではなく、いろんな人にお話しをして壁打ちをして。私はダメなタイプだと思うんですけど、遊びみたいな感じなんですよ。会社名の“efficient”は、効率的という意味なんですが、ビジネスは欲を満たすためにあると考えているんです。楽したいな、寝ていたい、面倒くさいな…、というところを、『じゃあそれをどうするか?』と解決方法を考えるとビジネスになる。まじめに考えすぎるとシステムになるけど、これって本当にできるかな?というところまで妄想を膨らませる…そうすると、案外できるんですよね」。

朝ランニングしているときに着想することが多いそうで、頭がスッキリ冴えた状態で思考を重ねるのにブレイクスルーの引き金があるようだ。

「今後は、一緒にやれる企業さんが出てくると嬉しいなと思います。個人情報を預かるサービスなら、単独ではなく母体が大きいところと動かせる方がいいですし、弊社としても1ソリューションで上場していくのではなく、『ここにお願いすると、いろいろできるな!』と思ってもらえるような存在でありたいですね。知財活用は、ディフェンスの要素が強いです。今の私のポリシーである『取れそうなものは取りたい』という思考がベースですが、やっぱり大企業と組むときに商標や特許を持っていると対等に渡り合う武器になります。それにもう一つ、技術力の証明にもなります。『こういうのができますよ』と話しても、ふーん、外注じゃないの?となってしまうところを、特許があることでちゃんと自社で開発したということが証明できますし、その分野のある程度の先駆性の確立ができます。端的に言えば、信用を得られるんです。特許を取っても意味ない、取ってどうするの?と思っている人はいるでしょうけど、私はそうじゃないと思いますね。」

特許取得の目的や戦略、活用のベクトルは組織によって異なるが、そう力強く語る脇坂氏率いるエフィシエントが、より大きな世界にその技術を羽ばたかせる揚々とした羽音を聞いた。